第102話:襲撃者を退けて
襲ってきた賊を、オレたちは一方的に返り討ちにした。
その後は手早く“戦後処理”を終える。
日が明けた翌朝は早めに出発して、ウルド荷馬車隊は移動を再開する。
「傭兵崩れのお蔭で、昨夜は寝不足じゃな、ヤマト」
「だが情報は得られた」
御者台の隣に座る皇女シルドリアと、昨夜の襲撃の情報をまとめる。
襲ってきた傭兵たちを、自衛のためにオレたちは逆に殲滅した。
相手の多くは弩隊の連続斉射で息絶え、蜘蛛の子を散らすように敗走する。
傭兵の頭と思われる大男は、オレが一気に接近して捕縛。その後は尋問して、今回の襲撃の黒幕を暴こうとした。
「結局、黒幕は不明じゃったのう、ヤマト」
「ああ、そうだったな」
尋問で大まかな情報は得られた。
傭兵たちを雇ったのは“ハザン”という交易商人だという。
因縁のある荷馬車隊を恨んでいる、と傭兵に語っていた。金払いもよく前金で大金を支払ってくれる。金に困っていた傭兵たちにとって、まさに最高の依頼人だったという。
「“ハザン”は負を司る単語じゃ。商人で普通は名乗る者はいない」
「つまり偽名ということか」
もちろんオレたちも知らない名であった。
傭兵の話では、依頼人は顔をフードで隠した男だったという。落ちぶれているとはいえ傭兵たちもプロ。依頼人の身元を詮索することはしなかった。
何しろ好条件。依頼人が教えてくれた日時、そして場所に身を潜めて隠れておく。あとは子どもだらけの荷馬車隊を襲撃するだけの簡単な仕事。
もちろんその子どもたちは“普通”ではなかったのだが。
「なぜ、その依頼人は“あの場所と時間”を予測していたのじゃ、ヤマト?」
「ああ、そこが問題だ」
シルドリアが首を傾げるのも無理はない。
オレたち荷馬車隊は何の事前通達もなく、村を出発して聖都を目指すことにした。
途中でオルンを経由してからも、通常とは違うハン馬の高速移動でここまで来ていた。
昨日の野営地を選んだのも偶然の結果である。
だが、そのフードの依頼人は寸分の狂いもなく、場所と時間を傭兵たちに指示していた。しかも指示を出したのは、今から数日前のことだという。
「ふむ、それなら霊獣管理者の奴の陰謀か、ヤマト?」
「あの少年なら、こんな回りくどいことはしてこない」
不思議な力をもった霊獣管理者の少年が、今回の黒幕の可能性も考えていた。
だが、あの程度の規模の傭兵団を、オレたちが苦にしないのを、あの少年も知っているはずである。何しろ巨竜アグニすら打ち倒す者たち。
そんな回りくどい強襲よりも、霊獣を召喚して襲撃をした方が、成功の可能性は大きい。もちろんオレたちは万全の体制を整えているので、霊獣の襲撃にも対応はできる。
「ふむ、あまり気にしない方がいいかもしれんな、ヤマト」
「ああ。聖都まで道のりはまだある。気持ちを切り替えていくぞ」
昨夜の襲撃に関するまとめは、この辺で終わりにしておく。今後も変わらず道中は警戒しながら帝都を目指していく。
(直前に感じていた不快な視線も、今はない……心配し過ぎかもしれないな……)
ちなみに襲撃してきた傭兵たちから、依頼料の前金を全て慰謝料として徴収しておいた。やり過ぎかもしれないが、無力な荷馬車隊を狙う傭兵団に慈悲はない。
◇
それから更に何日も経つ。
特に大きな事件もなく、荷馬車隊は順調に街道を進んでいく。そして隊はロマヌス神聖王国の領内へと入る。
神聖王国内の街道を聖都へ進む。
「神聖王国は随分と豊かだな」
「はい、ヤマトさま。ここは大陸で最も豊かで、長い歴を誇る大国ですから」
街道沿いの農村部をリーシャと眺める。
多くの農民たちが忙しそうに汗水をたらしながら、農作業に勤しんでいた。辛そうな農作業の合間に、胸に下げた加護符に祈りを捧げている。
「神聖王国はその名の通り、“ロマヌス教”の信者が多い国です、ヤマトさま」
「たしか天神ロマヌスを崇める宗教か」
神聖王国に関しては、ある程度の知識は得ていた。
西にある大陸でも最大の王国であること。歴史的にも最も古くからあり、伝統を重んじること。そしてロマヌス教を国教としている厳格な国であること。
「とにかく平和で、いい国だな」
「そうか? 我がヒザン帝国の方が、何倍もいいところじゃぞ、ヤマト」
農村部の風景に、暇そうにしていたシルドリアが口を開く。
彼女にしてみれば自国ヒザンの方が優れていると、言いたいのであろう。負けん気の強いシルドリアらしい言葉である。
「ああ、そうだな。油断しないように気をつけないとな」
言葉に説明しがたいが、神聖王国内に流れる空気は緩い。
心地よい陽だまりの中というか、何とも気も緩んでしまう。これも大国ならではゆとりなのかもしれない。
「よし、聖都までもうひと踏ん張りだ」
荷馬車隊の皆に激を飛ばして、オレたちは真っ直ぐ聖都を目指すのであった。
◇
それから更に数日が経つ。
「ヤマトの兄さま! 前方に凄く……とても大きな街が見えてきました……本当に大きい……」
斥候であるハン族の少女クランから、そんな報告をされる。あまりの驚きに冷静な彼女も興奮をしていた。
「あれが大陸最大の都市……聖都か……」
こうしてオレたちは目的地であるロマヌス神聖王国の首都“聖都”へ到着したのであった。