第24話:新しい住民たち
風車小屋を根城にしていた山賊を壊滅させ、オレたちはウルドの村へ戻ってきた。
「では、今回の報告をする」
一夜明けた翌朝、村のすべての老人を広場に集めオレは話をはじめる。
山賊退治から帰還したのは昨日の夕方ということもあり、報告会は今朝になった。
今回の報告をオレは包み隠さず皆に知らせる。
「風車小屋を根城にしていた山賊は壊滅させた。周囲を確認したが仲間はいなかった。今後しばらくの間は安全だ」
「おお、それは感謝します! ヤマト殿」
「さすがは"賢者”ヤマト殿!」
「たいしたことではない。ねぎらいの言葉はリーシャさんや、村の子供たちにも言ってやれ」
実際に一番活躍したのは子供たちの弩隊だった。彼らの圧倒的な火力により、オレたちは一方的に勝利できたのだ。
「あと村長たちにも影ながら動いてもらったら。その意味では一番の功労者だ」
村長をはじめとする"動ける老人たち”は、今回は後続隊で活躍してもらった。
オレと子供たちの先発隊の後方から、台車と補給物資を引っ張り後方で待機してもらった。
その安心感もあり、オレたちは前線で思う存分に戦うことに集中できた。戦いが終わった後の処理や撤収作業でも、経験豊富な老人たちは活躍してくれた。
「今回の戦利品は山賊が所有していた財と馬二頭、そして荷馬車だ」
「おお! それは貴重な」
「馬と荷馬車は今のウルドには助かります、ヤマト殿」
殲滅せた後、オレたちは山賊の所有していた物資の全てを徴収してきた。これは事前に村長に相談して了承も得ている。
この大陸では残虐非道な懸賞首の賊には人権はない。
退治した者に徴収物の所有権が認められており、今回も問題はないという話だった。
風車小屋にいた山賊は、けっこうな金品を貯めこんでいた。
彼らは“流れ”の山賊団で広範囲にわたり集落を襲い、物資や子供奴隷を売り払うことで財を成していた。
今回の徴収した財はウルドの村を運営に使う。
また、高額で貴重な馬が二頭も手に入ったのは大きい。
物資運搬や農耕に使える馬は価値が大きく、辺境の村であるウルドでは重宝される。
「あと、風車小屋は破壊してきた。他の賊が再利用できないように」
「それはひと安心じゃ」
「そこまで知恵が働くとは。さすがは賢明な判断ですな、ヤマト殿」
山賊がいた風車小屋は、二度と使えないように破壊してきた。
生活ができる小屋は油と火で全て燃やしてきた。残ったのは石造りの壁だけの廃墟状態なので、他の賊の再利用は不可能だ。
また見逃した山賊の生き残りも、仲間を一方的に殺戮され、根城を焦土とされて怯えて放心状態だった。
あの虚ろで死んだ目では、復讐はおろか人生の再起も不能であろう。
「そして“ハン族”の孤児たちをウルドの村に迎えることにした」
「なんと……あの草原の民のハン族の……」
「困っている者を、ウルドの民は見捨ててはおけません」
「さすがはヤマト殿は、慈悲が深き方じゃ」
この案件に関しては、オレが思っている以上に歓迎された。
ハン族の孤児たちは風車小屋で山賊に捕まっていた。両親を皆殺しにされて、奴隷商人に売られてしまう一歩手前。
それをオレの独断で開放し、ウルドの村に連れて帰ってきたのだ。もちろん本人たちの承諾と、現場にいた村長の了承は得ていた。
「今はリーシャお嬢と老婆衆が、ハン族の子たちに朝飯を食べさせておる……」
「空き家を彼らに割り振りして世話をしてやろう……」
「村の生活に慣れるまでは、老婆衆に世話をさせていこう……」
老人たちは今後の方針について談義する。ウルドの民は移民や移住者に対して寛容な部族だ。
歴史的に彼ら自身も、流浪の末にこの山岳盆地に移住してきた民。それで寛大な心を持っているのだ。
迷い人であったオレを暖かく迎えられたことも、それが一因していた。
「では、これにて閉会じゃ。今日も一日、皆の者よ頼むぞ」
村長の言葉で、朝の会議は幕を閉じる。
◇
「リーシャさん、ハン族の子供たちの様子はどうだ」
「ヤマトさま、おはようございます! 今は元気に朝食を食べています」
会議が終わったオレは、リーシャの元を訪ねた。
彼女は村の老婆衆たちと、ハン族の孤児たちの世話をしている最中だ。
オレも彼らの様子を見に行き声をかける。
「食事は沢山ある。よく噛んで、ゆっくり食え」
「あっ……ヤマトの兄さま。改めて、このたびは本当にありがとうございました」
「気にするな。食事を続けろ」
ハン族の一人の少女が律儀にオレにあいさつをしてくる。
彼女はハン族の族長の一人娘ということで、孤児たちのリーダ格になっていたらしい。
“ヤマトの兄さま”という呼び方は、村の子どもやリーシャがオレを呼ぶのを、彼女なりに真似しているのであろう。少し気恥しい感じがある。
「皆だいぶ顔色も良くなってきたな」
「はい! ヤマトの兄様……こんなに美味しい食事は初めて、みんな感動しています!」
「それは"コメ”を煮込んだ粥だ。消化にいい」
「粥ですか……こんな美味しい物は初めて食べました!」
「それは良かった」
風車小屋で保護した時の孤児たちは、酷いありさまでだった。ろくに食事も与えられずに、襲いかかった絶望に瞳も虚ろだった。
昨日、ウルドの村に帰って来てから、彼女たちには暖かい食事と水浴びを与えた。
それで安心したのであろう。昨夜は死んだように爆睡し、体力と精神力が回復していた。
今朝は生気のある輝いた瞳で孤児たちは元気に食事をしている。
「昨日も言ったが、お前たちはこのウルドの村に住んでもいい。その代わり、元気になったら働いもらうがな」
「本当にありがとうございます……もちろん、ハン族の名を汚さないように誠心誠意で仕えさせていただきます、ヤマトの兄さま!」
「そんなに固くならなくてもいい。普通でいい」
どうもこのハン族の子供たちは、生真面目すぎる気質があるらしい。"誠心誠意で仕える”など小さな子ども普通は使わない。
だが生真面目に働くの者は大歓迎だ。
何しろこのウルドの村はまだまだ困窮しており、ムダ飯を食わせる者はいらないのだ。
「ところで……申し訳ありませんが……ヤマトの兄さま、お願いがあります」
「なんだ、言ってみろ」
ハン族長の娘の少女がスプーンを置き、真剣な表情で口を開く。
何かの大事な頼みごとにがあるのでろう。もちろんオレは話を聞いてやる。
「実は、私たちの部族の"形見の品”があります……その場所までヤマトの兄さまに連れて行って欲しいのです!」
「"形見の品”か。ああ、もちろん大丈夫だ」
こうしてオレはハン族の少女の頼みを聞くことにする。
"形見の品”は両親や家族を皆殺しにされた彼女たちにとって、命の次に大事な品だという話だ。
彼女たちの体力が完全に回復した数日後に、オレたちはウルドの村を出発することにした。