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Stage6:クライマーの素質

朝の練習で、部員たちの弱点を見抜いた今川は、放課後の練習で登坂の練習をさせることにした。そこで、彼は新たな素質を持つ者を見抜くことになる。

「さあて、部活だ!」

学校の一連の授業が終わり、ついに部活となる。


自転車競技同好会部室


「放課後の練習でも、同じコースを使う。朝よりも交通量が多いから、先頭交代の時注意しろ、いいな?」

「「「「はい!」」」」

と、一同が答えたところで、今川がある事を思い出す。

「そうだ、今日が初日ということで、気合を入れるぞ!俺が『水明ファイト』と行ったら、お前らは『オー』だ。いいな?」

「「「「はっ、はい!」」」」


「水明ぃーッ、ファイトォ!」

「「「「オ―――ッ!」」」」

今川が陸上部に居たころは、毎日やっていたことである。

(全く、サマになってやがるぜ、今川の奴。やっぱり、体育会系の洗礼を受けてきた奴は違うな。)

石井は思った。


「着いたぞ!」

朝練をした森林公園である。

「そういえば、どんなメニューやるんですか、キャプテン。」

桜川が聞く。

「あそこの坂を、10本。ビリだった一年は、二年と一緒にもう5本!」

「えぇ!?俺は二年なのに、15本!?」

土谷が焦る。

「そうだ。お前は坂が弱点なんだ。例えお前にボーネンもびっくりのスプリント力があろうと、坂が苦手では、ゴールスプリントに入り込めない。まずは、スプリント力を上げるよりも、登りをこなせる様にしないと駄目なんだ。」

と今川が返した。


〜レグルスのわかりやすいロードレース講座〜

今の台詞に出てきた「ボーネン」って誰?って思った人は多いと思う。

トム・ボーネン。彼は2007年のツール・ド・フランスでポイント賞を獲ったり、多くのワンデーレースで活躍している、世界的なスプリンターなんだ。しかしこの前、レース外ドーピング検査でコカインが検出され、2008年の主なステージレースへの出場禁止措置がとられ、、またその他のレースの出場も自粛することになったんだ。今年はあのスプリントが見られないと思うと残念だね。


よい子のみんな、わかったかな?

〜おわり〜


「わ、わかった。登りをなんとかすれば強くなれるって言いたいんだろ。」

「ああ。それでいい。石井、お前もだからな。」

「むぅ…俺もかぁ…」

石井も、平地は好きだが登りは好みではない。

「根本、お前に勝つっ!」

「お前には負けんぞ、桜川っ!」

一年勢が火花を散らしているようである。

「よし、行くぞ!」

「「「「オーッ!」」」」


「10本目終わり!」

一番先に上がったのはやはりクライマーの今川である。

「終わったぁ!」

続いて石井も上がった。そして、驚くべき光景が二人の目に入った。

なんと、3番目に上がったのは、桜川だった。

「ゲホッ…上がりぃ!」

二人は唖然としていた。

(コイツ、クライマーとして鍛えれば、結構なレベルまで行くんじゃないのか…)

今川は考えていた。


4番目にあがってきたのは土谷だった。

「グヘッ…後…5本…か…」

その後ろに着いてきたのは根本。

「…」

話す気力すら無くなってしまったようだ。


「よし!石井と土谷、根本はあと5本!」

「「「おう!」」」

桜川は、ホッとした顔をしていた。

「そして、俺と桜川はあと10本だ!石井、土谷、根本は5本終わったらコースを3周すること!」

「えぇ!?聞いてませんよキャプテン!」

先ほどのホッとした表情はどこへやら、困惑した顔をしていた。

「理由は後で話す。よし、始め!」


「キャプテン、なんで俺たちだけ多いんですか?」

「お前は、優秀なクライマーになる素質があるからだ。」

桜川はポカンとしていた。

「優秀な…クライマー?」

「そうだ。」

今川は、そりゃ当たり前だろうという顔をしている。何せ、土屋は登りが苦手だったとはいえ、桜川は先輩に勝ってしまった。しかも練習一日目にして。

「さっきの結果も確かにそうだ。だが、お前はもう一つ、優秀なクライマーとしての素質がある。」

「なんすか?」

「小柄で軽量な図体だ。この一点で言うなら、俺よりも素質があると言えるだろう。」

クライマーには、得てして小柄で軽い選手が多い。

「桜川、お前、中学のとき、何cmあったか?」

「中一のときから、この身長です。」

「やはり…お前には素質がありそうだな。だからこそ、山で強くなるために練習を行う。わかったか。」

「・・・はい」

こうして、二人は練習メニューをこなし始めた。


全員が練習メニューをこなし終わり、彼らは学校へと帰ってきた。そのころには、全員が滝のような汗をかいていた。

「うわっ…なんちゅう汗かいてんだよ、自転車競技同好会の連中…」

他の部の部員が驚くほどの汗だった。

伴走として練習についていった須藤は、彼らを見て、やはり自分と彼らには大きな隔たりがあると感じていた。そして、激しい練習を部員たちに科しながらも、上手く彼らを励ましてやる気を起こさせる今川の姿に、やはり自分より、彼のほうが監督には向いているとも思ったのだった。


「「「「「ご苦労様でしたッ!」」」」」


「なぁ今川、久々に牛丼屋でも行くか?」

「ああ、行く行く。」

今川は、部活が終わるといつもの顔に戻る。そんな人間なのだ、彼は。


「へいお待ち!牛丼二つ!」

「「いただきますっ!」」

街に昔からある牛丼屋に二人はいた。

「いやぁ、やっぱりうめぇなぁこの牛丼!そう思うだろ石井!」

「うん!病み付きになるよなぁ!」

「褒めすぎだって、君たち!」

決して大きい店ではないが、味は一級品である。

そのとき、唐突に石井が自転車競技同好会の話を振った。

「そういえば、今日の練習、桜川がすごかったな。」

「ああ。まさか土谷を抜くとは思わなかった。やはり、才能というか、それに近いものを感じるな。」

「土谷、登りをなんとかして強くすればなぁ…」

「スプリンターといっていたが、スプリント力はどのくらいなんだろう…早めに確かめる必要がある。来月には茂木で初レースだからな。」

茂木。ホンダが所有するサーキット、「ツインリンクもてぎ」がある町である。そこで毎年春に自転車の耐久レースが開催されているのだ。

「今川、オーダージャージは間に合うのか?」

「もう注文した。たぶん、間に合うだろう。少なくとも、6月のIH予選には絶対間に合うはずだ。」

「そうか…。インターハイか…関東大会からだろ?自転車は。」

「ああ。ピストも用意しなくちゃな…」


〜レグルスのわかりやすい自転車競技講座〜

ピストとは、ロードバイクと違って、トラックで行われる競技、たとえば競輪などに使われる自転車のことを言うんだ。トラックレーサーとも言われるよ。

実はこの自転車にはブレーキがなくて、あと、ギアとタイヤが直結しているから、タイヤが回ればペダルも同時に回るよ。

インターハイでは、ロードとトラックでのポイントを合計して順位が決められるんだ。そして、関東大会におけるポイントが、各県で1位になった高校が、全国へ行けるんだ。

よい子のみんな、わかったかな?

〜おわり〜


「ま、兎に角やることは一杯だ。気合入れていくぞ、石井。」

「ああ。そういえばさ、昨日の『エンタの頂』見た?」

「やっべ、見そびれた!どんなだった?」

自転車の話題が終わると、彼らは普通の高校生となる。

こうして、彼らの一日は過ぎていくのだった。

レグルスです。

森林公園と名のつくところの舗装路は、厳しい坂があります。

宇都宮市の森林公園に至っては、ツール・ド・おきなわと並ぶ日本のワンデーレースの最高峰、ジャパンカップに使用されているくらいです。ちなみにそこの傾斜は14%。聳え立つ壁と言ってもいいかもしれません。

しかしこのくらいで驚いてはいけません。ヨーロッパのグランツールの一つであるジロ・デ・イタリアには、山岳コースの一部になんと22%という傾斜の道があるのです。どんなものか、体感したくはありませんか?


え、ない?うーん…今日もヒルクライムの血が騒いでるかな…。

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