表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/177

第23話:強襲

 

 "戦い”は終わった。


「ひっ、た、助けてくれ……」

「命だけは、どうか……」


 足元ではひざまずきながら命乞いをしている男たちいた。

 その周りで横たわっている無残な死体に怯えながら、誰もが涙目で必死に懇願こんがんしている。


「どうしますか、“兄貴あにき”?」

「予定通り、身ぐるみをいで、ここに捨てていく」


「そ、そんな!? こんな山奥で、オレたち死んじまう!」

「なら生き残れ。これがオレたち“山犬やまいぬ団”のせめてもの慈悲だ」


 戦いが終わり撤収作業にはいる。

 宣言通りに山賊の残党の身ぐるみをがし、風車小屋へ捨てていく。


 ここから一番近い人里まで、この裸足で何時間かかるか分からいない。

 道中には野生の危険な獣が棲息しており、素手なこいつらが無事に生き残る確率は低い。


「よし、根城に戻るぞ」

「へい、“兄貴”!」


 兄貴ヤマトことオレの号令に従い、自称傭兵団“山犬団”のメンバーはウルドの村へ出発するのであった。



「ここまで来れば大丈夫だ、みんな」


 風車小屋からかなり距離が離れた。オレは同行している村のみんなに警戒解除を指示する。

 裸で捨ててきた山賊の残党が追ってくる気配はなく、もう演技の必要はない。


「無事に終わりましたね、ヤマトさま」

「ああ、とりあえずはひと安心だ、リーシャさん」

「村のみんなに大きな怪我もなく本当に良かったです……」


 山賊たちの根城である風車小屋への強襲は、オレたちの圧勝で終わった。終わってみれば本当にあっとう間のできごと。


 隣を歩くリーシャの言葉のとおり、こちらはほとんど無傷な一方的な戦いであった。


「兄貴、もうこの変装をとってもいいの?」

「ああ、もう大丈夫だ。それから、もう“兄貴”と呼ばなくてもいい」


「へい、ヤマト兄貴ちゃん! あれ、直んないや?」


 後方をついてくる子ども達は口元の布を外し、変装を解く。他の村人たちも偽装を解いていく。


 風車小屋を強襲する時、オレたちは顔を隠して変装していた。

 薄い布で口元を隠しただけの簡単な偽装。自分たちの身分を隠すために、互いの名を呼び合うのを禁止して、あだ名や暗号で呼び合っていた。


(“兄貴”か……今思うと、ずいぶんと陳腐な呼び名だったな)


 オレの通り名は“兄貴”。

 架空の傭兵集団“山犬やまいぬ団”のかしらという設定であった。

 そんなセンスのない名をつけたのでは、もちろんオレではなく他のヤツだ。勘弁してほしいものだ。


「それにしても……本当に私たち……勝てたのですね、ヤマトさま……」

「ああ。これも子供たちと村のみんな、それにリーシャさんのおかげだ」


「いえ、ヤマトさまの戦術が素晴らしいおかげです!」



 山賊を襲撃した時の、オレの作戦はシンプルだった。


 まずはオレとリーシャが気配を消して、風車小屋へと近づいていく。

 相手の見張りはオレのクロスボウとリーシャの機械長弓マリオネット・ボウで遠距離から仕留めた。


『あっ……』

『うぐっ……』


 脳天を貫かれた見張りは、叫ぶ間もなく絶命した。


 その後、先発隊の子供たちクロスボウ隊を風車小屋の周囲に配置する。

 互いに同士射ちにならないように、射線を斜めにクロスさせた陣形。戦国時代の鉄砲大名が愛用した、相手を皆殺しにする実戦的な陣形を参考にした。


 見張りを倒したオレは、風車小屋に忍び込む。

 村から持ってきた獣油とワラに火をつけて、黒煙をく。質の悪い獣油は異臭と黒煙を出すのに最適だ。


『火事だ!』


 オレは見張りの声を真似して叫ぶ。『煙と炎で焼け死ぬ前に、早く小屋から逃げろ』と叫んだ。


「ひっ……」

「いったい何事だ!?」


 煙と炎に驚いた山賊たちは、小屋から次々と外に飛び出してくる。

 出口は二か所しかなく、建物は蜂の巣をつついたような混乱状態。


「よし、撃て」


 オレの合図と共に、待ち構えていたクロスボウ隊から矢が発射される。

 発射と矢の装填のタイミングを二班に分けた、オレ考案の二段構えのクロスボウ式の戦術だ。

 烈火のように激しい矢の雨が次々と飛び交う。


「うぎゃ!」

「ひぐぅ!」


 小屋から外に出てきた山賊たちは、クロスボウの攻撃に次々と絶命していく。

 想定もしていなかった敵襲を受けて、さらに大混乱の渦におちいる。


「盾で防げ!」

「ひっ、盾が効かねえぞ、この矢は!?」


 山賊どもの中には、盾を使い防ごうとしていた者もいた。あの状況の中で賢い選択の一つであろう。

 

 だが、頑丈な盾さえもクロスボウの矢は軽く貫通する。呆気にとられている持ち主を次々と絶命させる。


 クロスボウは、たとえ金属鎧をまとっていても防げない烈火の矢の嵐。この世界の文明度では、防御すら許されない圧倒的な攻撃力だ。


「こ、降参だ!」

「たのむ! 命だけは助けてくれ!」


 虫の息の壊滅状態になってから、山賊たちは降参してきた。

 オレたちの目的は皆殺しでも殺戮さつりくでもない。降伏は認めてやる。


「だが、命を助ける代わりに、身ぐるみはいでいく」


 こうして戦いは終わり、残党の身ぐるみと財産を全て没収。やつらが持っていた馬と荷馬車も徴収して、オレたちは帰還していた。



「山賊の荷馬車と財産は、本当に持ってきてもよかったのですか? ヤマトさま」

「尋問して聞いたが、これも全部やつらが強盗で奪った物だ。慰謝料として遠慮することはない」


 村長の孫娘リーシャは、徴収してきた荷馬車と財産を見て心配そうにしていた。

 これは風車小屋に置いていっても、他の賊に使われる恐れがあるから持ってきた。高価な馬と荷馬車はウルドの村でも貴重である。


「“いしゃ料”……?ですか」

「迷惑料ということだ。“この子たち”のこれからの生活費の足しにする」


「……本当に"この子たち”を連れてきても、良かったのですかね……」

「こいつらが自分で決めた選択だ。今後についてはウルドの村に戻ってから決めよう」


 荷馬車に力なく乗っている子供たちを、リーシャは心配そうに見つめる。オレが見たことがない柄の民族衣装を着た子供たちだ。


(草原の民"ハン族”の子ども達か……さて、ウルドでひと波乱なければいいがな……)


 オレが風車小屋から連れてきたのは、山賊に捕まっていた子供たちであった。

 一族を皆殺しにされて孤児になった彼らを、オレはウルドの村に連れていくことにしたのだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ