6
林檎一つで、子供達の胃袋が満たされる筈がない。
それでも無邪気な笑顔をドラクールに向ける。
「お兄ちゃん、ありがとう。」
「ありやっと!!」
「…え、いや…。」
子供と接した事のない彼は非常に戸惑った。こんな場面に遭遇した経験が一度もない。
まるで物珍しい生物を見ているかの様に、子供達の行動を逐一目で追っていた。
「面白いの?」
少女には反対にそんなドラクールが珍しく見えた。
「面白いというか、初めて見た。」
「何が?」
「子供。」
バラバラに動く子供達を追い、ドラクールは忙しなく視線を走らせていた。
「じゃあ、何なら覚えてるの?」
「俺は記憶喪失じゃないよ。」
「え?だって自分が何者か分からないって。」
「そういう意味じゃない。」
不思議そうに首を傾げる少女に説明するには、些か骨が折れそうだ。
「俺が分からないのは、自分が生まれた理由だ。それを知りたい。」
「難しい事はあたしには分かんないな。」
暫く黙り込んでいた少女が、不意に口を開いた。
「だって、今を生きるのに精一杯だもん。」
少女がどんな事情から、この様な生活をしているかは不明である。
ただその瞳には一切、社会や他人への恨み辛みは浮かんでいない。
その姿とは真逆に、心に汚れはないのだろうか。
ドラクールは屋根のある場所で眠り、一日に三回の食事が出来る自身を疑問に思った。
「あんた偉いな。凄いよ。」
安っぽい慰めはしたくないと思いつつも、意志に反して出た言葉だったにも関わらず。
少女はそれに、涙を零した。




