3
「俺を生かしておいて、あんたは得するのか?」
口の端から鮮血を流し、フェンヴェルグに問うドラクール。
「するとも。」
嫌味をたっぷりと含んだ微笑を浮かべるこの男が主君の真の姿だと、民衆が知ったらさぞ絶望する事だろう。
「どれだけ平和を約束された地であろうとも、あんたが王じゃ報われねェな。」
口内に止めどなく溢れる赤い体液を吐き捨てると同時に、心中に渦巻く悪意ある感情をも吐き出した。
「我は此の地を守り抜く。何人たりとも、侵させたりはせぬ。」
「好きにすりゃいいさ。」
情勢にも政治にも興味の欠片もない彼は、少しも認識しなかった。
フェンヴェルグの、碧空を思わせるその瞳が微かに揺らいだ事を。
「それは?」
ドラクールは耳の傷を指差され、顔面を蹴られた事実も足して不快感と嫌悪感をあからさまに表した。
「…ヒステリーだよ。」
小馬鹿にして笑い飛ばされるとばかり思っていた彼は、
「そうか。」
とだけ短く答えたフェンヴェルグに肩すかしを食らい、それはそれで非常に不愉快なものであった。
暫くの沈黙の後、ドラクールは器用に立ち上がりながら口を開いた。
「それより、その椅子一つで何万人が飢餓から救われるんだろうな?」
フェンヴェルグが解せない表情をしながら言葉の真意を問いかける前に、彼は腹いせとばかりに扉を足で蹴り開けた。
ルーヴィンの制止は全く間に合わず、役に立っていない。
ドラクールは僅かに歩きにくそうにしながらも、艶やかな黒髪を颯爽となびかせて去って行った。
唖然と立ち尽くし冷たい汗が頬を伝うルーヴィンの背中に、フェンヴェルグの豪快な笑い声が降り注ぐ。
「脆い錠だな。作り変えさせろ。」
廊下の絨毯の上には砕け散った金属が光っていた。




