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オレの恩返し ~ハイスペック村づくり~【書籍化&重版】  作者: ハーーナ殿下
【第4章】

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第88話:帝都との別れ


 オレたちウルド荷馬車隊が帝都を離れる日がやってきた。

 魔竜(ナーガ)アグニを討ち取った激戦から、数日が経った朝である。


「ヤマトさま、荷の積み込みは完了しました」

「こっちも完了だぜ、兄ちゃん!」


 村長の孫娘リーシャや、村の子ども達から声があがる。 

 帝都の市場(バザール)で仕入れた品物の積み込みも完了して、いよいよ出発の時間となった。

 

 今回は村からはウルド産の高品質な革製品や、織物・焼き物などの工芸品を持って来ていた。

 帰りは逆に空になった荷馬車に、帝都で仕入れた香辛料・医薬品・鉱物などを満載して帰路につく。

 

 辺境であるウルドの村に貨幣経済はない。大きな街で稼いだ硬貨は、基本的に仕入れで使い切る。


「みんな、また帝都に遊びにきなよ」

「ウルドの子ども達がいなくなると、オバちゃんたちも寂しくなるわ」

「道中も気をつけるんだよ、みんな」


 出発前のウルド荷馬車には、市場(バザール)の他の売り子たちが群がり、別れを惜しんでいる。

 ウルドの幼い子ども達は朝から晩まで声を張り上げ、一生懸命に売り子に励んでいた。

 その健気な姿に帝都の市場(バザール)の誰もが、親しみをもってくれていたのだ。


 帝都にいる間は小難しい外交交渉に専念していたオレは、そんな帝都の人々の温かい心意気を感じる。

 どんな形態の国家でもあっても、住んでいる市民の姿はどこも同じなのであろう。


「じゃあ、オバちゃんたち、またね!」

「お土産、ありがとね!」


 そんなヒザン市民の温かい心に触れて、荷馬車隊の子ども達も別れを惜しむ。

 自分の家族の姿に、まだ幼い彼らは重ねているのかもしれない。満面の笑みで出発する荷馬車から手をふる。


「よし、城門へいくぞ」


 撤収作業と別れの挨拶が終わる。オレは出発の号令をかける。

 ここから向かうのは帝国軍専用の城門であった。


◇


 ウルド荷馬車隊はヒザン帝国軍専用の城門へたどり着く。

 ここは普通の市民や行商人は近寄ることもできない専用の門。周囲には一般市民の姿はない。

 事前に用意してもらった許可証を見せる必要がある。


「ウラドおじ様、この度は本当にありがとうございました」

「イシスは愛娘(まなむすめ)が同然。またいつでも帝都に遊びに来い」

「はい! ウラドおじ様」


 この軍事門を通る許可証を発行してくれたのは、帝国の老貴族ウラドであった。オルンの太守代理の少女イシスと別れを惜しんでいる

 イシスの実父と旧知の中であるウラドは、イシスのことを昔から可愛がっていた。


 ウラドには帝都に到着した当初から世話になっている。外交の根回しや巨竜討伐後の事後処理など、多方面にわたっていた。

 第一線を退いたとはいえ、有力貴族であるウラドの権力は健在。現役の軍人時代は厳しいと噂のウラドは、今は目にしわを寄せていた。


 そんな老貴族ウラドの先導で、城壁をくぐり抜けて街の外に出ていく。


「イシス殿とリーンハルト卿。そしてウルドの村の皆よ。このたびは本当に世話になったな」


 城門を出た人気のない場所で、皇子ロキが待ちかまえていた。

 一介の辺境の荷馬車隊を、帝国の皇子であるロキが見送りことは異例である。そこで、ひと気のないこの軍事門で見送ることになったのだ。


「ロキ殿下、こちらこそ。オルンとの友好条約の締結の件、本当にありがとうございました」

「イシス殿とリーンハルト卿には、帝都を救ってもらった恩がある。気にするな」


 ロキとイシスは別れを惜しみながら、今後の両国間の友好について語り合う。

 巨竜アグニを討伐した功績もあり、貿易都市オルンとヒザン帝国は友好条約を結んだ。しかも対等な立場での平等な友好条約を。


 これは両国間の国力差を考えたら、破格の好条件であった。

 それほどまでに帝都を救ってもらったことを、皇子ロキは感謝していた。

 今回の帝国での騒動でオレたちが汗をかいた甲斐が、これで実ったのだ。


「そして、ウルドのヤマト殿……貴殿にも本当に世話になった」


 皇子ロキは最後にオレの挨拶にきた。

 これはヒザン帝国式の別れの順番からでいえば、最上級の敬意の証である。一介の平民である身分の自分に対しては、まさに破格の扱いであった。


「気にするな。たいしたことではない」


 感謝を述べてきたロキに対して、オレは答える。

 自分が成果をだしたことは、バレス探索隊を救助しに向かったことだと。

 他の霊獣を倒したことは、身に降りかかった火の粉を払った結果だと説明する。


「そうか……そして、我が帝国の爵位も本当にいらぬのか、ヤマトよ?」

「ああ、ロキ。オレはただの村人であり交易商人だ。それ以上でも以下でもない」


 帝都を滅亡の危機からを救った功績で、オレにはヒザン帝国の爵位と勲章が与えられる予定だった。多くの謝礼金や財宝と共に。


 だがオレは辞退していた。

 そんな手間や財源があるのなら、奮戦をした真紅(クリムゾン)騎士団の連中に恩賞を与えてやれと。

 そして巨竜に果敢に挑み戦死した騎士たち、その家族への補償金を増やしてやれと断ったのだ。


「本当に欲のない男だな、ヤマトよ」

「土産なら荷馬車にいただいた。それで十分だ」


 苦笑いをする皇子ロキに答える。

 土産はウルド荷馬車隊に、すでに積み込んでいた。

 それは黒狼(フレキ)級の霊獣、そして魔人(バアル)級と魔竜(ナーガ)級アグニの残した素材である。


(霊獣の素材か。かなりの量になったな……)


 黒狼(フレキ)級の核(コア)と硬皮(こうひ)。魔人(バアル)級の羊角や大鎌。

 そして何より多かったのは魔竜(ナーガ)級の素材であった。

 竜牙(ドラゴン・トゥース)や竜鱗(ドラゴン・スケイル)・竜爪(ドラゴン・ファング)・竜ヒゲ、そして巨大なメイン核(コア)の数々だ。

 これらはメイン核(コア)を破壊する前に、本体から斬り裂いた部位だった。


(おそらく事前に切断した部位は風化せずに、素材として現世に残る法則なのであろうな……)

 

 もちろんヒザン帝国とオルンの取り分も残してあった。

 この大陸の習わしでは倒した霊獣の素材は、止めを刺した者に与えられる。

 勇敢な帝国の騎士たちに、オレは心から敬意を表していたのだ。


(霊獣の素材は希少価値が高いと聞く。そういった意味で独占も危険だな……)


 とにかく得た素材を元に、新たなる農機具や道具の開発をするのが今から楽しみである。

 だが山穴族であるガトンは乗り物にめっぽう。荷馬車で帰郷しても、しばらくは使いものにならないであろう。


「それなら有難く、部下たちの恩賞に回させてもらおう」

「ああ。そういえば、シルドリアとバレスは元気にしているか」


 最後の別れ際にロキに尋ねる。

 あの二人の姿を、今日はまだ見ていない。目立ちたがり屋な二人にしては珍しいことだった。


「今日は見ていないな。霊獣討伐の怪我は、動けるまで治っていたはずだが……」

 

 同じ帝国軍に所属するロキも知らないという。

 ウルド荷馬車隊が出発する日時を、あの二人は知っていたはずだ。


 それにもかかわらず姿を見せないのには、なにか訳があるのであろう。あまり気にしないでおく。


 そんな会話をしている内に、いよいよ帝都を離れる時間となる。


「世話になったな、ロキ」

「ウルドのヤマト、貴殿は……いや、何でもない。当国こそ世話になった。なにか困ったことがあれば、いつでも文をよこせ」


 皇子ロキは何かを言いたそうにしていた。

 だが言葉を飲み込み、別れの挨拶をしてくる。

 第三皇子とは巨大国家であるヒザン帝国の皇族の一族。うかつな言葉は発せられないであろう。


「ああ、そうする」


 こうしてオレたちウルド荷馬車隊は帝都の城門を離れ、帰路の旅路へとつくのであった。


◇


 帝都を離れ、西に向かう街道を少し進む。


「ヤマトの兄さま、前方に軍がいます……」


 先行偵察をして戻ってきた、ハン族の少女クランから報告がある。


 街道を少し進んだ先に完全武装の騎士団が、オレたちを待ち構えていたのだ。


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