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第84話:立ち向かう者たち


 激戦は最終局面を迎えている。

 樹海内の遺跡を出発したオレたちは、ハン族の騎馬隊に相乗りし駆けていた。

 獣道を駆け抜け樹海を抜けた先で、魔竜ナーガアグニに追いつく。


「ヤマトのあにさま! 巨竜が見えました!」


 騎馬隊の先頭を走る少女クランから報告の声があがる。草原の民である彼女の視力は、常人よりも遥かに優れていた。


「ああ、クラン。オレにも確認できた」


 少し遅れて馬を走らせるオレの目にも、巨大なアグニの姿が確認できた。樹海を抜けた先にある草原で、巨竜と何者かの軍勢が戦っている。戦っているのは赤色で統一した帝国の騎士団だった。


「あれは真紅クリムゾン騎士団!? まさかロキの野郎が出張でばってきたのか!」

「なんじゃと、兄上が直々に!?」


 馬を走らせながら帝国の騎士バレスと、少女シルドリアが驚きの声をあげる。ヒザン帝都にいた精鋭騎士団がいるとは、夢にも思っていなかった。

 そして真紅クリムゾン騎士団がいるということは、皇帝の実子である皇子ロキが軍を率いて戦っているのだ。


「ロキ殿下の妹君!? ……シルドリア殿は皇女だった……のでございますか」

「凄いっす! シルドリアちゃんは、お姫さまだったんすね!」


 ハン馬で相乗りして並走する騎士リーンハルトと、遊び人ラックはその事実に驚いている。

 驚くのも無理はない。何しろじゃじゃ馬で剣の達人である乙女騎士ヴァルキリー・ナイトシルドリアが、実は帝国の皇女だったのだ。


「二人とも驚くのは後にしろ。今はロキたちの援護にいくぞ」


 オレも内心で驚くが平静を装う。

 ハン馬を走らせながら皆に声をかける。今は止まっている時間が惜しかった。

 なぜならば遠目で見ても、皇子ロキ率いる真紅クリムゾン騎士団は劣勢であったのだ。


 低空を飛行する魔竜ナーガに有効打を与えられず、一方的に攻撃を受けている。

 巨竜と一定の距離をとりながら陣形を保ち、有能な指揮官でもあるロキは善戦していた。

 

 だが宙を舞う圧倒的な巨体のアグニを相手に、そう長くは持たないであろう。恐怖に耐え切れなくなった騎士たちから陣は崩れ、いずれは壊滅してしまうのだ。


「ロキ兄上!?」

「ちっ、今から助けにいくぞ。ロキ!」

「いや、二人とも待て」


 ロキを助けにいこうと飛び出す二人の帝国の騎士を、オレは手で制す。ここまま策もなく突撃していっても、あの巨竜には勝てないと説明する。


「ヤマトよ! じゃが、ここままでは……」

「大丈夫だ、シルドリア。オレの仲間がきた」

「仲間じゃと……」


 早まるシルドリアを制した、その時であった。別の隊列がこちらに接近してくるのを、オレは察知する。


「ヤマトさま!」

「ヤマト兄ちゃん!」


 草原を駆けるオレたちに合流してきたのは、少女リーシャ率いるウルド荷馬車隊の面々だった。


 樹海の入り口で待機して荷馬車隊は、オレの事前の指示の通りに危険から退避していたのだ。

 今はすでに偽装を解き三台のウルド式の戦車チャリオット型へと、荷馬車隊は移行している。


 ロキたちを助ける時間が惜しい。荷馬車隊と騎馬隊を巡航速度で並走させながら、部隊を再編する。


「クラン、すまないがハン馬を三頭、借りていくぞ」

「はい、ヤマトの兄さま!」


 オレたちは樹海を抜けるために、一頭の馬に二人以上で相乗りしていた。

 それをシルドリアとバレス、そしてリーンハルトの三人の騎士たちに、一頭ずつハン馬を割り当てる。馬を譲ってくれたハン族の子ども達は、荷馬車隊へ移動させる。


「ハン馬はクセがある。気を付けろ。バレス、シルドリア」

「ウルドのヤマト! テメエ、誰にものを言っていやがる!」


「その元気があれば大丈夫そうだな」

「もちろんじゃ、わらわに扱えぬ馬などない」


 大剣使いバレスと少女シルドリアは、初めて乗るハン馬を見事な手綱で操っている。

 さすがは猛者揃いの帝国の騎士たち。ハン馬の経験者であるリーンハルトを含めて、この分なら騎乗戦闘は大丈夫であろう。



「リーシャさん、それに村のみんな……」


 馬と荷馬車隊を並走させながら、オレは村のみんなに事情を説明する。


 草原の先にいる巨竜は霊獣の変化した姿だと。そして悪意をもって人に害をなす存在。

 自分の予想ではその被害は、やがて大陸中に広がっていくであろう。

 もちろん北の辺境にあるウルドの村にも、いずれは巨竜の脅威は襲いかかってくると。


 それを防ぐためにはまだ完全に覚醒していないこの草原で、あの巨竜を打ち倒す必要があると伝える。


「すまないが、みんなの力を貸して欲しい」


 ここはヒザン帝国領内であり、ウルドの村とは関係ない場所。だが近い未来の脅威を防ぐためにも、ウルドのみんなにオレは頭を下げて頼む。


「頭を上げてください。もちろん喜んで、ヤマトさまをお助けします」


「あの竜は悪いヤツなんだろう、ヤマト兄ちゃん。倒さなきゃね!」

「鉱山にいたヤツより、ちょっとだけ大きい霊獣……大丈夫だよ!」

「シルドリアお姉ちゃんの家族を助けないとね!」

「ついでに大剣の怖いオジさんの仲間もね!」


 村長の孫娘リーシャとウルドの子ども達は快諾する。オレのその言葉を待っていたとばかりに、頼もしい声をあげる。クロスボウ隊とリーシャの長弓は強力な援護射撃だ



「ヤマトの兄上あにうえさま、あの霊獣。いくつかの気配ある」


 そんな中、荷馬車から一人の少女が、オレに静かに助言をしてくる。

 彼女はスザクの民の巫女みこであり、他の子よりも特別な不思議な力を有していた。


 そんな彼女の言葉によると、魔竜ナーガアグニの身体には四つの気配があるという。頭部に一個、左右の両羽に一個ずつ、そして腹部の奥深くに大きいのが一個。


「四つの気配か。なるほど、霊獣のコアが四個あるということか」


 巫女の少女の言葉から、オレはアグニの弱点を見つけ出す。あれだけの巨体を動かすためには、通常のよりも多くのコアが必要なのであろう。


「スザクの民に“禁断ノ歌”がある。霊獣から発せられる恐怖フィアを弱められる。少しだけど」


 更に巫女は教えてくれる。

 彼女たちの民に伝わる“禁断ノ歌”には、精神防壁の効果があると。ある程度までなら魔竜ナーガアグニの恐怖による侵食も防げると。

 歌が聞こえる効果範囲は広く、ロキたち真紅クリムゾン騎士団も守ることができるという。


「そうか、それならスザクの子たちの荷馬車は、帝国騎士団と合流だ。イシス、すまないがロキに事情を説明してくれ」

「はい、かしこまりました。ヤマト様」


 オルンの太守の娘である少女イシスは、皇子ロキとも面識があり親しい。

 巨竜と戦闘状態にある真紅クリムゾン騎士団に誤射されないためにも、彼女の外交能力が必要となる。


 

 これで部隊の編成は完了する。

 

 二台のウルド式の戦車チャリオットは狩人少女のリーシャに指揮を任せる。

 彼女の機械長弓マリオネット・ボウとウルドクロスボウ隊には、弓矢の攻撃で巨竜への牽制を指示する。決して無理はしないようにと念を押しておく。


 草原の少女クラン率いるハン族の騎馬隊はオレたちに同行してもらい、覇王短弓テムジン・ボウにより援護射撃させる。


 残る一台のウルド式の戦車チャリオットには、少女イシスとスザクの民の子ども達。帝国騎士団と合流して“禁断ノ歌”によりこの戦場いる者たちを、魔竜ナーガアグニの恐怖フィア攻撃から守ってもらう。



「おい、ガトンのジイさん。まだ、生きているか?」

「ふん。残念ながら生きておるぞ、小僧」


 荷馬車の荷台で、車酔いに苦しんでいた老鍛冶師ガトンに声をかける。

 乗り物に弱い山穴族のガトンであるが、今のところは精神力でギリギリに保っているようだ。


「例の槍を使う」

「ふん。いきなり実戦か」

「ジイさんの腕を信用しているからな」


「相変わらずじゃな。予備は任せておけ」

「ああ、頼んだぞ」


 自分が設計して老鍛冶師ガトンが作った、新兵器の準備を指示しておく。

 通称は“槍”であり、オレは背中にも一本背負っている。ガトンの乗る荷台に予備が数本ほど置いてあった。


 スザクの巫女の少女の言葉によると、魔竜ナーガアグニの腹部にあるコアは身体の奥底にある。

 ガトンズ=ソードが届かない深さとなると、この新兵器の攻撃力が頼みの綱となる。



「さて、最後はお前たちだ。この『魔竜ナーガ斬り込み隊』から降りるなら、今なら間に合うぞ」


 低空を舞う巨竜のコアに接近戦を仕掛けるのは、先頭を駆けるオレたち『魔竜ナーガ斬り込み隊』だ。

 命がけの危険な任務。その最終確認を左右の騎士たちに尋ねる。

 

「ウルドのヤマト! テメエは気に食わないヤツだ。だが今回だけは従う!」

「ヤマトよ! 兄上と帝国の民は、わらわが必ず救うのじゃ!」

「愚問だな、ヤマト! オルン騎士の誇りにかけて、必ずあの魔竜ナーガを打ち倒す!」


 どうやらオレの言葉は、逆に火を点けてしまったらしい。

 帝国の大剣使いバレスと皇女剣士シルドリア、そしてオルン近衛騎士リーンハルト。三人の騎士は吠える。すぐ目の前までに迫ってきた巨竜を倒し、大切な者を救うと。


 樹海で魔竜ナーガの降臨に対して恐れを成していた姿は、もはや面影もない。そこにいたのは、この大陸で最も頼りになる戦士の顔であった。


「ああ、そうだな……さあ、いくぞ。みんな!」


 その熱気オレにも移ったのであろうか。

 オレは全員に号令を下す。


 倒すべき相手は、恐怖と悪意の源である魔竜ナーガアグニ。目の前で空を舞う巨体に向かって、オレたちは突撃していくのであった。





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