プロローグ
それまで続いた雨が嘘のように、よく晴れ渡った日だった。
「見えてきたぞ」
「もっと前へ行っておくれよ。これじゃあ、ちっとも見えないじゃないか」
「ちょっと。押さないでよ。誰か、足を踏んでるわよ」
「さっきから俺を押しているのは誰だよ」
人々が集まり、人垣を作っている。町中が熱気に包まれている。彼らの目当ては花嫁行列だ。
「こら、これ以上前に出てくるな」
軍隊が群衆を抑えるために駆り出されている。軍が出なければならないほど人々の熱狂は凄まじいものがある。ラナティア王国、王太子の婚礼のために隣国から花嫁がやって来るのだ。
国王が民衆の前に姿を現さなくなり、病気では、と悪い噂が流れ始めた頃に、人気の王太子の婚礼。人々は喜びに沸いている。
間もなく、六頭の馬に引かれた、装飾がひときわ立派な馬車が通り過ぎる。幕が降ろされており、中をうかがうことはできないが、花嫁が乗っているのだろうと皆が思った。ゆっくりと馬車は進んでいく。花嫁行列はどこまでも続いているのではないかと思わせるほど長く伸びていた。
人々は思う。
若く美しい王太子に似合いの姫なのだろうと。隣国との関係も強固になり、ますますラナティア王国が栄えていくのだろうと。そんな今日という日は、なんてめでたいのだろうか。
誰ともなく声が上がる。
「ラナティア王国万歳」
すると、皆口々に歓声を上げた。
「王太子殿下万歳」
「ラナティア王国万歳」
その声は、まるで合唱のようにどこまでも晴れ渡った空に響き渡った。