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「それはそれはとても美しくてね、あれは刑罰なんかじゃない。そう、”儀式”と呼ぶ方が相応しい。」
目蓋に浮かべた光景にすっかり心を奪われた様子の彼は、誰の目を憚る事もなく語り続ける。
「断ち切られた白い頸骨、そこから覗く薄桃の肉、そして吹き出す緋色の血潮━━…。」
言葉を区切り少し沈黙した後、彼はより一層侮蔑を込めた口調で臨終に瀕している頭目を睨んだ。
「将軍なら絶対に、こんな醜い肉塊になんかしない。僕とは違って。」
自嘲気味にそう語りながら再び剣の血液を拭うと、それを音もなく鞘に収めた。
一同の空気に若干の緩みが生じた。
だがリュユージュは次に頭目の短刀を手に取り、未だ右手に握られたままのそれを彼に突き付けた。
右手と短刀の主である頭目は、傷口をひゅーひゅーと鳴らしながらも見開いた目でリュユージュを凝視している。
「貴方にあげるよ。僕の、」
ゆっくりと語りながら、頭目の頸部の真ん中を顎から胸に掛けて今度は縦一文字に切り裂いた。
「十字架を。」
普段ならば喧騒に溢れている筈の酒場は静寂に包まれ、酒の代わりに噎せ返る様な血の匂いが充満していた。
彼が出口に向かって一歩足を進めると、まるで潮干の様に道筋が出来た。
取り囲む視線は称揚とは程遠く、恐怖に萎縮している。
扉を開けたところでリュユージュは一同を振り返り全員を入念に見渡したが、件の者は既に混乱に乗じて場を離れた後だった。
「さっき言ったけど、本当に首都では滅多に事件なんて起きないんだ。」
浴びた血が月の光に照らされた彼はより妖しさを増し、あたかも御伽話の中の悪鬼の様だった。
「だから僕は、常に欲求不満なんだよ。」
聖騎士に仕えし若者は、咎人の肉体に緋色の十字架を刻んだ。




