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第7話:村の改革の第一歩

 朝食と準備を終えて、村の子どもたちを率いてオレは森の中へ行くことにした。

 もちろん村長へは了承を得ている。


 獣道を歩くこと数十分、たどり着いた水辺の植物を前にオレは子どもたちに指示をだす。


「よし、ここの生えているものを刈り取って台車に積むぞ」

「ヤマト兄ちゃん……これは“悪魔の実”……食べられないよ……」


 リーダー格の少年が目の前の植物を指差し、オレはそう進言してくる。

 村の子どもたちにはこの植物の実に関して予備知識があった。昔からこの森の水辺に生息している植物で実を宿す。猛毒があり食べることができないと。


「ヤマトさま、ガッツの言う通りです。これは“イナホン”といって食べられない実なのです」


 オレの隣にいた少女リーシャもそう補足してくる。村長の孫娘として幼いことから教えられてきた多くの知識を彼女はもっていた。ちなみにガッツはリーダー格の少年の名なのであろう。


「なるほど、これは“イナホン”というのか。毒か……ところでこの中で腹を壊したり、体調が悪い者はいるか?」

「えっ、みんな元気だよ、ヤマト兄ちゃん!」

「あの鍋を腹いっぱい食べてきたからね!」

「むしろ元気!」


 オレに突然の質問に子どもたちは口々に返事をしてくる。

 昨夜よりも明らかに顔色もよく、目にも生気が宿っている。成長期である彼らは食事さえ口にしたら、体力などすぐに回復するのであろう。


「いいかお前らよく聞け。これは毒をもった植物ではない。その証拠はオレとお前たちだ。なぜならこの“イナホンの実”を煮込んだ物を、オレたちは今朝の食べている」


 混乱がおきないようにオレは冷静に説明する。

 みんなで作った鍋の中にこの“イナホンの実”を一緒に入れて煮込んでいたことを。もちろんオレは事前に毒味もしていた。

 肉やキノコ類と一緒に煮込んだイナホンの実は柔らかく美味かった。


「えっ!? もしかして鍋に入っていたモチモチした粒が……」

「あれ凄い美味しかったよね!」

「なんだ!イナホンはぜんぜん悪魔の実じゃなかったんだ!」


 オレに説明に子どもたちが納得してくれた。

 純粋な彼らは自分の実体験で、これまでの話が間違った迷信だったと判断したのだ。

 こういう時は頭の固い大人よりも、柔軟な子どもの方が助かる。余計な固定概念がない分だけ、のみ込みが早くしかも貪欲だから。


「ヤマトさま、それで昨日はこのイナホンの実を採取していたのですね……」


 最初は驚いていた少女リーシャも納得してくれた。実際に彼女も食事をして悪影響がなかったことば大きい。まあ、オレが確信犯でだましてみんなに食わせたのだが。


「ああ、オレの故郷ではこれが主食の穀物だったからな。すぐにピンときた」


 目の前に広がる天然の“水田”を見つめながらオレは説明をする。

 そう――――“イナホン”とはなんと“稲”であり、その実はなんと米であったのだ。



(まさか異世界で米によく似た植物に出会うとはな……)


 昨日リーシャと村に向かう途中で、この天然の水田を見つけたオレは内心で興奮した。異世界の森の中でいきなり見たこともある光景に驚愕した。

 だが類似しているだけで別の植物かもしれない。だからこっそりと実だけを採取して持っていったのだ。実際に煮込んでみてどんな感じになるのかを。


(調理前に試食したら普通の米の味だった。古代米の一種かもしれんが、それでも味は米そのものだった……)


 生米の状態で味見をしてみたが毒素はなく、安全は確認していた。だからこっそりと鍋に入れて実験してみたのだ。村の子供たちがどんな反応で食べるのかを。


 そして作戦はて成功した。

 子供たちは実に美味そうに鍋の中に入っていた米を食していた。本当に美味そうな顔をしながら。


 そして論より証拠でイナホンが美味い食料となることを、実体験で彼らに教えたのだ。



「よし、理解したところで仕事を開始する。今日からここに生えているイナホンを全部刈り取って、村に持って帰るぞ」


 オレはリーシャに用意してもらった麦刈り用のカマで実演する。

 イナホンの根元をサクッと狩り、何本かことにくり結んでいく動作を教える。田舎の祖母の家で、オレが幼いころから手伝っていた稲刈りの経験が役に立っていた。


「えー、こんなに沢山のイナホンをオレたちだけで刈り取るの!?」

「無理だよ、ヤマト兄ちゃん!」


 オレの指示に子供たちは悲鳴をあげる。

 それもそのはず目の前の天然の水田はかなりの広さがあるのだ。身体の小さい子どもたちの手作業でいったい何日かかるか見当もつかない。


「昨日の約束を忘れたのか? これを成し遂げた者には配分する食料を増やすぞ」

「えっ……オレ頑張るよ!」

「僕もやる!」

「わたしも!」


 オレに言葉のエサに子ども達は興奮する。号令をかける間もなく我先にイナホン狩りをはじめる。

 村にあった麦刈り用のカマの数は十分ある。そのカマもオレがメタル研ぎ石で研ぎ鋭く直しておいた。切れ味は十分であり小さな子供でも、時間さえかければイナホン狩りは出来るであろう。


「今日で終わらなかった分は、明日もやるから無理はするな。必ず休憩をしながら作業しろ」


 稲刈りの農作業は想像以上に体力を消費する。

 疲れで怪我でもされたら困る。適度な時間休憩を指示しておく。


 イナホン刈りの指示も終わり次の行動にうつる。


「お前は絵が描くのが得意だったな?」

「は、はい、わたしはそれしか取り柄がないです」


 事前に子供たちから得意不得意は聞いて班分けしていた。

 この身体の小さな少女は絵を描くのが得意だという。親が元々は絵付け職人で彼女も手先が器用なのだ。

 もちろん紙などの高級品はない村なので、地面や木板に炭ペンや石で幼いころから絵や字を描いていたという。


「ならこの“ノート”にイナホン狩りの様子を記録していけ。理由はさっき説明した通りだ」

「は、はい、わかりました、ヤマトさん……うわあ、本当にこれは描きやすいです! こんな物が世の中にあるなんて!」


 絵描きの得意な少女は、オレの貸したノートと鉛筆に感動していた。

 登山用のリュックに何個か入れていた筆記用具を、記録用にこの少女に与えたのだ。理由は記録をして村の後世に伝えるためだ。


 将来的にはウルドの村内の麦畑も水田に変えようと思う。理由はこんど説明するが、そのためにはこの水田の様子と稲刈りの行程を、正確に記録しておく必要があった。


「すごいです……こんなにキレイに描けるなんて……」

「要点だけを頼むぞ」

「はい!」


 この子には行程を描写する理由を理解していた。身体は小さく力仕事にはむかないが、頭のいい子なのかもしれない。大事な要点だけをちゃんとまとめて記入している。これなら任せてもひと安心だ。



 記録の指示を出しおえ、次の子どものいるところへいく。


「さて待たせたな。次はお前たちに仕事を与える」


 こちらも事前に聞き込みして、なおかつオレが直感で選んだ少年少女たちだ。


「ヤマト兄ちゃん、オレたちは何を?」

「なんでも頑張ります!」


 身体も大きく鋭い目つきの子供たちが多い。誰もが自分に仕事を与えてくれと言わんばかりに尋ねてくる。いい積極性のある子供たちが選ばれていた。


「ヤマトさま……私もこちらですか?」

「ああ、そうだ」


 その中には村長の孫娘である少女リーシャもいた。彼女にうってつけの仕事を頼むつもりだ。


「お前たちにはオレと一緒に“獣の狩り”をしてもらう。これは一番重要で一番危険に仕事だ」


「えっ、狩り!?」

「そんなオレたちは弓とか使えないぞ」

「アカマさま、それは危険です!」


 オレの言葉に誰もが驚き声をあげる。

 なにしろこの森の獣は危険だ。村の大人でも手こずる大兎ビック・ラビットをはじめ、更に危険な獣も多く棲息しているのだ。


 だからこそ、これまであまり誰も森に入れなかったのだ。これほど豊かな恵みを有する森であったにもかかわらず。


「無理だよ……さすがに」


 実際にいまも子どもたちは周囲を警戒して怯えている。

 リーシャから大兎ビック・ラビットを一瞬で数匹倒したオレの話を聞いて、一緒にいるからこそ耐えられる恐怖だ。

 リーダー格の少年ガッツでさえもビビッている。


「よし、オレがこれからお前たち子供でも、大兎ビック・ラビットを倒す方法を教えてやる……」


 半信半疑な彼らを相手に、オレは対大兎ビック・ラビットのレクチャーをはじめるのであった。




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