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第148話:水の都

「ここが水都か」

 

 オレたちは南蛮族の都に到着した。レイランの案内で大通りを進んでいく。

 外部からきた荷馬車隊に、多くの市民の注目が集まる。

 だが南蛮族の姫であるレイランのお蔭で、無事に通りを進んでいく。


「それにしても随分と大きな都だな」

「南蛮族の多くの民が、ここで暮らしているのだ、ヤマト」

「なるほど、そういうことか」


 レイランの説明を受けながら街並みを観察していく。


 さすがに聖都ほどの規模はないが、水都の住民もかなり多い。ちょっとした都市国家ほどの規模はある。


 建築物は木造が中心であるが、文明度はそれほど低くはない。

 とにかく樹海の中にこれほど大規模な都があるのは驚きである。


「ヤマトさま、あそこを見てください。木の上に砦があります」

「なるほど。たしかにあれは凄いな、リーシャさん」


 都の各地には何本もの大樹があった。その地形を上手く利用して都は広がっている。

 初めて見るそんな光景に、荷馬車隊の面々は驚きの連続であった。


「ここは随分と複雑な街のつくりだな、レイラン」

「都全体が城塞の役割もあるのだ」

「なるほど。天然の要塞というわけか」


 レイランの解説を聞きながら、街の中を進んでいく。


 水都はその名の通り、大小の河川に囲まれた都であった。周囲は断崖絶壁の崖と、頑丈な城壁で囲われている。

 内部には食料も豊富で、まさに難攻不落の城塞都市といったところであろう。


「それにしても武装した市民が多いな」


 街行く男性の多くは体格がよく、弓や剣で武装していた。その比率は異様なまでに高い。


「水都に住む成人男子は、有事に際しては戦士となる」

「なるほど。市民でありながら狩人戦士でもあるのか」


 南蛮族は狩猟や漁業によって食料を得る必要がある。

 そのため男は幼いころから自然の中で鍛えられていたのだ。


「あっ、姫さま。お帰りなさいませ!」


 大通りを進んでいた時である。

 南蛮族の女の子が近づいてきた。人懐っこい笑顔が印象的である。


「キレイな花を見つけたので、姫さまもどうぞ」

「ああ、いつもわるいな」


 女の子は摘んできた花飾りを、レイランにプレゼントしていた。

 やり取りから察するに顔見知りなのであろう。レイランは柔らかい笑みで応対している。


「あの……姫さま。その外界の人たちは……」

「この者たちは私の命の恩人だ。これから城に案内する」

「姫さまの命の? それなら外界の人も、このお花をどうぞ」


 女の子はオレにも花飾りをくれた。そして恥ずかしそうに立ち去っていく。


「水都の市民にも人気があるな、レイランは」

「我々の部族は階級をあまり気にしないからな」


 話によると南蛮族には階級制度がないという。

 大族長も市民も同じ戦士の一人として同格。それで先ほどの女の子も、レイランに気軽に話かけてきたのだ。


「なるほど。だからそこの水都はいい雰囲気なのだな」


 それはオレの率直な感想である。


 閉鎖的な部族であるために、誰もが助け合い暮らしていた。そして街行く子どもたちに笑顔があった。

 こういった素晴らしい街は大陸でも珍しい。


「さて、ヤマト。雑談はここまでだ」


 案内をしていたレイランの声が変わる。表情も少し緊張していた。


「あれが南蛮族の城。父上のいる城だ」

「そうか。あれが、そうか」


 水都の最深部に大きな城が見えてきた。周囲に何重にも堀が巡らされた堅牢な建物である。


「大族長か。さて、どんな人物か……」


 マリアのいる南海諸島に渡るには、特別な舟が必要となる。


 その所有者である大族長の許可をもらうために、オレたちは謁見に向かうのであった。



「キサマがウルドの村のヤマトとやらか?」

「ああ。そうだ、南蛮王ゴウカク」


 レイランの段取りで、彼女の父親ゴウカクに謁見することができた。南蛮王とはこの大族長の二つ名である。


 護衛の南蛮戦士が立ち並ぶ大広間で、オレたちは南蛮王との謁見を開始する。

 こちらのメンバーは、子どもたちとガトンを除く全員である。留守番の者は城の中庭で待機していた。


「さて、ゴウカク。南海諸島に行きたい。舟を貸してくれ」


 オレは代表者として単刀直入に目的を告げる。


 自分たちの大事な仲間を助けに行きたいと。他に目的は無く、マリアを助けたら樹海から立ち去ると説明する。


「何だと……あの島に行きたいだと? それはならん」


 ゴウカクの返答もシンプルであった。強い言葉で拒絶してくる。

 巨躯から放たれたその声には、断固たる意志が込められていた。


「南海諸島は開祖から授かった、大事な禁忌の場所だ」


 ゴウカクは南蛮族の掟につい説明してくる。


 南海諸島に行ける舟はたしかに、この水都にあると。だが普通の者の上陸は叶わん。それ故に舟を出すとことはできない。


 強い言葉でもう再度拒否してくる。


「なるほど、そういう事情か。それにしても随分と外部の者に、大事な掟のことを話すのだな、ゴウカク?」

「お前たちはレイランの命の恩人だ。恩に対しては義で返す。それが開祖の習わしだ」


 ゴウカクは威圧的な外見とは違い、友好的な対応であった。時おり鋭い気を放ちながらも、丁寧に返答してくれる。


 オレたちは万が一に備えて、荒事も想定していた。

 だが今のところは剣を抜く必要は無さそうである。

 荒事を楽しみにしていたシルドリアの出番は、どうやら無さそうであった。


「恩に義か……やはり南蛮族に対する悪い情報は、あくまでも噂だったのか」


 オレが聞いてきた範囲で、南蛮族には様々な怪しい噂があった。


 人をさらい頭から食らうとか。怪しい邪神を信仰しているとか。とにかく恐怖の対象であった。


「ふっ。ワシらは樹海を守るためには命を賭ける。だが、それ以外の争い好まぬ」


 そんな外界の噂話をゴウカクは鼻で笑う。


 たしかに樹海に侵攻してきた相手を、戦士たちは実力で排除してきた。だが、あくまでも自警の戦いでもあると断言する。


「やはり、そうか。噂とは所詮そんなもんだ」


 オレも基本的に他人から噂は信じていない。


 情報は伝わる段階が多いほど、湾曲していく危険性があった。特に今回のように閉鎖的な異民族の噂は間違いが多いであろう。


「なるほど、そんな考え方もあるのか。ヤマトは外界の者にしては、なかなか面白いな」


 会話をしながらゴウカクは、こちらをじっと見つめてくる。

 そして瞳には怪しい光りが灯っていた。


「んっ? それは、ゴウカクの目には何か力があるのか?」

「ほう、これが見えるのか? 流石だな」


 力を見破られながらも、ゴウカクは不敵な笑みを浮べている。その瞳の光が先ほどより強くなり、強い魔力マナを放っていた。


「これは開祖からワシが受け継いだ“魔眼”だ」


 レイランと同じようにこの男も、開祖の血を濃く引いていた。


 ゴウカクは魔眼の能力を包み隠さず説明してくる。この“真偽を見破る力”があれば、相手の嘘真を見破れるという。


「これがあったからヤマト、お前を初めから信用していたのだ」

「なるほど、そういうカラクリか」


 ゴウカクが最初から友好的な理由が分かった。

 娘レイランを助けてくれた恩人として。それに加えて魔眼の力でオレを測っていたのだ。


「ヤマトの言葉には最初から最後まで、何一つ一つ嘘や偽りがなかったぞ」

「たしかに、オレは駆け引きが苦手だからな」


 自分は遠回しな言葉が苦手で、嘘はつけない。おそらく周りから見たから面倒くさい性分なのであろう。

 だが今回ばかりは役立っていたのである。


「だが南海諸島に舟は出せん。それ以外の褒美なら与えよう」


 ゴウカクは強い言葉に戻り、謁見を最終段階に進めていく。


 南蛮王は用意させた金銀財宝を指差し、こちらの望みを聞いてくる。

 南方樹海では砂金の産出が豊富。舟を出す以外の望みなら、何でも叶えてくれると宣言した。


「そして褒美を持って樹海から出ていってくれ。レイラン。お前は彼らの見送りが終わったら、またタクスの村に戻れ。次はもう戻ってくるな」


 ゴウカクは毅然とした態度で娘に命令する。そこには王としての断固たる意志があった。


「すまぬ……これも……部族を守るためなのだ……」


 だが誰にも聞こえないように呟いた、ゴウカクのそのひと言。

 そこには強い慈愛が込められていた。そして魔眼の光も微かに白く濁っている。


(……なるほど。そういうことか)


 ゴウカクの一瞬の変化を、オレだけは見逃さなかった。

 それから推測するにゴウカクは何かを隠している。おそらくはレイランに関しての重大なことであろう。


 南蛮王は偽りの言葉で、娘を水都から追い出そうとしていたのだ。


「さて、ゴウカク。望みが決まった」


 その真相を突き止めるために、オレは一つの希望を伝える。


「そうか、望みは何だ、ヤマト?」

「この地下にある開祖の祠を見せてくれ」


 開祖の祠とはレイランから聞いた存在である。

 そこには南蛮族の開祖が残した宝の鍵が隠され、この城の地下にあるという。


「祠だと⁉」

「きさま……あの祠は!」

「いくらレイランさまの命の恩人とは許せん!」


 希望に対して、護衛の戦士たちが声を荒げる。戦士たちは腰の剣に手を置き、激昂していた。

 それほどまでに彼ら部族にとって、祠は大事な存在なのであろう。


「お前たち、待て。あの祠を見たいだと? お前も宝の鍵が目的か、ヤマトよ?」


 そんな怒声の中で、ゴウカクだけは落ち着ていた。両眼に魔力マナを込めて、こちらの真意を確認してきた。

 だが同時にその右手は蛮刀に掛けられている。オレに嘘偽りがあるなら、斬って捨てるつもりなのであろう。


「オレは鍵にも宝にも興味はない。祠を確認するのはレイランのためだ」

「なんだと……我が娘のためだと?」


 ゴウカクの顔がピクリと反応した。こちらの真意を確かめるために、魔眼が更に強く光る。


「レイランの夢の話を聞いた。その確認のために祠を調べたい」


 オレの頭の中にはある仮説が浮かんでいた。その確認のために祠を調べたかったのである。


「ヤマトよ、お前はレイラン……娘を救えるのか?」


 ゴウカクは意味深な言葉で訪ねてきた。もしかしたら開祖の夢は、レイランに何か影響があるのかもしれない。


「確実な約束はできない。だが最善を尽くそう」


 それに対したオレは、最大限の努力をすると約束をする。彼女の夢にどんな秘密があるか知らない。


 だがレイランに対してもオレは恩がある。それを返すためにはオレは最善を尽くすまでだ。


「そうか、そのような想いがあるのか……よし、お前たちを祠に案内しよう」

「ゴウカクさま⁉」

「皆の者、大丈夫だ。このヤマトという男は信じるに値する」


 ゴウカクの決断に部下たちはざわつく。まさか外界の者に、大事な祠を見せるとは思ってみなかったのであろう。

 だが偉大なる南蛮王の言葉は何よりも強い。


「ああ、ゴウカクの英断に感謝する」


 こうしてオレたちは城の地下にある祠に向かうのであった。


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