表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/177

第138話:聖女の行方

 聖都郊外の遺跡の調査中に、聖女マリアが消えてしまった。


「そんな……マリアが……」


 リーシャは妹が消え去った空間を唖然としていた。

 すぐ隣にいたにも関わらず、未然に防げなかった自分を攻めていた。


「大丈夫だ、リーシャさん。マリアは通信の魔道具を持っている」


 オレは彼女を励ましながら魔道具を取り出す。

 これはマリアから預かった通信の魔道具。どんな遠距離でも通信できる、貴重な古代の魔道具であった。


「マリア、聞こえるか?」


 オレは無線機の要領で魔道具に問いかける。

 使用者の魔力マナを消費して、マリアに声が届くはずであった。


『……ヤマト……さま……はい、聞こえています』

「マリア!」


 聞こえてきたマリアの声に、リーシャは安堵の表情を浮べる。

 やや通信状況が悪いが、元気そうな声であった。全員に聞こえるようにマリアとの通信を続ける。


「マリア、状況は分かるか?」

『……はい……どうやら私は遺跡の装置で……強制転移させられたようです……今のところ、周囲に危険はないです』


 マリアは冷静に分析して報告してくる。 

 転移先は薄暗い遺跡の中だという。正確な場所は分からない。

 だが海の潮と甘い花の香りが、風に乗って流れてくると報告してくる。


『……それにとても蒸し暑いです……まるで真夏のように、とても汗ばんできます……』

「この季節に蒸し暑いだと? ラック、地図を出してくれ」

「了解っす、ダンナ!」


 報告を聞きながら指示を出す。

 ラックは懐から一枚の地図を取り出し広げる。それは大陸中に交易ルートを持つ、ガネシャ家の秘蔵の大陸全土の地図であった。


「この時季に蒸し暑いとは妙だな?」


 今はもう秋の季節であった。

 ここ聖都近郊も肌寒く、長袖の上着が欠かせないほどである。


「ヤマトよ。大陸の南なら年中暑い気候じゃぞ」

「なるほど、そういうことか」


 シルドリアの話を聞き情報をまとめていく。

 大陸南部は年中を通して真夏に近い気候だという。それならばマリアの報告も納得いく。


「だが情報がもっと欲しいな」


 大陸の南といっても広大な地域である。

 マリアを救出に向かおうにも、闇雲に動いてはらちが明かない。更に手がかりになる情報が欲しい。


「ヤマトさま……ここです」


 その時である。

 リーシャが小さくつぶやく。地図を指差し何かを示している。


「妹は……マリアは、ここにいます」


 彼女が示していたのは、消えたマリアの転移先であった。

 大陸の南にある諸島の一つを示していた。


「マリアの居場所が分かるのか、リーシャさん?」

「はい。上手く言えませんが、間違いなくここにいます」


 答えるリーシャの真剣な表情であった。そして両目はうっすらと光を帯びている。


「もしかしたらリーシャさんには魂鍵マナ・キーの力が、残っていたのかもしれないな」


 リーシャは魂鍵マナ・キーの力を継承している。

 霊獣大戦後にその力の全ては失われていた。だが妹マリアの危機に、何かの力が発揮されたのもしれない。


「なるほど。これで場所は分かった。マリアの救出部隊を編成するぞ」


 リーシャのお蔭で正確な居場所が判明した。

 距離的にウルド荷馬車隊で飛ばしていける場所。マリアのために急いで出発する必要がある。


「待て、ヤマト。その場所はマズイぞ」


 地図を指差しリーンハルトが眉をひそめる。

 正義感にあふれるこの騎士にしては珍しい、躊躇の表情である。


「そうっす、ダンナ。そこは、南海地方……ヤバくて、危険な場所っす!」


 同じくラックも暗い表情である。

 大陸の南にある半島と諸島で形勢された地域。それが“南海地方”と呼ばれている地方だという。


「そうじゃ、ヤマトよ。そこは我が帝国でも手を出せない“南蛮部族”……そいつらが治める国があるのじゃ」


 ヒザン帝国の皇女であるシルドリアが補足する。

 南海地方は古来より蛮族どもが住み着いていると。近隣諸国ですら開拓できない禁忌の場所だという。


「我らが帝国軍ですら攻め入ることができん。そこは死の南方樹海じゃ」


 大陸でも随一の軍事力を誇るヒザン帝国。

 その大遠征をもってしても攻略できない、危険な地域だという。


「なるほど。だから、この地域だけが国が建っていないのか」


 オレは仲間たちの警告を聞きながら、地図を再確認する。


 東のヒザン帝国と西のロマヌス神聖王国。そして交易都市オルンを含む中央平原の各諸国。

 それらとは全く違う種族が巣くう地域。それがマリアの転移した南海地方なのだ。


「だが、それがどうした。オレは侵略戦争を起こすわけではない。仲間であるマリアを迎えにいくだけだ」


 暗い表情の仲間たちに今回の目的を伝える。

 救出に向かうのはウルド荷馬車隊の少数精鋭で。ロマヌス神聖王国の兵力は使わないと。マリアを救出して帰ってくるだけの、安全な旅だと説明する。


「そうっすね……これまでどんな探検者や商人でも、南海諸島には到達できなかった。でもダンナと一緒なら行けそうな気がするっす!」

「そうじゃのう、ラック。本当に不思議な男なのじゃ、ヤマトは」


 シルドリアたちは苦笑いを浮かべる。

 さっきまでの重い空気をふっきり、清々しい表情となっていた。


「私はヤマトさまを信じて、どこまでも付いて行きます」


 リーシャは最初から決意を固めていた。

 どんな困難があろうとも妹マリアを救いだす強い覚悟と意志。オレと一緒に数々の試練を乗り越えて、彼女も強く成長していた。


「山穴族の口伝では、南海地方には美味い果実酒があるというぞ」


「それなら美味しい果物もあるはずだよね!」

「美味しそうだよね!」

「今から楽しみだね!」


 ガトンや子どもたちも同行する気満々であった。

 遺跡の調査を中断して、早くも南に向かう準備を始めている。


「やれやれ。相変わらず食い意地がはった連中だな」


 誰も足を踏み入れたことのない危険な南海地方。恐ろしい蛮族たちが治める危険な森への旅。

 だが荷馬車隊のメンバーは誰もが覚悟を決めていた。


「よし、準備をして南海地方に向かうぞ!」


 こうしてマリアを救出するために、オレたちは南海地方へ向かうのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ