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眠れぬ夜には、決まって”月”と語るドラクール。
その”月”が、柔らかく彼に寄り添った。
「どうしたの?私の可愛い坊や。」
「坊やじゃない。」
不愉快そうに金色の瞳を睨み付けるが、カーミラの前では彼のそれは大した威力は持たなかった。
「あんたは本当に何者なんだ?」
「私は君のものよ。それだけの存在。」
毎回の決まり文句に、ドラクールは些かうんざりして溜息を落とした。
「あんたは俺の味方なのか?」
切な気に問うドラクールの表情にもカーミラは躊躇いなく答える。
「そうよ。この世の全てが信じられなくなっても私だけは信じていいわ。」
震えながら自身の両手を固く握るドラクールに対し、カーミラはより優しく彼の肩を抱いた。
「頼みがあるんだ。助けてくれ。」
絞り出す様な痛々しい声に、彼女はやはり躊躇いなく頷いた。
「君の望むままに。」
カーミラにとって願いの内容は問題ではない。例えどんな願いであっても、全力で応えるのみである。
彼女のそれは決して男女の情愛ではない。
計り知れない程に深い、慈悲と敬意に似た感情だった。
「俺を…、自由にしてくれ。」
更に苦痛滲みた口調を気に留める様子もなく、カーミラは賛同した。
「此処からは簡単に出られるわ。その後は?」
「もう戻りたくない。何があっても。」
「討手と闘う覚悟は?」
「俺は問題ない。ただ━━、」
言い淀んだドラクールの言葉を遮り、カーミラは言い放った。
「あの兄弟ね?」
一瞬彼の表情は強張った。
「…そうだ。」
「瞬きの間に、惨殺されるのがオチよ。君はそれでも構わないと?」
「だから力を貸してくれと頼んでいるんだ!」
声を荒げるドラクールを制止しようと、彼女はそっとその細い指を彼の手に重ねる。
「残念ながら私は万能の神じゃない。」
正面から視線を合わせ、諭す様にゆっくりと首を横に振った。
「可能な事には最善を尽くすわ。けれど、結末は既に見えてしまっている。」
この場から去っても何れは捉えられ、あの兄弟やカーミラは抹殺されるだろう。
そしてドラクールは前例がない程の拷問の末に四肢を断たれ、二度と同じ企ては出来ない様にされるに違いない。
「他の手を考えては?」
カーミラの言葉に、ドラクールは心底落胆した。




