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氷の王子  作者: 白石美里
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おくりもの 1

けだるい朝をエマが迎えるとすでに殿下は寝台にはいなかった。そっと隣に手を触れてみるが、殿下のぬくもりは残ってはいなかった。


 太陽はすでに空高く上がっているようだ。部屋は窓からの光に照らされて明るく、昨日とは違う顔を見せている。


 エマは起き上がろうとするが、意思に反し瞼が重い。体は思った以上に疲れているようだ。長旅に重ねて、昨夜の目まぐるしい体験のせいだとエマは思った。


 昨夜のことを思い返すと、胸が高鳴ってくる。近くで見る碧い瞳の美しさや、エマを抱きしめる逞しい腕、癖のない金色の髪は殿下が動くたびにエマの体をなぞった。殿下は大人の男性だった。それに比べて自分は…とエマは情けなくなって落ち込んでしまう。あまりの痛みに泣き出してしまうなんて、あまりにも子供っぽい。また、殿下に子供だと呆れられたのではないかと思うと心配になったりと、エマの頭の中も目まぐるしく動いていた。


 コンコン。


 控えめなノックで控えの間が開くと、リネットが顔を覗かせた。


「お目覚めでございますか。ご気分はいかがですか?」


「いいわ」


 リネットはにっこりと微笑む。


「それはようございました。お湯の用意もできておりますが、もう少しお休みになられた方がよろしいかも知れませんね」


「ねぇ、リネット。殿下は?」


「王太子殿下は、ご政務で朝廷宮へ朝早くお向かいになられましたわ。エマ様には、お好きになされますようにとおっしゃっておいででしたよ」


 朝廷宮。政治を行うところだ。殿下はもう仕事をされてるというのか。ここは王太子の宮殿だ。

 ラナティア王国の王宮は、国王が住まう宮廷、朝廷宮、王太子宮、神殿、それぞれに独立して建てられている。その広大な土地を高い城壁でぐるりと囲み王宮としている。殿下が宮殿にいないのかと思ったらがっかりした。

 そんなエマを見てリネットは吹き出しそうになる。どうやら一目見て夢中になったのは王太子ではなくエマのようだった。


「夜にはお戻りになられますよ。そうだわ、エマ様。王太子殿下がご用意されたエマ様のお部屋、素晴らしいものでしたわよ」


 リネットは、今朝初めてエマにあてがわれた部屋へ行き、息を呑んだ。王太子妃の部屋は、王太子宮で二番目に広いらしく、主人である王太子の部屋の隣にあった。カーテンやラグマットなどは赤色で統一されており、金色の刺繍が細やかだ。置かれている家具にも目を見張るような細工が施されており、またその中にはぎっしりとドレスや装飾品、靴に至るまで収められていた。


「まあ、どんなお部屋なのかしら。早く見てみたいわ」


 エマの好奇心が刺激される。リネットは王太子殿下から気をそらせることに成功したようだった。

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