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まだ僅かに体が重かったが、ドラクールは部屋を出るべく動き出した。
テーブルに置かれていた青林檎を手土産に。
普段より時間が早い。数えられる程少ないとはいえ、幾人かの町民とすれ違う度に彼の不快指数は増して行った。
それを拭い去りたくて、またあの洞穴へと向かった。
「えッ!?」
物音に驚きながら振り返るあの少女。
泥だらけでたどり着いたドラクール。
両方が同時に声を出す。
「何しに来たの!?」
「何だそれ!?」
それは、お互いにお互いの状況が信じられないといった感じだ。
「弟と妹だよ。」
しかし紹介するような素振りではない。少女は幼い兄弟達を自分の背中に隠した。
「そうか。」
少女のこの態度を特に気に留める事もなく、ドラクールは歩み寄って青林檎を手渡した。
「リンゴだ、お姉ちゃん!」
「ダメ!!」
少女の手に載せられたそれを弟が奪おうとする。
「おなかすいたよー!!」
幼子達は大声で泣き出した。
「何者なの、一体。」
耳をつんざくような泣き声をものともせず、少女はドラクールを猜疑の眼差しで射抜く。
「知らない。」
彼は改めて悲観した。
「俺が一番、自分が何処の誰かを知りたいんだよ。」
証明出来る物を何一つ持たない、自身を。
「記憶喪失なの?」
呆気にとられた様な表情の少女に対し、ドラクールは屈託なく笑った。
「とりあえず毒なんか入ってないから。」
猜疑心など一切持たぬ幼子達は、それにかぶりついた。




