おくりもの 2
「特に変わった動きはなさそうですけどねぇ」
王太子の執務室では、人払がされていた。
「もうちょっとやる気は出せないのか」
レオンがため息を吐く。王太子の前だというのに、長椅子に座る大柄な男は、だらしなく足を投げ出している。騎士の命とも言える剣はといえば、床に無造作に転がっている。
「やる気は満々ですよ」
どこがだ、と言いたいところだが、レオンは長い付き合いで口に出しても無駄なことは分かっている。
「それより、姫君との初夜はいかがでしたか? くーぅ、何も知らない少女を自分色に染めていくなんて。いやぁ、羨ましい。全く男の夢ですなぁ」
「ロイド」
握りこぶしを作って羨ましがる男に、レオンは冷たいと評判の碧い瞳で睨みつけてやる。
この目の前のふざけた男は、王宮の近衛隊隊長を務める男だ。侯爵家の次男に生まれ、レオンと幼き頃から一緒に育ってきたため気心が知れている。
「あの姫君は策を練って暗躍するようには見えませんよ。まだまだ、何も知らぬ少女ではないですか」
「それは分からぬ」
金と権力が目の前にぶら下がってきたら、善良な人間だってどう変わるものか分かったものではないとレオンは思う。事実王太子という地位にいるせいか、様々な人間を見てきた。
目の前の男はその答えに不満だという表情を隠そうともしない。
レオンが横目で睨む。それを見て、はいはいと不承不承だが、姿勢を正した。
「わかりましたよ。ちゃんとノース王国の動向はさぐらせておりますよ。でもね、もう少し姫君にも優しくしてあげないとお可哀そうですよ」
「耳が痛いな」
レオンの表情は変わらない。
「さらに無礼を承知で言わせていただくと、姫君とちゃんとした夫婦になり幸せな家庭を築かれることを私たち家臣は願っておりますよ」
レオンはゆったりとした動作で立ち上がり、ロイドに背を向けて窓から外を眺めた。
「差し出がましいことですな。では、ノース王国から何か動きがあればすぐにご報告致します」
ロイドは一礼し、執務室を後にした。
たしかに、ロイドの言う通り姫君はまだまだ子供だ。策を練っているようには思えない。だが、ノース王国が彼女を駒に使って何か仕掛けてくるということもないとは言い切れない。
レオンはため息を吐く。
エマとは、初夜以来顔を合わせていない。寝台で泣かれたのは初めてだった。しかも、理由が痛いからだと言う。どうすればよいのか、柄にもなくレオンは困ってしまった。
「まったく、まいったな」
最初は年の離れた少女の相手なんて持て余すことになると思っていたのに。初夜でのエマのしどけない姿は扇情的でレオンの欲望を掻き立てた。そうして彼女のことを考えると、また柔らかな体を抱きしめたくなる。
困ったものだ、とレオンは再び吐息が出た。