鍵はきっかけでした
「見ろよー、このツル俺の手作りだぜ。名付けて俺ヅル」
いつでも、私、永田美希のクラスを騒がしくしているのはヘラヘラしているクラスメイト、高宮 祐のせいである。
そいつは、女子から何回も告白されただとかバレンタインにはチョコのためにバッグ2つ持ちしてくるだとか色々な噂があり、いわゆるクラスのモテ男らしい。
まあ、顔はいいほうだとは思うけどね。
「ね!かっこいいって思うよね?」
「全然」
友達の星宮未奈もどうやらかっこいいとか思ってるらしい。
顔はいいとは思ったけど、あのチャラチャラが気にくわない。だから、私は別にかっこいいとか好きとかそんなの何にも感じない。
「なんでなんで?すっごくいいじゃん!」
「あのチャラチャラがイライラすんの。モテ男とかチャラ男の間違いじゃないの?」
未奈にはどんな風に見えているのか。
私にはちっとも理解できそうにない。
「だーかーらー。フレンドリーなんだよ」
「チャランドリーだよ」
なにがフレンドリーなんだか。
「っと。私そろそろ部活行かなきゃ」
確かに教室にはもう私たちだけだ。
「じゃあ、またね」
「ばいばい」
未奈は美術部に所属している。
確か、美術部の先輩もかっこいいとかなんとか言ってなかったっけ?
なに、すべてがかっこよく見える目の持ち主?
「てか、私も帰んなきゃ」
急いでバッグに教科書を詰め込む。
「あれ」
見当たらない。いつもの鞄のポケットに見当たらない。
「鍵ないんだけど!」
思わず叫んでしまった。
机の下も椅子の下もロッカーも筆箱の中にもどこにもない。
なぜだ。私、今朝持ってきた記憶はあるぞ。
そんなこんなで焦っていると、教室のドアが開いた。
「げ」
高宮である。
うわ。この教室に2人とかもう余命宣告。
けど、帰れない。
「なっ…なに?」
「ノート取りに来ただけ。お前は?」
お前は。
質問が私にかかる。
「かっ鍵なくした…」
「あー、鍵落ちてたから俺持ってたわ」
突然の答えに思考が停止する。
持ってた?私の鍵を?
「はい。これ永田のだろ」
「どうして先生にわたさなかったの!」
「いやー、忘れてたわ」
忘れてたって。私家入れないところだったんだぞ。
「危うく帰るとこだったし…」
「まあでも、見つかってよかったじゃん」
「高宮、そんなんだから宿題忘れてんでしょ?」
「あれは忘れてんじゃなくてやらないの」
「もっと最低…」
「じゃ、俺帰る。また明日なー」
「じゃあね」
扉が閉まる。
その音でハッと気づく。
今普通に高宮と会話をしてた。
ありえない。いつも避けてきたから。
本当はああいうタイプが苦手だったから。
でも、私が思ってたイメージは少しずつ塗り替えられていった。
楽しい
気がつけば、そんな気持ちが芽生えていた。
高宮と話すのが楽しい。認めたくない。
だってあいつはチャラチャラしててうるさくて。ハッキリしてて苦手で。
今までそんな風に見てた。
関わることもしたくなかった。
でも、私の心はこう感じたのだ。
明日も、話していいかも…。
手の中の鍵を握りしめて鞄を肩にかけた。
初めまして。
朱実ゆい
と申します。
連載小説startしました。これからよろしくお願いします。
2017/02/04 朱実ゆい