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氷の王子  作者: 白石美里
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婚礼 3

 王太子のレオンの瞳には、部屋へ入ってきた娘は怯えている様に映った。

 婚礼の儀では、隣にいる姫がどの様な顔をしているのか分からなかった。姫が俯いているせいもあるし、何より身長差があった。側近くに寄れば、レオンが覗き込む様にしなければ姫の表情はうかがえない。そして、実際に対峙する彼女は、送られてきた肖像画で見るよりもはるかに子供に感じさせた。

 なんと、まだ少女ではないか。とレオンは思った。

 華奢な肩に小作りな顔。抜ける様に白い肌や、くっきりとした二重の大きなすみれ色の瞳が印象的だが、つんと上を向いた小さな鼻が小生意気そうだ。婚礼の時の濃い化粧を落とし、薄く化粧を施されただけの顔は、あどけないものだった。

 レオンは、手で向かいの椅子を示し、突っ立ている姫へ座る様に促した。すると、一礼して姫は椅子へ腰掛けた。

 綺麗なお辞儀で、よくしつけられているのだろうとレオンは思った。


「何か飲みますか?」


 レオンの杯にはワインが注がれている。


「いいえ。大丈夫ですわ」


 姫の表情は硬い。随分と緊張している様だ。正直、持て余してしまう。普段、レオンの周りにいる女性は、自分の身の振り方をわかっている様な大人だ。子供のお守りか、と思うと面倒でため息が溢れそうになってしまう。

 元々、レオンの結婚相手は彼女の姉のはずだった。年齢も似合いで、季節の折には手紙のやり取りなども儀礼的にだが応じてきた。書かれる文字は美しく知的で、レオン自身も馬鹿を相手にするのは疲れるので、彼女には満足していた。それが、急な病気で代わりに妹を差し出すと、ノース王国から連絡が入った。

 レオンにとっては姉だろうが、妹だろうが政略結婚の相手だ。どちらでもかまわない。両国の国益のためのことだ。ただ、結婚相手がどういうつもりでやってくるのか見極めなくてはならなかった。もしかしたら、姉を押しのけてまでラナティア王国の王妃を狙う野心的な姫君なのかもしれない。自惚れではなく、ラナティアの王太子へ嫁ぐというのは、誉に違いない。ラナティアを意のままにするというのが目的ならば、彼女の好きにさせるつもりはレオンにはなかった。


「長旅は大変だったでしょう。あなたの部屋へは存分に用意をさせたつもりですが、足りぬものがあれば遠慮なくおっしゃってください」





「ありがとう存じます」


 婚礼の儀の後は控えの間へ通されて、エマはあてがわれた自室を見てはいなかった。

 そんなことよりも自分に向けられた疑惑を晴らしたい気持ちでいっぱいになっていた。自分は殿下に害をなすものでは無いと分かってもらいたかった。しかし、なんと言葉を尽くせば信じてもらえるのかわからなかった。

 父王も王妃である母も、政略結婚ではあったが仲睦まじく、お互いを大事に扱っていた。だから、エマもそのように夫と相対せるものと思っていたのだ。

 立ち上がる気配がしたと思ったら、あっという間にエマは椅子ごとレオンに覆われていた。彫刻のような美貌が息のかかるほど近くまで迫ってくる。エマの手にレオンの大きな手が重ねられた。予想外に彼の手は熱を持っていた。彫刻のように血が通っていないわけではなかったのか、などと思っていたら、唇が重なった。何度も角度を変え、啄むように重ねられる。そうしている内に、舌が滑り込んでエマの口内を蹂躙する。自分以外の体温を初めて感じ、エマからは熱を持った吐息しか出てこない。触れ合った部分は暖かく、彼は紛れもなく血の通った人間だと思い知らされた。

 すくい上げるように足を持ち上げ、抱えあげられる。そうして運ばれる間も唇は吸われたままだ。ベッドに降ろされて、ようやく唇が解放されたが、エマの息は上がったまま治らない。そのまま殿下の手は胸元に差し入れられ、我が物顔でエマが男性に触らせたことの無い場所へと進んでいく。エマはただただ翻弄されるだけだ。硝子のような碧い瞳が、エマを映していることが分かるほど近くにいる。


「そう、そのように力を抜けばよい」


 エマは、殿下によってあられもない格好になっていたが、碧い瞳が涼しげなせいか、恥ずかしいという気持ちが消えていた。自然と殿下のうっすらと汗ばんだ首筋にしがみついた。

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