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「よし。」
ドラクールは小さく呟くと立ち上がり、酒を求めて歩き出した。
その途中でパン屋が視界に入り、自然と足を向ける。
「もう終わりか?」
彼は前髪を触りつつ顔と耳飾りを隠し、扉の外から遠慮がちに問う。
「ああ、売れ残りで良ければ。」
気の良さそうな大柄な店主は、店じまいの準備をしているところだった。
店造りはこぢんまりとしているが清潔で、柔らかい灯りが残ったパンを照らしている。
「お兄さん、半値でいいよ。」
店主はドラクールの背中にそう、声をかけた。
今夜の彼は珍しく金に困っていない。片っ端から全てを取り店主の元に持って行った。
「これ全部かい?」
ドラクールは伏せ目がちに無言で頷く。
「毎度あり。」
店主の方は当然満更でもなく、売れ残りとはいえ丁寧に梱包を始めた。
「はい、お待たせ。ええと。」
通常価格の半分を頭の中ではじき出しながら、店主は顔を上げてドラクールに商品を手渡す。
彼は左手でそれを受け取り、右のポケットに無造作に突っ込んである札を取り出そうとした。
右下を向き中を弄る。
長い黒髪が、揺れた。
それはサラサラと額、頬、そして肩を滑り下りて視界を塞いだ。
━━邪魔くせェ。
自身の一部に文句を言いつつ、顔にかかった髪を耳にかける。
あまりに乱暴にしまったせいで札はくしゃくしゃに何枚かが重なっていた。
ドラクールは少し手間取りながらもその内の一枚をカウンターに置いた時。
「あ…あ…、ひぃいっ!」
店主の裏返った素っ頓狂な小さい悲鳴に、彼は驚いて目を丸くする。
「とんでもねえ、金なんか要りません!ああ、それよりそんな物を差し上げるなんてとんでもない!」
ドラクールから袋を奪おうとした店主の行動に、彼は更に目を見開いた。




