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昨夜。エスメラルダはアンジェリカを自室へと誘ったが、彼女はそれを断って居室のソファで眠り、そして朝を迎えた。
「…んー。」
カーテンの隙間から射す朝日が眩しい。
「こんな柔らかいのだと、背骨が曲がりそう。」
アンジェリカは体を起こして手足を思いっきり伸ばすと、一人そう呟いた。
全員での朝食。アンジェリカも同席した。
「リュユージュ様、今日はどこに連れて行って下さるのかしらね?」
「そうねえ、どこかしら。楽しみだわ。」
調理も配膳もする必要はなく、彼女はただ寵姫達の会話を聞きながら黙々と朝食を終わらせた。
「お嬢様、結構でございますよ。」
「え?」
食器を下げようとしたアンジェリカを、メイドが止める。
「置いておけばいいわ。」
エスメラルダもメイドの言葉に頷く。
「いいわよ。どうせ他にする事なんかないんだから。」
「で、ですが…。」
メイドは困惑した表情をエスメラルダに向けた。
「私、怠惰な生活は性に合わないの。」
アンジェリカのその言葉に、エスメラルダは苦笑するしかなかった。
寵姫達は各々、居室で談笑をしたり部屋で化粧をしたりと、優雅に時間を過ごしていた。
━━退屈だわ。
アンジェリカはソファに深く体を沈め、ただ窓の外を眺めていた。
すると、迎えのレオンハルトが玄関の電鈴を鳴らす姿が目に入った。
「本当に一緒に参らなくて宜しいの?」
ルクレツィアが振り返り、アンジェリカに声を掛ける。
「行かないわよ。」
彼女達を見送ろうと外に出たアンジェリカの姿はレオンハルトの目に触れたが、彼の方から声を掛けるなど、とても出来る行為ではなかった。
アンジェリカは自分を凝視しているレオンハルトの視線に気が付くと、彼とは知らぬまま頭を下げた。
「ねえ、一緒に参りましょうよ。」
ルクレツィアはもう一度、アンジェリカを誘う。
「申し訳ないけど、遠慮するわ。」
「お止めなさいな、ルクレツィア。彼女にはもう、旦那様がいらっしゃるのだから。」
「え…、ええッ!?」
エスメラルダの制止は有り難いが、その言葉にアンジェリカは狼狽えた。
「あら、そうでしょう?余所の男性と出掛けるなんて、立派な浮気じゃなくって?」
「そ、それはそうなんだけど、べ、別に、ギルバートは、ま、まだ旦那じゃないわ!」
真っ赤になって否定するアンジェリカに対し、寵姫達は微笑ましいと言わんばかりの表情を浮かべている。
意外な人物の名前を耳にしたレオンハルトの心臓は、鼓動が一瞬強くなった。




