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第18話:新しい季節のはじまり

 

 ウルドの村に春がおとずれた。


「ようやく春ですね、ヤマトさま」

「ああ、日差しも暖かいな」

「はい、春の陽気ですね!」


 村の様子を村長の孫娘リーシャと見てまわる。

 冬の間に破損した家屋がないか、畑や水路の状況を確認して今後の作業の計画を立てる。


 ウルドの村は山岳地帯の盆地にあるが、湿気は少なく降雪量は少なかった。今のところ雪による被害はなく一安心といったところだ。


「これはリーシャ嬢にヤマト殿。"赤ちゃん”を見ていきますかい?」


 村内の巡回していると、作業をしていた村人が声をかけてくる。


「行ってみますか? ヤマトさま」

「ああ、見せてもらおうか」

 

 その老婆の案内で、オレたちは赤子のいる建物へと入っていく。

 つい先日に産まれたばかりの赤ちゃんの鳴き声が室内に響き渡る。


「まあ……本当に可愛らしいですね……」

「全部で十匹か。最初にしては上出来だな」


 オレの隣にいるリーシャはうっとりとした瞳で見つめている。

 目の前には可愛らしい野豚の赤ちゃんがいた。その数は十匹、薄暗い家畜小屋の中で一心不乱に母乳を飲んでいる。


「今のところ豚の世話は問題ないか?」

「へい、以前にも、ここで飼っていたので大丈夫です、ヤマト殿」


 その言葉のとおり、老婆は慣れた手つきで野豚の世話をする。豚以外にもこれまでヤギや馬牛など多くて扱ってきたという。


「また森で獣を捕まえたら、連れてくる」

「期待しているよ、賢者どの」


 老婆に見送られながら豚の飼育小屋をあとにして、次に向かう。

 

 心配していた野豚の出産が成功して、オレはひとまずひと安心する。

 

(この世界の豚の出産数は現世と同じくらいか……)


「それにしてもよく、あの野豚を捕獲できましたね、ヤマトさまは……」

「大したことはない」

「いえ、さすがはヤマトさまです!」


 リーシャの言葉にあるように、先ほどの家畜小屋にいた野豚は、冬の前に森の中でオレが捕獲してきた。

 大きさや外見は日本で見た豚とほとんど同じ。大猪ワイルド・ボアとは違い気性も荒くないので、家畜として飼うことにした。


 数日かけてメスとオス合わせて数頭ほど捕獲。先ほどの老婆の力も借りてさっそく交配させてみた。

 その内の数頭のメスが無事に妊娠して、最初に産まれたのが先ほどの十匹の子ブタである。数日後にはまた出産がある予定だ。


(さすがは豚系の繁殖力は凄いな……)


 ブタの繁殖力が優れているの有名な話だ。

 豚の妊娠期間は人より短く、約四ケ月で妊娠出産する。一度に十頭程度の子を産むため、一匹のメス豚は一年に三十頭ほどの子を産む。

 

 更には生まれた子ブタも数年で妊娠できるために、豚の繁殖力は家畜の中でも優れていた。


「豚の飼育はなんとか上手くいきそうだな」

「はい。豚は以前も村で飼育していたので大丈夫だと思います、ヤマトさま」

「そうか」

 

 先ほどの老婆の言葉にもあったとおり、ウルドの村では豚の飼育もしていた。

 この家畜小屋を中心に世話をして、エサは近くの森の木の実を食べさせていたという。

 秋になると腹一杯食べさせて太らせた後、冬前に多くの豚を殺して塩漬けにする風習だという。


 そこまで順調に豚の畜産が回復するまでには、少なくともあと二年はかかる。病気や気候、エサの問題もあるから。


 軌道にのるまでは、これまで通りに大兎ビック・ラビット大猪ワイルド・ボアを狩って肉類は補っておく。子供たちの狩りの経験値も上がるので一石二鳥である。



「それにも先ほどの赤ちゃんは、本当に可愛いかったですね、ヤマトさま」

「ああ、生命の力強さを感じる」


「ヤ、ヤマトさまは……あ、赤ちゃんはお好きですか……」


 隣を歩いているリーシャが訪ねてくる。オレが赤ん坊が好きかという問いだ。


「ああ、家畜にしろ、人にしろ沢山はいいことだ」

「わ、わたしも! そう思います……」


 食肉を提供してくれる家畜の繁殖の大切さは、先ほどの説明のとおりだ。

 また人の出産率も集落の繁栄には欠かせない。


 オレにいた現代日本では少子高齢化が進み問題となっていた。労働力不足や国力の低下など、出生率はかなり重要といえよう。


「ん? どうしたリーシャさん。顔が赤いぞ」

「えっ……」


「もしや熱でもあるのか? だとしたら心配だ」

「いえ……大丈夫です、ヤマトさま。わたし頑張ります!」


「ん……? 大丈夫ならいいが。それでは次は村内の水田の視察に行くぞ」

「はい!」


 村の中の様子を一通り見て回ったオレたちは、先日完成したばかりの水田に向かうことにする。


 村内の荒れ地となってしまった場所を、オレの考案した農機具を使い開墾して、水田へ改造したのだ。




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