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第149話:水都の遺跡

 オレは謎を解くために、南蛮族の城の地下にあるほこらに確認することにした。


「ここが祠だ」


 ゴウカクの案内で祠に辿りつく。

 そこは城の地下にある部屋であった。面積はそれほど広くはない。部屋の中央に不思議な装置が置かれている。


「ヤマトさま、これは、まさか……?」

「そうだ、リーシャさん。これは古代遺跡だ」


 祠の正体は超帝国の遺跡であった。

 予想外のことに荷馬車隊の他のメンバーも驚いる。


「ヤマトさまは知っていたのですか?」

「ああ。あくまでも予測だったがな」


 祠が古代遺跡である予感がオレにはあった。


 昨夜のレイランの夢の話を聞いた時。彼女の口から一人の人名が出てきたことで、予測していたのである。


「さて、オレが調べる。皆は下がっていてくれ」


 オレはその人名を探すために、遺跡を慎重に調べていく。

 古代文字はある程度まで読めるようになっていたので、ここでも支障はない。


「あった、これだ……“セザール・ル・クルス”、やはりな」

「えっ……セザール……その名は……」


 同行していたレイランが反応して、声を震わせている。

 なぜなら彼女はその古代人の名に覚えがあった。開祖の夢の中で、何度も耳にしていたのである。


「ヤマトさま……“セザール・ル・クルス”と言えば……」

「ああ。聖都の遺跡と同じ名だ」


 リーシャたち荷馬車隊のメンバーも、の古代人の名を覚えていた。

 聖都近郊で見つかった遺跡。そこに記載された名前と同じだったのである。


「つまりここもセザール・ル・クルスの遺跡ということになるな」


 オレは装置に刻まれた文字を解読していく。

 記載によると、これは何かの中継機器だという。聖都のものと同型なところを見ると、転移装置なのであろう。


「そして裏には……やはり、あったな」


 聖都と同じように、装置の裏に古代文字の落書きを見つけた。

 ここにもしかしたら何かのヒントが隠されているかもしれない。


「落書きの内容は……“セザール・ル・クルス……とシャンランの……二人だけの……秘密を……守護者ガーディアンで……”か。ダメだ、こっちも消えかけているな」


 前回と同じように、落書きは中途半端であった。

 そしてシャランという人名がまた記載されていた。

 どうやら二人は何か関係があるのであろう。それに“守護者ガーディアン”という新しい単語が出てきた。


「シャラン……ですって……?」


 その名を聞き、レイランは再び声を震わせている。同じくゴウカクもピクリと反応していた。


「シャランは……開祖の名……初代南蛮族の女王の名だ」

「なるほど、レイラン。たしかに時代は合っているな」


 南蛮族の言い伝えによると、開祖は超帝国の滅亡末期を生きていたという。

 それならば古代遺跡に彼女の名前が、記載されていてもおかしくない


「でもなぜ憎むべき超帝国人の遺跡に……開祖シャランの名が?」


 だがレイランは不思議がっていた。なぜなら超帝国は理不尽な力により、大陸中の民族を奴隷と化した。


 その中には古代の南蛮族も含まれている。つまり両者は激しく憎み合っていた関係なのだ。


 これに関連してはオレも今は予測不能。もしかしたら何か特殊な事情があったのかもしれない。


「さて、祠の調査はここまでだ。次はゴウカク、お前の知っていることを話せ」


 先ほどから険しい表情の南蛮王に尋ねる。この王がどこまで真実を知っているか知らない。


 だが何かしらの情報を知っているはずである。特にレイランと祠の関係について。


「そうだな、ヤマト。ここまできたなら全て話そう……私の姉が亡くなった時の話をな」

「父上の姉……ラスおばさまは、たしか病気で若くして……」


 ゴウカクの言葉に、レイランが強く反応する。


 彼女にとっても血縁者である伯母。その死の原因が気になるのであろう。


「私には一つ年上の姉ラスがいた。ラスは開祖の血を濃く引き、兄妹の中で一番優秀であった……」


 ゴウカクは静かに語り出す。それはこの男がまだ若いころの話であった。


「だがラスはある日から、おかしくなってしまった。

 実は姉は開祖の夢を見ていたのだ。そして今のレイランと同じ年頃で、衰弱して死んでしまったのだ……」


 ゴウカクは自分しか知らない秘密を告白する。


 姉ラスが開祖の夢に苦しみ、死んでいったことを。当時を思い出し、その表情は重い。


「未だに死因は分からない。だがラスはこの祠で最後は倒れていたのだ」


 夢遊病のようにラスはさ迷い、祠の中で息絶えていたという。


 だからゴウカクは祠と開祖の夢。この二つが何か関係していると、当時から推測していたのである。


「なるほど……そういうことか、ゴウカク。だからレイランの夢の話を聞いてから、彼女にワザと強く当たったのか? 大事な娘を水都から……いや、この祠から離したかったのであろう?」


 原因は不明だが開祖の夢を見た者は、衰弱死する危険性があった。

 それを知っていたゴウカクは、レイランを守るために演技をしていたのであろう。


「ああ、そうだ、ヤマト。だが、いつから私の隠し事に気がついたのだ?」

「大広間でのゴウカクの反応、あの時だ」


 オレが気づいたのは、ゴウカクがレイランに命令を出した時である。


 あの時、この南蛮王は誰にも聞こえないように呟いていた。そこには親としての深い慈愛が込められていた。


 それに真偽の魔眼が微かに濁っていた。おそらくアレはゴウカクの嘘に反応したのであろう。


「なるほど、そこまで見抜かれていたとはな……ヤマト、お前も何か魔眼をもっているのか?」

「いや。オレは状況を冷静に分析したまでだ」


 オレは他人の人間関係に対して、敏感である自覚はない。


 だがこの世界で多くの人たちと、多くの経験をしてきた。もしかしたらそのお陰で、自分も少しは成長していたのかもしれない。


「さて、ゴウカクの話はここまでだ。オレの次の予想では、この装置はもう一つあるはずだ。それもマリアの転移した先……南海諸島にある」


 それはオレの最後の読みであった。


 聖都と水都、そして南海諸島。

 おそらく転移装置はこの三ヶ所にある。セザール・ル・クルスは何か目的があって、装置を設置したのであろう。


「とにかく今は南海諸島に向かおう。おそらく、そこにレイランを助ける方法もあるはずだ」


 マリアの強制転移。レイランの開祖の夢。今回のその事件を解明するには、最後の遺跡を調べる必要がある。


 おそらく装置の落書きが判明した時。それが全貌の解明のヒントになると、オレは読んでいた。


 だからすぐに南海諸島に向かう必要がある。そこでマリアも救出して、万事を解決するために。


「さて、南蛮王……いや、ゴウカク。レイランの父として行く舟を貸してくれ」


 改めてゴウカクに依頼する。


 事情を知った今回は大族長に対してではない。娘を想う一人の父親として協力を仰ぐ。


「分かった……舟を出そう。だが二日間だけ待ってくれ。今は別の脅威が差し迫っていたのだ」


 ゴウカクは全面的な協力を約束してくれた。だが眉をひそめて別のことを悩んでいる。


「別の脅威? ヒザン帝国のことか、ゴウカク」

「ああ、そうだ。今回の相手はこれまでになく手強い」


「皇子ロキの率いる騎士団か?」

「ああ。そんな名であったな。あの勇敢な指揮官は」


 やはり帝国軍の遠征の指揮官はロキであった。


 話によるとロキは事前に、正々堂々と開戦の宣言を行ってきたという。それでゴウカクも一目置いていたのである。


「今は東の砦が最前線だ。だから舟を出すのには時間がかかるのだ、ヤマト」

「なるほど、そういう状況か」


 帝国軍は水都に向かって進軍していた。


 現在は水都の東の砦で、両軍はこう着状態だという。そのため人手でのかかる舟の準備ができないという。


「だが、ゴウカク。一つ言ってもいいか? あのロキたちが相手だと分が悪い。この水都はいずれ落ちるかもしれない」

「随分とはっきりと言うものだな」

「ああ。知っての通りオレは嘘が苦手だからな」


 オレの読みでは南蛮軍は負けるであろう。

 何しろ今回の相手は大陸随一の兵法家であるロキである。更に配下の騎士団は、霊獣にすら怯まない猛者揃い。

 あの騎士団とまともに戦える国など、この大陸に多くはないであろう。


 今のところ南蛮軍も樹海の地形を生かし、ゲリラ戦で善戦はしていた。だが多勢に無勢。あくまでも時間稼ぎにしかならないであろう。


「そしてオレがロキなら、このタイミングで奇策を打つ」


 オレは更なる予測を説明する。

 これまで帝国軍は正攻法で進軍してきていた。だが恐ろしい奇襲や伏兵の手を、すぐに打ってくるであろうと警告する。


「そんな、バカな⁉ この樹海の中で奇策だと?」


 ゴウカクは信じられない表情であった。

 何しろ南方樹海の地形は険しく、変則的である。下界の者がそれに対応ができるとは思っていないのであろう。


「あのロキは普通の知略家はない。今この大陸が無事なのは、あの男がオルンを死守したお蔭だ」


 霊獣大戦のオルン攻防戦は、人外である霊獣軍と非力な人の戦いであった。


 だがロキはそこで見事に連合軍を総指揮。オレが戻るまで持ちこたえた猛者なのである。

 南蛮軍に気がつかれずに、奇策を実行するのもお手の物であろう。



「ゴウカクさま大変です!」


 そんな時である。

 遺跡のある部屋に、南蛮の戦士が駆け込んできた。


「どうした⁉」


 興奮していたゴウカクは声を荒げる。だが戦士のただならぬ様子に、平静さを取り戻す。


「申し訳ありません、ゴウカクさま。ですが帝国軍が水都の南の門を襲撃してきました!」

「バカな⁉ 南からだと⁉」


 まさかの報告にゴウカクは絶句する。

 何故なら帝国軍が進軍しているのは、東の方角からである。

 それなのに険しい南の方角から現れた⁉ それが理解できずにいた。


「続いて報告いたします。南の第一の門は、帝国軍によって一撃で破られました!」

「バカな……あの城門を一撃だと⁉」


 戦士の更なる報告に、ゴウカクは混乱していた。

 この水都の城門は強固な材木で堅牢である。それがたったの一撃で破れたのだという。


「見張りの者の報告では、帝国軍は南の渓谷を越えてきたようです。そして城門は巨大な暴風の斬撃で破られてしまいました」

「まさか、あの険しい渓谷を下界の者が越えてきたのか⁉ それに相手には魔剣があるのか⁉」


「はい。野獣のような大男が使い手だという話です」

「くそっ……まさかな……」


 ここまでの素早い奇襲は、ゴウカクたちの想定外であった。


 オレの予想通り、ロキに完全に裏をかかれている。信じられない報告の連続に、祠の間は静まりかえっていた。


「おい。帝国軍は一つ目の城門を突破しただけか?」


 そんな静寂の中。報告にきた戦士に、オレは戦況を確認する。


「あっ、はい。今は第二の門で応戦しています。ですが、いつまで持つか……」

「なるほど。分かる範囲でいい。この紙に書いてくれ」


 水都の簡易地図を書かせて、侵攻してきた帝国軍の現在地を確認する。

 そしてこの城からの最短ルートを聞き出す。


「よし。これなら、まだ間に合うな。行くぞ」


 状況を確認したオレは、椅子から立ち上がる。情報が正しければ、今からでもまだ間に合うであろう。


「待て、ヤマト。行くとは……いったい何処に?」


 混乱していたレイランは尋ねてくる。オレの急な行く先を案じていた。


「決まっている。帝国軍の総大将……ロキを止めにいく」

「バカな⁉ 戦はすでに始まっているのだぞ……」

「大丈夫だ。まだ間に合う」


 オレは状況を冷静に把握していた。たしかに戦はすでに始まっている。


 だが第二の城門が破られる前に、ロキを止めたらならまだ間に合う。この戦の被害を最小限に抑えることができるのだ。


「そんな……戦中に交渉に行くなど、自殺行為だ……」

「大丈夫だ、レイラン。時間が惜しい。道案内を頼む」


 ここから城門まで道案内が必要である。特に今は戦時となり水都は大混乱となっていた。

 そんな中で迅速に動くには、レイランの同行が必要である。


「ヤマトよ、聞かせてくれ。お前は何故、ここまでして尽くすのだ? 聖地に行く舟を得るためか?」


 冷静になったゴウカクは静かに尋ねてきた。

 何故、何の縁もないオレたちが、帝国軍を止めようとするのか。何故この水都を守ろうとするのかと。


「タクスの村で南蛮族に、飯と宿を世話になった、それが理由だ」

「なんだと……たった、それだけの理由で?」

一宿一飯いっしゅくいっぱんの恩。それがオレの理由だ」


 もしも自分が困った時。ひと晩の寝床と食事をご馳走になった相手には、一生をかけて恩返しをしなくてはいけない。


 それは我が楠家に伝わる古めかしい家訓。だがそんな家訓をオレも嫌いではなかった。


「はっはっは……南蛮王よ、諦めるのじゃ。こうなったヤマトは頑固だぞ。さて妾たちも行くぞ、リーンハルト」

「そうですね、シルドリアさま。まったくこの男ときたら……」


 二人の騎士は毒づきながらも、すでに覚悟を決めていた。装備を確認しながら移動の準備をする。


「いいのか? 荒事になるかもしれないぞ」


 二人の騎士に改めて確認をする。


 何しろ今回の相手は帝国軍。シルドリアはロキの実妹であり帝国の皇女。またリーンハルトは大剣使いバレスと特に親交が深い。

 場合によっては親しい彼らと、剣を交える可能性もあるのだ。


「もちろん覚悟はできている。いくらお前でもロキ殿下とバレス卿……あの二人を同時に相手するのは難しいからな」

「ふむ、リーンハルトの言うとおりじゃ」


 二人は覚悟を決めていた。この世界の戦いは非情である。例え兄妹や友人であっても、戦場では剣を交える時があるのだ。


「という訳だ、ゴウカク。市民や戦士たちに無茶をさせるな」

「ああ、ヤマト。だが第二の門が破られるまでだぞ」

「上出来だ。それでいい」


 ゴウカクの言質はとれた。これで市民が民兵となり、玉砕で散る危険性は減った。


 あとはオレたちがロキを説得すれば、戦を止めることができるであろう。


「リーシャさんはオレに付いてきてくれ。ラックは荷馬車のガトンたちに合流して待機だ」


 仲間たちに今後の指示をだす。ここからは時間の勝負であり、連携が重要であった。


「よし。ロキたちを止めに行くぞ」


 こうしてオレたちは帝国軍の向かって行くのであった。


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