表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/177

第102話:襲撃者を退けて

 襲ってきた賊を、オレたちは一方的に返り討ちにした。

 その後は手早く“戦後処理”を終える。

 日が明けた翌朝は早めに出発して、ウルド荷馬車隊は移動を再開する。


「傭兵崩れのお蔭で、昨夜は寝不足じゃな、ヤマト」

「だが情報は得られた」


 御者台の隣に座る皇女シルドリアと、昨夜の襲撃の情報をまとめる。

 襲ってきた傭兵たちを、自衛のためにオレたちは逆に殲滅した。

 相手の多くはクロスボウ隊の連続斉射で息絶え、蜘蛛の子を散らすように敗走する。

 傭兵の頭と思われる大男は、オレが一気に接近して捕縛。その後は尋問して、今回の襲撃の黒幕を暴こうとした。


「結局、黒幕は不明じゃったのう、ヤマト」

「ああ、そうだったな」


 尋問で大まかな情報は得られた。

 傭兵たちを雇ったのは“ハザン”という交易商人だという。

 因縁のある荷馬車隊を恨んでいる、と傭兵に語っていた。金払いもよく前金で大金を支払ってくれる。金に困っていた傭兵たちにとって、まさに最高の依頼人だったという。


「“ハザン”は負を司る単語じゃ。商人で普通は名乗る者はいない」

「つまり偽名ということか」


 もちろんオレたちも知らない名であった。

 傭兵の話では、依頼人は顔をフードで隠した男だったという。落ちぶれているとはいえ傭兵たちもプロ。依頼人の身元を詮索することはしなかった。

 何しろ好条件。依頼人が教えてくれた日時、そして場所に身を潜めて隠れておく。あとは子どもだらけの荷馬車隊を襲撃するだけの簡単な仕事。

 もちろんその子どもたちは“普通”ではなかったのだが。


「なぜ、その依頼人は“あの場所と時間”を予測していたのじゃ、ヤマト?」

「ああ、そこが問題だ」


 シルドリアが首を傾げるのも無理はない。

 オレたち荷馬車隊は何の事前通達もなく、村を出発して聖都を目指すことにした。

 途中でオルンを経由してからも、通常とは違うハン馬の高速移動でここまで来ていた。

 昨日の野営地を選んだのも偶然の結果である。


 だが、そのフードの依頼人は寸分の狂いもなく、場所と時間を傭兵たちに指示していた。しかも指示を出したのは、今から数日前のことだという。


「ふむ、それなら霊獣管理者レイジュウ・マスターの奴の陰謀か、ヤマト?」

「あの少年なら、こんな回りくどいことはしてこない」


 不思議な力をもった霊獣管理者レイジュウ・マスターの少年が、今回の黒幕の可能性も考えていた。

 だが、あの程度の規模の傭兵団を、オレたちが苦にしないのを、あの少年も知っているはずである。何しろ巨竜アグニすら打ち倒す者たち。


 そんな回りくどい強襲よりも、霊獣を召喚して襲撃をした方が、成功の可能性は大きい。もちろんオレたちは万全の体制を整えているので、霊獣の襲撃にも対応はできる。


「ふむ、あまり気にしない方がいいかもしれんな、ヤマト」

「ああ。聖都まで道のりはまだある。気持ちを切り替えていくぞ」


 昨夜の襲撃に関するまとめは、この辺で終わりにしておく。今後も変わらず道中は警戒しながら帝都を目指していく。


(直前に感じていた不快な視線も、今はない……心配し過ぎかもしれないな……)


 ちなみに襲撃してきた傭兵たちから、依頼料の前金を全て慰謝料として徴収しておいた。やり過ぎかもしれないが、無力な荷馬車隊を狙う傭兵団に慈悲はない。



 それから更に何日も経つ。

 特に大きな事件もなく、荷馬車隊は順調に街道を進んでいく。そして隊はロマヌス神聖王国の領内へと入る。

 神聖王国内の街道を聖都へ進む。


「神聖王国は随分と豊かだな」

「はい、ヤマトさま。ここは大陸で最も豊かで、長い歴を誇る大国ですから」


 街道沿いの農村部をリーシャと眺める。

 多くの農民たちが忙しそうに汗水をたらしながら、農作業に勤しんでいた。辛そうな農作業の合間に、胸に下げた加護符に祈りを捧げている。


「神聖王国はその名の通り、“ロマヌス教”の信者が多い国です、ヤマトさま」

「たしか天神ロマヌスを崇める宗教か」


 神聖王国に関しては、ある程度の知識は得ていた。

 西にある大陸でも最大の王国であること。歴史的にも最も古くからあり、伝統を重んじること。そしてロマヌス教を国教としている厳格な国であること。


「とにかく平和で、いい国だな」

「そうか? 我がヒザン帝国の方が、何倍もいいところじゃぞ、ヤマト」


 農村部の風景に、暇そうにしていたシルドリアが口を開く。

 彼女にしてみれば自国ヒザンの方が優れていると、言いたいのであろう。負けん気の強いシルドリアらしい言葉である。


「ああ、そうだな。油断しないように気をつけないとな」


 言葉に説明しがたいが、神聖王国内に流れる空気は緩い。

 心地よい陽だまりの中というか、何とも気も緩んでしまう。これも大国ならではゆとりなのかもしれない。


「よし、聖都までもうひと踏ん張りだ」


 荷馬車隊の皆に激を飛ばして、オレたちは真っ直ぐ聖都を目指すのであった。



 それから更に数日が経つ。


「ヤマトの兄さま! 前方に凄く……とても大きな街が見えてきました……本当に大きい……」


 斥候であるハン族の少女クランから、そんな報告をされる。あまりの驚きに冷静な彼女も興奮をしていた。


「あれが大陸最大の都市……聖都か……」


 こうしてオレたちは目的地であるロマヌス神聖王国の首都“聖都”へ到着したのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ