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黒き太陽~story devoted to you~  作者: 鷹
倒行逆施
180/371

~against the right reason~

夜空に、弦月。




「はあ…っ、はあ…っ。」


何処をどう走って来たのか、リュユージュには全く分からなかった。


それ以前に、今し方までの行動の記憶が断片的にしか残っていなかった。


彷徨った挙げ句に辿り着いた目前の石造の壁に、強く爪を立てる。


「くっ…!」


がりっという嫌な音と同時に、爪と肉の間に壁の石が食い込んだ。


「畜生…!」


それでも彼は構わず、壁を引っ掻き続ける。


「畜生…!畜生…!!」


次第に指の先から、血が滲み出て来た。しかし彼の行為は激化する一方だった。


「畜生ぉおぉーッ!!」


咆哮の様な大声を上げると拳で壁を殴り付けるだけに留まらず、遂には頭を叩き付け始めた。













「ッせーよ!!」


突然降って来た怒声に、流石のリュユージュと言えども酷く驚愕した。


「な…っ!?」


声が聞こえた頭上に彼が目を凝らすと、窓から顔を覗かせている男がいる。


「人が寝てるってのにぎゃーぎゃー騒ぎやがって!何だってんだよ、この糞ガキ!」


彼は窓外に身を乗り出すと、外壁を伝ってリュユージュの目前に姿を表した。


ただでさえ酷く思考が鈍っている今、不意を突かれたリュユージュは護身の為の抜刀すら忘れ、呆然と立ち尽くす事しか出来ずに居た。


戦場ではないとは言えども、その迂闊な行動は訓練された隊員とは到底思えない程だ。


「全く…。こんな夜中に一体何なんだ、あんたは。」


リュユージュは言葉すら発する事も出来ずに、一歩また一歩と自分に近付く男をただ凝視しているだけだった。


「何とか言え。糞ガキ。」


口調は乱暴だが、男から殺意や害意は一切感じられない。


リュユージュは本能的に危険はないと悟ると、彼に向かって手を伸ばした。


「これ、本物?」


そして惹かれるまま、その長い黒髪を引っ張った。


「おい、何すんだ!」


「初めて見た、黒いのなんて。染めてるの?」


「離せ!染めてなんかねェよ。」


男はリュユージュの余りにも遠慮のない行動に圧倒され、怯んだ。


「君、名前は?」


「あんた、どんだけ図々しい性格してんだ…。」


すっかり気勢を削がれた男は力無くそう呟き、呆れ返っている。


「あ、僕?僕はリュユージュ・ルード。」


「聞いてねェし。」




男は引き返すと、今下りて来た外壁を器用に上って行った。どうやら細い縄が垂れているらしい。


彼が窓から室内に入ると、それは滑る様に速やかに回収された。


「おい、糞ガキ!覚えとけ。」


リュユージュは下から、黙って彼を見上げていた。


「俺は『悪魔』だ。」










ドラクールは堅く窓を閉ざして頭から毛布を被ると、程無くして再び寝息を立て始めた。

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