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ドラクールは消化しきれない感情を抱えたまま、眠りにつこうと努力した。
しかしつい先刻まで眠っていたうえに、全く体力を消耗してもいない。
彼に睡魔が訪れる筈がないのだ。
必然的に彼は、徐々に深い苦悩の闇に飲まれて行った。ベネディクトの言葉が嫌でも脳裏に繰り返し鮮明に響く。
それは白い絹にこびりついて落とせない染みの様に、緩慢にそして確実に広がって行った。
━━俺が偉大だと言うならば、何が出来るのだろう。
自身が命の危機に晒される様な事は一切ないが、代わりに何も与えられてはいない。
自由は当然、金品も。
ドラクールには最低限の衣食住が保証されているだけだった。
常に満たされないながらも、それで充分と思っていた。これまでは。
独りだったから。
━━俺は結局、何もしてやれないじゃないか…。
幼い彼らにその場しのぎの食料を手渡す事しか出来ない。
人並みの生活など、させてやれる術を彼は持たず。
━━そりゃそうか。俺自身が人並みの生活なんか、出来てやしないからな。
少しの自嘲の後、ドラクールは考えた。正確には、妄想をしていた。
━━もしも、
もしも自分に、先見の能力がなかったら。
もしも自分の髪色が、漆黒でなかったら。
何処かで平穏に暮らしていたのだろうか。
両親と共に。更には、兄弟と。
或いは、恋人とかもしれない。
ドラクールはいつかの夜に出会った、翁の言葉を思い出していた。
『何かを守りたいと、必ず思う』
彼は漸く、闇の中で立ち上がる事が出来た。




