表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/177

第20話:新しい力と影

 老鍛冶師ガトンに呼び出されたオレは村の広場に戻ってきた。


「ふん、小僧。来るのが遅いわ」

「それが例の長弓か」

「ほれ、リーシャの嬢ちゃん用に調整済みじゃ」


 製作を依頼しておいた弓をガトンから手渡され、オレは動作を確認する。自分の設計図通りに滑らかに稼働しており、十分な仕上がりだ。


「さすがはガトンのジイさんだ。人外とも思える大した腕前だな」

「ふん。そんな奇怪な仕組みの弓を考えるオヌシの頭よりはマシじゃ」


 あいさつがわりに軽口を叩き合うのも慣れてきた。だが、大した腕前だというのは心からの本音だ。


「ヤマトさま……それが機械長弓マリオネット・ボウですか……この私の」

「ああ。最終確認をするから少し待て、リーシャさん」


 今回オレが山穴族の老鍛冶師ガトンに作ってもらったのは、複合式の長弓であった。

 使い手は狩人でもある少女リーシャだ。

 

 設計図はいつものようにオレが汚い図面に描き、頑固なジイさんと一カ月ほど協議しながら作り上げてきた。


(だが、本当にガトンのジイさんの腕は恐ろしいな……)


 弓の動作を最終確認しながら内心で感動する。

 この機械長弓マリオネット・ボウは普通の弓とは違う。理論としては現世にあった複合弓コンパウンドボウを参考にしていた。


 複合弓コンパウンドボウは滑車やケーブルを使い、テコの原理や力学など機械的な要素で作られた近代的な弓だ。

 

 ガトンのジイさんがクロスボウを作った時、オレはその歯車や装置の組み合わせからヒントを得ていた。

 そのヒントから現世の複合弓コンパウンドボウを更に進化させて、オレはこの機械長弓マリオネット・ボウの設計図を描いたのだ。


「歯車や滑車は内臓式にしたのか」

「あんな外部に露出したデザインには"鉄の神”は宿らん。ちゃんと中に組み込んでおるぞ」

「確かにそうだな」


 オレが一番驚いたのはその洗練されたデザインだった。

 機械長弓マリオネット・ボウはパッと見は普通の長弓に見える。だが設計図通りの力学的なシステムを弓の内部に隠し入れていた。


「試し射ちをしてくれ、リーシャさん」

「はい、わかりました」


 最終確認が終わった機械長弓マリオネット・ボウをリーシャに手渡し、実際に射たせてみる。

 見た目のデザインフォルムがいかに優れていても、威力や使い勝手に問題があれば失敗作だ。


「では、いきます」


 リーシャはスッと深呼吸をして弓を引く。

 村の広場に設置された金属板の的を、彼女の矢先が狙う。。


 いつの間にか集まっていた村人たちは、息をのみ静かに見守っている。広場にいた者の全ての視線が彼女の矢先に集まる。


「はっ!」という彼女独特の掛け声と共に、矢は空気を斬り裂き放たれる。


「おお!」

「これは……」


 そして次の瞬間、村人たちから驚きの声があがる。あまりの矢速に見逃した者の多い。


「凄いです……金属の板を貫通しています……」


 一番驚ているのはリーシャ本人であった。

 彼女のこれまで愛用していた弓では、これほどまでに分厚い金属板を貫通などできなかったからだ。それでいて手応えはいつもの弓と変わらなかった。


「よし、次は連射性能と正確性を測る」


 オレは用意しておいた、こぶし大の固い木の実を手に持つ。次はこれが動く的となる。


「いくぞ」

「はい、お願いします! ヤマトさま」


 その声が合図となり、オレは空に向かって木の実を次々と放り投げる。投擲間隔はリーシャの普通の弓での"連続射ち”のタイミングで。

 

 例え高威力であったとしても連射性と正確性が落ちているのなら、今回の試作品は失敗である。

 

 だがその心配は杞憂きゆうにおわる。


「おお! 全部、命中したぞい!」

「これほど素早く、しかもあの破壊力。こんな長弓など見たこともないわ……」


 村人たちの歓声があがる。

 このテストも大成功に終わったのだ。

 オレが連続投擲した全ての木の実を、リーシャは素早く射抜いたのだ。一切の無駄がないキレイなフォームだった。


「ヤマトさま……ガトンさん……これは本当に凄いです……」


 感動と衝撃のあまりリーシャは言葉を失っていた。

 自分の手と弓を何度も確認している。未だにこのおそろしい結果が信じらないのだ。


「威力はクロスボウよりも少しだけ劣る。だが連射性と正確性、飛距離は圧倒的に機械長弓マリオネット・ボウが上か」

「ふん。そういう注文じゃったろうが、オヌシの設計図では」


「ああ。だが想像していた以上のデキだ」

「ふん、ワシも正直なところ驚いておる」


 設計したオレと、製作したガトンも呆気にとられている。

 まさかここまでの高性能な機械長弓マリオネット・ボウが出来上がるとは、二人とも思ってはいなかったのだ。


「もちろんクロスボウと同じで、コレは誰にも複製はできぬぞ」

「だろうな」


「ワシですら、二個目は作れんかもしれん」

「それは困る」


 老職人ガトンと冗談を言い合いながら、オレの心は落ち着いてくる。


「リーシャさん。今日からその弓を使って慣れるといい」

「はい! 本当にありがとうございます、ヤマトさま……」


「ん? どうした……涙を浮かべて」

「ヤマト様のお役に立てると思うと、つい感動の涙が……」


「無理をせずに。期待している」

「はい! わたし頑張ります!」


 女心は相変わらずよく分からない。

 だがリーシャは新しく強力な道具を手に入れて、村のために役立てることを喜んでいるようだ。

 

 彼女ほどの凄腕の弓使いと機械長弓マリオネット・ボウが組み合わさったら、まさに鬼に金棒であろう。

 オレも頼もしく思う。





「ヤマト兄ちゃん!」


 そんな時であった。

 オレの名を叫びながら、広場に向かって駆けてる人影がある。


「どうした」


 息を切らせて辿り着いたのは、見慣れた村の子どもであった。今日はたしか数人一組で村の周囲を巡回していた一人だ。


「ヤマト兄ちゃん! 大変だ!」

「落ち着いて話せ」


 息を切らして興奮してる子供に水を飲ませて、落ち着かせる。どんな時でも冷静さが大事だと、子供たちには教えていたはずだ。


「また、"あの足跡”があったんだ。しかも今回はたくさん!」

「そうか。わかった……」


 それは田植え前のこのタイミングで、本当に嫌な知らせであった。


 少年が見つけたのは、この村の者ではない侵入者の痕跡だったのだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ