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「も、も、申し訳ない!本当に申し訳ない!」
慌てふためき、必死に謝罪を繰り返す店主。
今更ながら、ドラクールは己の迂闊な行動と
己の運命を呪った。
「何でもいいから、それ売ってくれ。」
彼は苛つきを隠さず、店主に詰め寄る。
「いいえ、いいえ、とんでもない!明朝お届けに参ります、どうかそれまでお待ち下さい!」
それこそまるで金銀財宝かの如く、しなびたパンを奪い合う二人。
その勝負は体格の良い店主の方が有利だった。
それでもドラクールは食い下がる。何せもう、酒屋を除いた他は閉店してしまっている。
「王族の方にこんな物差し上げられません!!」
業を煮やした店主の言葉に、彼の怒りは頂点に達した。
「一体何が、何処が違うって言うんだ!?」
ドラクールは力の限り、右手で耳飾りを引き下ろした。
「俺だって同じだろう!!」
破れた耳朶からは、鮮やかな血液が滴り落ちる。
血塗れのその手を差し出すと、店主は震えながら袋を差し出した。
「騒いで悪かった。」
ドラクールは再び髪を下ろして、更に一枚の札をカウンターに置くと店を後にした。
その場に残されたのは、
汚れていない札が一枚。
赤黒く濡れた札が一枚。
床に垂れた数滴の血痕。
そして顔面蒼白の店主。
ドラクールは怒りを踏み締めるように、夜の町を歩く。
ふと立ち止まって空を仰ぐと其処には、満月があった。
人工物かと錯覚しそうな程に、整った金色の円。
彼にはそれが、この世界の過去も未来も全部を見知った神の瞳の様に感じられた。
そして現在はその瞳に自身が映っている事を祈り、同時に僅かな嫌悪も覚えた。
━━痛ェ。
酒場で一杯呷った所為で、彼の耳は余計に熱を孕んでいる。
少しそれを庇いながら、最初よりは慣れた足取りで道無き道を進んで行った。




