第91話:【閑話】実りの秋~前半~
これはオレたちウルド荷馬車隊が、帝都から村へ帰還した後の話である。
時期は秋。ウルド村では穀物イナホンの収穫が終盤にさしかかっていた。
「収穫は、この田で最後だ」
刈り終えた場所を確認して、オレの合図をする。周囲には鎌で刈られた水田の光景が広がる。
栽培していた穀物イナホン刈りが、この最後の区画で終わるのだ。
「今年は早く収穫できそうだね!」
「前は腕と腰が痛くて泣きそうだったからね!」
「僕たちはもうイナホン刈りの達人だね!」
収穫完了を目前にして、村の子ども達は笑顔を浮かべている。
だが楽勝との言葉とは裏腹に、誰もが全身が汗と泥でまみれていた。自分たちの力で成し遂げたことに、素直に感動している。
そんな村の子ども達の様子を、指導係りであるオレは眺めていた。
(イナホン栽培は二年目になるが、今年は大豊作だな)
刈られて棒に乾燥されているイナホンを見つめながら、オレも感慨にふける。
イナホンは稲と同じく、栽培には一年を通して手間がかかる。
オレが村に来てから二年をかけて、野牛と農具で“田起こし”をして、田んぼの土を良くしてきた。
更には自然の堆肥や稲植えで収穫量も増やす。
これにより最初の事に比べて、数倍のイナホンの実の収穫が可能となった。
だが専用コンバイン機械のないこの世界では、稲刈りはまだまだ人力で行う重労働。こればかりは仕方がない。
「ヤマトよ、イナホン刈りはここで終わりか?」
「ああ、そうだ。シルドリア」
「なんだ、つまらんのう」
誰もが疲労困憊のなか、赤髪の少女だけは余裕の笑みを浮べていた。
それはヒザン帝国の皇女シルドリア。
つい先日からウルド村に居候している新しい住人である。
「すごいね、シルドリアちゃんは!」
「一人であんなに、たくさん収穫したのに、まだ元気なんだね!」
「僕たちと背はそんなに変わらないのに!」
「ふふふ……妾を誰だと思っておるのじゃ。このくらいは余裕なのじゃ」
子ども達の言葉にあるように、皇女シルドリアの刈り取った量は尋常ではない。
普通の十倍以上のイナホンを、たった一人で狩り終えていた。さらにはまだ体力的に余裕がある。
「たいしたものだな、シルドリア」
「な、なにを急に……そんなに褒めても何も出ないぞ、ヤマト」
謙遜しているが、シルドリアの身体能力は凄まじいものである。
このウルド村の子ども達や少女リーシャも、先祖ウルド人の血を引くために能力は高い。
だが彼女の場合はそれ以上であった。
少しコツを教えただけで、両手に鎌を構えて次々とイナホンを刈り取ったのだ。
樹海遺跡での霊獣との戦闘でも感じていたが、現代人とは別次元の資質をもっていた。
これは彼女だけではなく騎士リーンハルトや帝国の大剣使いバレス、そして皇子ロキもそうである。
(この世界の住人は明らかに、現代人より身体能力が高い。さらにその中でも特異体質な者がいるのであろう……)
荷馬車隊で各国を回ってみると、彼ら以外にも腕利きの騎士や兵士たちはいた。
オルンと同じ都市国家群の戦士団長や、傭兵団の巨躯の団長。ヒザン帝国の帝城にいた書く騎士団の団長など。
だが彼らは“かなり強い、だが普通”であった。
人の域を超えていないのである。
巨大な巨竜アグニと単身で渡り合える、シルドリアやバレス、リーンハルトとの間には、絶対に超えられない壁がある。
(シルドリアの話では、同等の強さを持つ騎士は、帝国にも皇帝を含めて、あと数人しかいないという話だ……)
そう考えるとこの大陸の人口に比べて、資質を持つ者の比率はかなり低いのかもしれない。
その辺の情報は近いうちにまとめておく必要がある。
霊獣管理者を名乗るあの少年が、次にいつ現れるか分からない。その時のための対策として。
「ねえ、ヤマト兄ちゃん。ここのイナホン刈りも、もうすぐ終わるよ!」
「あっ。なんか、また“難しい顔”しているね!」
「きっと、お金の計算をしているんだよ!」
そんな考えごとをしていると、子ども達から声がかかる。
どうやら自分たちだけで、最後のイナホン刈も終わらせていようだ。
三回目となるイナホン刈りで、子ども達も手慣れてきたのであろう。
「浮かれるのもいい。だが来年の春の田植えに向けて準備があるぞ」
「えー、本当に人使いが荒いよね、ヤマト兄ちゃんは!」
「本当だよー」
「おにー」
浮かれていた子ども達にビシッとさせる。
身体能力の高い村の子ども達であるが、精神的にはまだ幼い者も多い。
“勝って兜の緒を締めよ”の精神を教え込む。
「だが、今日の午後から収穫祭で、明日は一日休みだ」
「おお!」
「早く狩り終えて、身体を洗って収穫祭の準備をしないと!」
「今宵はご馳走だね! 急げー!」
オレの言葉に誰もが歓声をあげる。
先ほどの疲労具合はどこに。子ども達は一斉に稲刈りを終わらせていく。
(相変わらず元気の塊だな……)
三度目のイナホン刈りは大豊作に終わる。
そして村で一番盛大に行われる収穫祭が始まるのであった。




