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第22話:覚悟と決意

 山賊たちのいた風車小屋の偵察から、オレたちはウルドの村へ戻ってきた。


「では、状況を簡潔に説明する」


 村のすべての老人をの広場に集め、オレは話はじめる。夕飯後の緊急会議で未成年には参加権がない。

 

 数時間前に風車小屋に潜入し調べてきた情報を、オレは包み隠さず皆に知らせる。


「山賊たちは五日後、このウルドの村を襲う計画をたてていた」


「なんと……」

「まさか五日後じゃと……」


 まさかの情報に村人たちがざわつく。

 不審者が村の周囲をうろついていた情報は、ここにいる全員が知っていた。

 だが、まさかこれ程早く相手が行動を起こすとは、思ってみなかったのだ。


「山賊たちの人数はかなり多い。防備の弱いこの村は劣勢になる」


「そんな……」

「じゃが、たしかにこの村じゃ……」


 風車小屋にいた山賊団の規模は、思っていた以上に大きい。パッと見は手練れはそれほど多くはないが、とにかく人数がいた。

 防衛柵のないウルドは守りに向いておらず、ここを戦場にしたら劣勢は明らかだ。


「奴らは奴隷商人とも通じていた。辺境の村を襲い、子どものたちを捕まえて売り飛ばす。それ以外は全員皆殺しの山賊だ」


「皆殺しじゃと……」

「くっ、子ども専用の奴隷商人じゃと……」


 広場に村人たちの悲痛な声が響く。

 オレが風車内に潜入した時、捕まっていた他の村の子供たちがいた。服装から近隣の草原の民ではないかと、村長の孫娘リーシャは推測していた。

 

 その子ども達を四日後に奴隷商人に引き渡し、そのままウルドの村を襲いに来ると話していた。


 子ども以外の村人は皆殺し、家畜や金品などの財産を全て奪い、全てを焼き払っていく山賊団。

 いつも美味しい仕事だと、奴らは笑いながら話していた。


「報告は以上だ」


 オレの説明はそこで終わる。

 後は村人全員でどうするかを、話し合いで決めていく。


「財産をすべて明け渡して投降を……」

「話を聞いておらんかったのか? 奴らや皆殺しの……」


「村を捨てて近隣に避難を……」

「いや、また戻ってきたところを狙われる……」


 村人たちは蜂の巣をつついたように騒がしく討論し始める。

 どうすれば村と自分たちが生き残れるか、そのアイデアを出していく。


「じゃが、大人たちのいない今の村じゃ……」

「生活も回復してきたというのに……」


 だが、話し合いは平行線。最終的には悲観的な結論へと進んでいる。

 

 何しろ今の村には、一番頼りになるはずの成人の大人たちがいないのだ。地形的に辺境にある山岳の村で、どこにも逃げ込む場所が無いのが現状。

 まさに八方ふさがりの“詰み”の状態である。

 

 悲観な状況に誰もが無言となる。

 

「質問をしてもいいか? 村長」

「もちろんじゃ、ヤマト殿!」


 そんな雰囲気の中、オレは手を上げて発言を求める。

 村人たちは一斉にオレに注目する。もしかしたら、この状況を打破してくれるアイデアを出してくれるのではないか、と期待して。


「なぜ誰もあらがい戦おうとしないのか? 相手の山賊どもを打ち倒して、生き残ろうとしない?」


「なっ……」

「打ち倒してじゃと……」

「それこそ人殺じゃと……」


 オレのまさかの質問に広場は再びざわつく。オレがタブーに触れたかのように、批判的な声が次々とあがる。

 

(やはり、この反応になるか……)


 これは想定して反応だった。

 何しろ、この村で一番の“戦力”といえば、子供たちよるクロスボウ隊だ。

 

 彼らは昨年の秋から狩りでクロスボウを使いこなし、かなり練度が上がっていた。

 老鍛冶師ガトンの頑張りもあり、クロスボウは既に全員に行き渡っている。


 クロスボウは連射ができない欠点はあるが、その凄まじい破壊力と命中度・訓練の容易性はケタ違い。

 前衛の盾隊との組み合わせで、唯一の欠点である接近戦も解消される。

 おそらく対人戦闘でも強力な戦力となろう。


 それに、狩人の少女リーシャの機械長弓マリオネット・ボウと、オレが足されたのがウルドの村の現存戦力である。

 体力と力の衰えた老人たちは、正直なところ戦力として当てにできない。


 つまりオレの言葉は、『可愛い孫たちの手で山賊たち皆殺しに、自分たちは生き残ろう』という提案に聞こえたのであろう。


 誰もが自分の血の繋がった家族は可愛いものだ。気持ちは分からなくもない。


「強要はしない。オレは明日の夜明け前、村を出て風車小屋に向かう」


 村の会議からオレは離席する。明日の朝の準備をするために。



(朝か……)


 いつもの習慣で陽が昇る前に、オレは目が覚める。

 んである小川の水で顔を洗いサッパリとする。


 朝食は昨夜の残り物を口にしておく。

 これから数時間、森と山岳地帯を抜けて歩いていく。消化のいい炭水化物を中心に食す。


(備品このくらいでいいか……)


 朝食を終えたオレは、自分の装備を最終確認する。 

 道中の水や保存食、必要な備品。持っていく物を最小限にとどめ荷造りする。


(さて……次はコレかか……)


 オレはいつもの狩りの道具を、自分の身体に身につけていく。

 クロスボウと大量の専用矢。ナイフを数本に自衛用の防犯グッツも装備する。


(この狩り道具を……防犯用……いや。コレは、人の命を奪うための"武器”だ)


 言い訳をしようとした自分の心を訂正する。

 この世界は甘くはない。誰かの命を守るためには時には、時には相手の命を仕留めないといけない。


『待って! 話し合おう』そんな説得の言葉は相手には通じない。

 奴らが残虐非道な山賊であることは、先日の風車内の"悲惨な光景”で知っていた。


「よし……行くとするか」


 住んでいる村外れに平屋から外に出る。室内に遺書は置いていかない。

 なぜならオレは必ず戻って来るつもりだか。たとえ相手が武装した残虐非道な殺人集団だとしてもだ。


 自分の身体能力が向上しても、分が悪い戦いだ。

 オレは殺し合いには慣れていない。個人の戦闘能力で相手を圧倒しても、一瞬の心の迷いがあるかもしれない。


 迷いは時には致命傷を生む。


「だが、行くしかないな……」


 覚悟を決めた、その時であった。

 

 オレの行く手を遮る人影が目に入る。


「リーシャさん……村長……ガトンのジイさん……それにみんな……」


 村外れでオレを待っていたのは、ウルドの民であった。

 村長の孫娘リーシャに村の子供たち。村長と他の老人たち。そして山穴族の老鍛冶師ガトンとその孫たち。


「お前たち、その恰好は……」


 オレは言葉を失う。

 この村の住人たちが、思い思いの武装で村外れに集結していたのだ。


 一体いつの間に彼らは戦いの準備をして、集結していたのであろうか。それにまったく気がついていなかった自分が不甲斐ない。

 

 いや、もしかしたら……オレ自身も興奮し過ぎて、周りが見えていなかったのかもしれない。昨夜の会議での老人たちのように。


「ヤマト殿……昨夜は不甲斐ない姿を見せました。ワシらとて誇り高きウルドの男。ともにまいります!」

 村長をはじめ老人たちは武器を構えている。村の老人の中でも、比較的に動ける者が武装していた。

 年老いて力と体力は既にないが、その両眼には闘志が宿っている。


「ヤマト兄ちゃん、オレたちを置いていくなんてズルいよ!」

「僕たちのだって、もう一人前なんだから!」

 村の少年たちはクロスボウを手に、自信に満ちた顔でオレを見つめてくる。

 捕まり奴隷商人に売り飛ばされ、悲惨な人生を送るくらいなら足掻あがいて見せると。


「ヤマト様の背中は、私が守ります」

 機械長弓マリオネット・ボウを手に持つ少女リーシャが、自信に満ちた顔で微笑む。

 まるで神話に出てくる弓女神のように、神々しく頼もしい姿だ。


「お前ら……」


 想像もしていいなかった光景に、心が揺らぐ。

 同時に村の皆を信じてやれなかった自分が不甲斐ない。オレもまだまだ修行不足という訳か。


「厳しく、血なまぐさい戦いになるぞ」


「覚悟の上じゃ、ヤマト殿」

「『生きるためには強くあれ』だろ……ヤマト兄ちゃん」

「どこまでもヤマト様について行きます……」


 オレの問いかけに誰もが頷く。その覚悟を決めた強い眼差しを輝かせてながら。


「よし……では、行くぞ」


 こうして村の動ける者を率いて、オレは山賊たちが根城としている風車小屋へ”出陣"するのであった。




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