表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/177

第11話:量産型

 次の日、山穴やまあな族の老職人ガトンがオレを訪ねてきた。


「本当にひと晩で完成させたのか」

「ああ、山穴族は人族と違いウソは言わねえ」


 そう皮肉を言いながらも、ガトンは複製したクロスボウの説明をはじめる。


「大きさは預かった見本よりひと回り小さくしておいたぞ。これを使うのは子供ガキどもなんだろう?」

「ああ、そうだな。その方が助かる」


 ガトンは腕利きであると同時に賢い鍛冶職人であった。昨日オレが依頼した内容の先を理解して、カスタマイズして試作してくれたのだ。


「威力はどうなった?」

「昨日と同じく金属板はちゃんと貫通しぞい」

「なら問題はない」


 気を利かせたガトンはサイズを小さくすることにより、村の子供でも使えるように製造してくれた。機械的な構造はオレが現代から持ってきた最高傑作のクロスボウとまったく同じ。威力もほとんど落としていないという。


 では、さっそく試し射ちをしてみるとする。村の広場に子供たちを集めて試射会だ。


「よし、撃ってみろ」

「うん、マヤト兄ちゃん!」


 村の子どもの中でも、ひときわ小柄な少年にクロスボウの弦を引かせてみせる。この子ができたなら他の全員が使えるという訳だ。


「前のより力がいらないよ、これ!」

「よし、教えたとおりにあの的を狙ってみろ」

「うん!……よし!」


 小柄な少年は一人で無事に弦を引くことができた。続けて構えてトリガーを引くと、凄まじい勢いで矢が試作型のクロスボウをから発射される。


「おお、すげえ!」

「穴が空いちゃったよ!」


 設置しておいた金属の的を見事に貫通して、見ていた子どもたちから歓声があがる。


「威力はほとんど前を変わらないな。これなら大兎ビック・ラビット大猪ワイルド・ボアにも十分な威力だ」

「だから言ったじゃろうが」

「オレは疑い深いタチでな」


 ガトンに辛口を叩きながらもオレは感心する。

 現代科学を結集して製作したオレの自信作のクロスボウを、たったひと晩で複製できたことに脱帽していた。


 小型化はしているが、これだけの威力があれば森の獣にも十分通用する。

 野生の獣の毛皮と脂肪は、見た以上に分厚く頑丈である。だがこの試作品のクロスボウなら楽々に貫通できる威力があり、しかも量産に向いているのだ。


「それにしても随分と楽に次矢の装填そうてんができるな」

「ああ、そこもちょっと仕掛けてしておいたぞ」

「仕掛けだと?」


 子どもたちが皆で試作品の試し射ちをしている様子に、オレは更に驚く。


 クロスボウは地球でも古来からある強力な武器である。普通の弓よりも貫通力に優れ、弓道のように熟練の技術もいらない。シンプルな作業で発射できる武器だ。


『弦を引き、矢をセット、狙いをつけて引き金を引く』

 たったこれだけで金属鎧を着た騎士すら殺傷できる武器。だがそんなクロスボウにも難点があった。


 それは『弦を引く作業が力仕事であり、時間がかかる』という欠点であった。解決するために地球の歴史では滑車を使ったり、テコの原理を使ったりと複雑な作業とシステムが必要だった。


 それらの全ての欠点を山穴族の老職人ガトンは解決していた。試作品は力の弱い子供でも短時間で巻き上げの用意ができ、破壊力も十分。

 長年の研究と試行錯誤で編み出し、最高傑作だと思っていた自分のクロスボウはたったひと晩で追い越された。


 これを驚かずになんとすればいいのか。


「ふむ、不愛想なお前でも驚いたか。歯車の部分を改造して、“テコ”とやらの原理を倍増しただけじゃ」


 ガトンの嬉しそうな説明に、試作型のクロスボウに目を向ける。なるほど。確かにテコの要である歯車の部分が、オレの渡した見本と微妙に違っていた。


(何だ、あの歯車は? あり得ない方向にかみ合って連結しているのか)


 パッと見でその原理はオレにも何となく理解はできる。

 だが歯車の金属加工があり得ないほど繊細で大胆だ。これを再現できる鍛冶職人は地球上にもいないかもしれない。


(さすがは“鉄と火の神”に愛されし部族……山穴族といったところか……)


 オレは口には出さないが素直に感心する。滅多なことでは他人を褒めないオレがだ。

 それほどまでに優れたたくみの鍛冶技術が施されていた。


「ちなみにこの歯車を模作できる者は他にはいるのか?」


 それだけが心配の種であった。

 これほどの威力と操作性を併せ持つクロスボウが、“誰か”の手に渡り複製され悪用されるのは防ぎたかった。あくまでもこの村を生かし守るために使いたい。


「安心しろ。これはワシの独自の金属混合と火入れで作った特注品じゃ。大陸広しといえども、誰も作れん、一子相伝いっしそうでんの業物じゃ」


 オレの心配に、ガトンはニカッと笑みを浮かべて説明してくる。

 形は同じに模作できても、数回使っただけで壊れるような特殊な仕組みなのだと。これで悪用されるのは防げるという訳だ。


「なら孫のどちらかに一子相伝で教えるのか」

「ああ、そんなところじゃな」


 ガトンの側には山穴族の子どもがいた。

 男女の双子で今は見習い職人として鍛冶工房で手伝っている。パッと見はどちらが男か女か判断はできない。山穴族は本当に不思議な種族だ。


「では、この試作品を昨日言った数だけ作ってくれ。できるよな、ガトンのジイさん?」

「ふん、人使いの荒い小僧だ、おヌシは。“対価”は貰っておるからその分は働く。任せておけ」


 オレの依頼にガトンは鼻息を荒くして返事をする。数は多いがクロスボウの材料はそれほど特殊な物はなく、日にちさえあれば可能だと。


「よし、試し射ちはそこまでだ。今日も森へ行くぞ。準備を急げ、遅れるな」


 オレの号令に試作品で遊んでいた子供たちは、返事をして準備に取りかかる。

 

「よし、準備を急げ!」

「荷台車に積み忘れをするなよ!」


 村人たちは今朝も大兎ビック・ラビットと山菜類の煮込んだ鍋をたらふく食べて元気だった。最初に出会った時の生気がない表情の面影はもはやない。

 村人たちの誰もが、今日の収穫を夢見て目を輝かせている。やはりどこの世界でも食料が確保できるとう希望は、生きる希望を与えてくれるのだ。


「村長のジイさんたちは、悪いが今日も留守番を頼む」


 リーシャの祖父である村長に出かける前に挨拶をしておく。留守の間に彼らには収穫したイナホンの乾燥作業や、干し肉へ加工の準備をしてもらう。


「うむ、任せてくだされ、ヤマト殿。くれぐれも孫たちを頼みましたぞ」

「ああ。では行ってくる」


 こうしてオレは少女リーシャと共に、村の子供たちを率いて森の浅い部分へ入っていくのであった。



 森の中の作業は、班を分けて今日も順調に進んでいた。

 天然の水田からイナホンを刈り取る農業班。

 クロスボウ大兎ビック・ラビットなどの獣を狩る狩猟班の二つだ。


 クロスボウは試作品を含めてまだ二つしかない。あくまでも慣れるための練習がメインだ。水田の周囲を巡回して危険な獣を駆逐しているので、農業班を警備する意味もあり一石二鳥の狩りだ。

 おかげで最近では、天然水田の周りには獣が減ってきたという現象もある。


 オレは危険が多い狩り班にいつものように付添いでいる。


「お前ら、油断はするな。いくらクロスボウあったとしても身体は生身だ。教えたとおりに三人一組で大兎ビック・ラビットに対処しろ」

「うん、わかったヤマト兄ちゃん!」


 慣れてくるに従って最近では、子どもたちだけで大兎ビック・ラビットを狩らせている。編成は三人一組で隊を組ませている。

 大きな盾を持った二人が前衛で大兎ビック・ラビットの奇襲を防ぐ。後衛のクロスボウ係りは、仲間を誤射しないように狙いすませて獣を倒す陣形だ。


 盾は村の自警用にあった大人用を使っている。

 子どもが使うと全身がすっぽりと隠れるために重宝していた。子どもの体格と力でも両手で持って防御に徹したら、大兎ビック・ラビットくらいの突撃なら跳ね返せる。


 辺境のこの村に住む子供たちは自然の中で育ち、鍛えられる足腰はしっかりとしていた。さすがに大猪ワイルド・ボアほどの突撃はまだ防げないがな。


「よし、次はオレだからな!」

「わたしも射ちたい!」

「お前ら順番どおりにしろ! ヤマト兄ちゃんを困らせるな!」


 オレの指示に子供たちは順応に従っているが、ときたま我先になる。

 そんな時は一番年上で大柄な少年ガッツの一声に静かになる。こいつは性格的にも熱血なところがあるので、村のガキ大将といったところであろう。

 今後とも頼りになりそうなヤツだ。


「ヤマト兄ちゃん、また大きい獣がいたよ!」


 その時であった。


 見張りをしていた少年の声が響く。どうやら森の奥に別の大きな獣がいたのだ。

 もしや、また危険な大猪ワイルド・ボアが現れたのか。


「ヤマトさま、あれは野牛ワイルド・オックスです」

「野生の牛といったところか」

「大牛なら大人しいから、このクロスボウなら倒せるよ、ヤマト兄ちゃん!」


 ガキ大将ガッツが興奮した状態でオレに提案してくる。

 大牛は巨体であるが動きは遅く、大猪ワイルド・ボアに比べて対処しやすいと。全身を被う毛皮も薄く確かに仕留めやすそうだ。


「よし! いいよね!?」

「おい、待て」


 仕留めに行こうとした子供たちをオレは制する。

 少し考えがあるのだ。


「リーシャさん、野牛はどんな気性をしているか分かるか?」

「はい。気性はそれほど荒くはありません。ですが、いったん暴れ出すと手が付けられないと聞いています」

「そうか……よし、お前ら、オレに任せろ」


 リーシャの説明を聞きオレは一計を編み出す。ちょうど村に欲しかった物が手に入りそうだ。


「この野牛はオレが捕獲して村へ連れて帰る」

「そんな!? 危険ですヤマトさま!」

「無茶だよ、ヤマト兄ちゃん!」


 村の誰もがオレの作戦に反対する。

 いくら大人しいとはいえ野生の大牛。捕獲しようして刺激したら暴れるにきまっている。

 

 暴れ出した野牛は下手したら大猪ワイルド・ボアよりも危険が獣なのだ。


「まあ、そこで静かに見ていろ。オレの魔術マジックを見せてやる」


 みんなの制止を振り切り、オレは野牛ワイルド・オックスを捕獲する作戦を実行するのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ