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第74話:装備の確認

 オレたちウルド荷馬車隊は、東樹海の入り口にたどり着いた。

 帝国の大剣使いバレスを助けるための、最終準備と段取りをおこなう


「ロキから使いが来たら対応を頼む、イシス」

「はい、かしこまりました。お気をつけて、ヤマト様」

「ああ」


 オルン太守代理の少女イシスには、帝都から後発で来る皇子ロキの部隊の対応を頼んでおく。

 霊獣退治には帝国の騎士団は向かないが、事後処理は彼らに任せる予定だ。


「リーシャさんは子供たちと一緒に、この荷馬車で待機を。何かあった連絡する」

「はい、任せてください! お気をつけて、ヤマトさま」

「ああ」


 ウルド村長の孫娘リーシャには、荷馬車隊の指揮を頼む。

 オレたちに何か異変があった時は、ハン族の笛で知らせ臨機応変に動いてもらう。


「リーンハルトの兄ちゃんも、気をつけて!」

「ヤマト兄ちゃんの足を引っ張っちゃだめだよ!」


 オレと一緒に樹海に入る騎士リーンハルトは、村の子供から声をかけられている。

 生真面目で融通がきかない男だが、剣の腕は優れており子供たちからも人気があった。


 残る者への指示を終えて、オレは自分たちの最終確認をおこなう。 


「リーンハルトの装備はそれか」

「霊獣がどんな相手か分からない。これで大丈夫か、ヤマト?」

「ああ、上出来だ」


 オレは騎士リーンハルトの装備を最終確認する。


 リーンハルトは今回、ウルド交易隊の護衛傭兵として変装してきた。

 そのためオルン近衛騎士の正規の装備は持って来てない。


 そこで帝都を出発する前に、山穴族ガトンと同胞の帝都鍛冶師からリーンハルトの武具は調達してきた。

 森の中でも動きやすい鎧と剣・弓矢一式。

 そして人目を引くほど大きい老鍛冶師ガトンの特製の大盾だ。


「驚くほどの軽さだな、ヤマト。この大盾は」

「オレが設計してガトンのジイさんが仕上げた特別な盾だ。だが過信はするな、リーンハルト」

「ああ、分かっている」


 リーンハルトに渡したのは対霊獣用の複合式の大盾だった。

 

 複合装甲コンポジット・アーマーと呼ばれる現代装甲の原理で、オレが数か月前に設計した物だ。

 この世界の金属盾の数倍の強度を誇る代物。

 

 これで圧倒的な霊獣の攻撃にも、理論上ある程度は耐えられるはずだ。

 高度な騎士盾術を会得している、近衛騎士リーンハルトに相応しい防具である。


 あと欲を言えば、オルンの太守府に保管してある゛リーンハルト専用の武具”が手元にあれば万全だった。

 だが今回は傭兵に変装してきた為に置いてきている。

 

 とりあえずリーンハルトの装備はこれで大丈夫であろう。



「ヤマトは本当に鎧は装備せんのか?」

 

 少女シルドリアがオレに尋ねてくる。

 一切の鎧や盾を装備していないオレに対して、本当にそれで大丈夫なのかと。


「ああ。霊獣相手に生半可なまはんかな鎧は意味を成さない。オレは軽装備の方がいい」


 この中で唯一、霊獣と戦闘経験があるオレは、これがベストだと答える。


 霊獣は普通の肉食獣を遥かに上回る攻撃力を有しており、騎士の金属鎧ですら軽々と貫通してくる。

 それなら防御は一切捨て、機動力を生かした方が自分らしい戦い方ができるのだ。


「軽装じゃと? その割には武器はずいぶんと数多あまたじゃのう? 帝国軍の重戦士でも、それほどの装備の者はいないぞ」


 戦闘用のマントに下に装備されたオレの武装の様子に、シルドリアは笑みをうかべながら驚いる。

 オレは前回の岩塩鉱山戦での装備の流れをくんでいた。


 中型の格闘ナイフ二本をメイン武器に、投擲とうてきナイフ数本、ウルド式・クロスボウ二丁、現代護身具、毒蛾粉の目潰し玉、をマントの下に隠して装備。

 そして゛ガトン高傑作の片刃の剣”を腰にさげる。


 それに加えて今回は新兵器である“短槍”も背負っており、さながら武器の世界博覧会といったところであろう。

 防御力は一切捨てて、回避力重視の『高機動高火力』をコンセプトにしている。


「霊獣は予想もできない動きをしてくる。武器は多いに越したことはない。それにオレは戦士ではなく、普通の村人だ」

「相変わらず面白い冗談じゃ、ヤマト。そのナリと覇気オーラでよく言う」

「すまないが、オレは冗談は苦手だ」

 

 シルドリアとそんな会話をしつつ、彼女の装備もチラりと確認する。

 

 オレの装備を指摘してきたシルドリアであったが、彼女自身もそれほど重武装ではない。

 ヒザン帝国の乙女騎士ヴァルキリー・ナイトの軽鎧と騎士剣、それに予備の武器くらいである。

 パッと見は帝都の街中を散策する格好と変わらない軽装備。


(一切の無駄を省いた研ぎ澄まされた刃物……と言ったところか)

 

 シルドリアは目にも止まらぬ抜刀術を得意とする。

 そこから彼女は一撃離脱の戦い方をする騎士だと推測していた。


 戦闘力だけなら《十剣テン・ソード》のうちの一人である騎士リーンハルトと、双璧をなす猛者であろう。

 だが元々は水先案内人で来てもらっているので、霊獣と遭遇した時は無理はさせないつもりだ。


「よし、では行ってくる」


 こうして装備の最終確認が終わり、オレたち三人は樹海の中へ入ってゆく。



 深い樹海の獣道をオレたち三人は進んでゆく。


「シルドリア、多少の危険はやむ得ない。遺跡まで最短ルートで案内しろ」

「随分と急ぐのじゃな、ヤマトは」

「ああ。“時は金なり”だ」


 オレは行軍の速度を上げるように指示をだす。

 完全に日が沈むまでには、時間はまだある。

 だが早くしなければ、孤立したバレス調査団の死亡率が上がってしまう。


(“七十二時間の壁”が救出の分かれ目だな……)


 災害の救助の常識セオリーに“七十二時間の壁”というものがある。

 行方不明になってから時間が経てば経つほど、生存している可能性は下がり、とにかく急ぐ必要があるのだ。


 あの野獣のような大剣使いバレスは簡単に死ぬことはないであろう。

 だが同行している調査団員は、普通の兵士や学者である。

 遺跡周辺の複数の霊獣を排除して、急ぎ彼らを救出する必要があった。


(霊獣の゛呪い”か……〝コレ”で理論上は防げるはずだが……)


 霊獣には同士討ちを誘う“呪い”の恐ろしい能力がある。

 だが今回はその対策もオレは準備してきた。

 

 しかし、その対策も完璧ではなく、人数制限がある。

 それで今回は三人という少数精鋭で編成していた。

 あまり人数が増えると霊獣の゛呪い”を受ける可能性があったのだ。


(三人か……いや、違うな……)


 獣道を進んでいたオレは、ふと足を止める。

 先頭をゆくシルドリアと、後方のリーンハルトも何事かと思い止まる。


(ふっ……いや、四人だな)


 覚悟を決めたであろう四人目……その気配を察知したオレは後方の木陰に視線を向ける。


「いい加減、出てこい、ラック」

「……いやー、さすがヤマトのダンナっす……バレてしまったすね」


 オレの指示に反応して、軽薄な声と共に自称遊び人ラックがその姿を現す。

 さっきまで樹海の入り口で待機していたラックが、いつの間にかオレたちに付いて来てたのだ。


「バカな……この距離まで……このわらわが察知できなかったじゃと!?」


 帝国の乙女騎士ヴァルキリー・ナイトシルドリアは、素人だと思っていたラックの隠密術に驚いている。

 勘の鋭い彼女にとっては不覚だったのであろう。


「相変わらずだな……ラックは」


 騎士リーンハルトも同様に驚いているが、こちらは慣れた反応にもなっていた。

 

 大陸でも有数の剣士であるリーンハルト、それと同レベルの乙女騎士ヴァルキリー・ナイトシルドリア。

 その二人に気配を感じさせなかったラックは、相変わらず得体が知れない男だ。


「すまないっす、ダンナ。どうしても“霊獣”をひと目見たくて、来ちゃったっす!」

「ここまで来たら、仕方がない」

「へっへっ……恩にきります、ヤマトのダンナ!」


 ラックの“霊獣”という単語のイントネーションが微妙にずれている。

 オレにしか感じ取れない微妙な違和感。 


 恐らくラックには別の目的があるのであろう。

 だが個人の隠している考えを詮索する趣味は、オレにはない。


「よし、先を急ぐぞ」


 遊び人ラックを加えたオレたちは、樹海内にある遺跡へと進んでゆく。



 樹海の中をひたすら進む。


「ヤマト……あそこが遺跡じゃ」


 道先案内人であるシルドリアは、木陰に身を潜めながら小さくつぶやく。

 その視線の先には石造りの人工的な建物がそびえていた。


(あれが“遺跡”か……古代超帝国の遺産と呼ばれる……)


 オレたち四人は目的地である樹海遺跡にたどり着いたのであった。




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