2
「それが、間違いなく俺だと?」
内心、ドラクールは非常に面倒になっていた。
だがこの”化かし合い”、先に疲労した方の敗北だと彼は知っている。
「他に黒髪の男などいない。」
それは何度も何回も繰り返し執拗に聞かされていた為、分かりきっていた。
事実、街に出ても自身と同じ髪色の者には一度も遭遇した事がない。
「隣にいるじゃねェか。」
ドラクールは顎で犬を指した。
王座より離れて扉付近で頭を垂れて跪いていたルーヴィンは、不謹慎にも込み上げて来た笑いを堪える。
━━そりゃ雌だぞ。
しかし次の瞬間、鈍い音が空間に響いた。
余りの大きな音にルーヴィンは反射的に顔を上げ、何かを考える余裕などなく走り寄った。
自由にならない体を強烈に蹴り上げられた為、呻きながら床に這い蹲るドラクールの元へ。
「去ね。」
ルーヴィンの手がドラクールに触れるか触れないかの瞬間、フェンヴェルグは冷たさを象徴する色である碧を彼に向けた。
選択肢は引き下がる以外にある筈もなく、ルーヴィンは再び扉の近くへと戻って行った。
「貴様になど、何もないのだぞ。」
価値。
権利。
理由。
意味。
その全てが、彼には無い。
「生まれ持ったその能力を、除いてはな。」
何事もなかったかの様に、王座から見下すフェンヴェルグ。
苦痛に悶え耐えながらも、憎悪の念に駆られるドラクール。
「少々は我に感謝しても良かろう。それとも、あのまま野垂れ死ぬ事を望んでいたか?」
高らかに笑うフェンヴェルグに対し、これまでと違う感情がドラクールの中に芽吹いた。
その名は、殺意。




