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「お兄ちゃん、血が出てる。」
ドラクールの傷に気が付いたのはハクだった。
「あっ、本当だ。消毒しなきゃ!」
慌てて立ち上がったリサを制止する。
「こんなの大した事ない。」
その時温もりと重みを、彼は膝の上に感じた。
「ダメだよ、バイキン入っちゃうよ。」
そこには何の翳りも、汚れも、邪も悪も。一切の負がない、澄み切ったハクの眼差しがあった。
「平気だよ。」
ドラクールはそっと手を置いた。ハクの頭に。
そして途切れ途切れ、言葉を紡ぐ。
「あり…がとう。」
もしかしたら、初めて発した言葉なのかもしれない。
格別、居心地が悪かった訳ではない。
ただ何故かドラクールは心を射抜かれた様な気持ちになり、パンの袋を無言でリサに手渡すとその場を立ち去ろうとした。
「ちょっと、コレ?」
背後からのリサの声に振り向かず、ドラクールは言った。
「ちゃんと買った物だ。」
彼はリサへ告げる偽りに重圧を感じ、殊更に居たたまれなくなり足早に森を抜けた。
歩く振動に合わせて揺れる、ポケットの中の耳飾りを不快に思いながら帰路につく。
━━捨ててしまいたい。
彼のそれは、果たして何をだろうか。
耳飾りを指してはいない事だけは、明らかだった。
慣れた固いベッドに潜り込んだが、眠れぬ長い夜を迎える羽目になった。
何故、彼らはあの様な暮らしをしているのだろか。
何処かでたまに耳にする国内の情勢からは、とても福祉を怠っている様には思えない。
とは言ってもそれはどれも国王を支持する意見ばかりだが、それを差し引いてもドラクールには解せなかった。
━━文句の一つでも言ってやろうか。
名を呼びたくない程に嫌悪している男に、彼は会う決心をする。
そして朝日が顔を出す頃に漸く、眠りにつく事が出来た。




