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第100話:古代からの街道を西へ

 立ち寄ったオルンの街で同行者を得て、オレたちが聖都へ旅立つ朝がやってきた。

 オルンの西の城門では、ウルド荷馬車隊が最終確認をしている。


「ヤマトさま、他の皆さま、道中お気をつけて」

「ああ。その手紙を頼んだぞ、イシス」

「はい、責任をもって届けます」


 見送りにきた太守代理の少女イシスに、オレは何通かの手紙を託していた。交易都市オルンの流通力をもってすれば、確実に相手に届くであろう。


「オルンでも臨機応変に対応できるように、準備しておきます、ヤマトさま」

「聖都では荒事にはならない予定だが……助かる、イシス」


 これから向かう聖都で、どんな難関が待ちかまえているか想像もできない。

 そこでオレは何通りかのパターンをシュミレーションして、その対策を練っていた。

 この手紙も出来れば使わないに越したことはない、いわば“保険”である。


「ヤマトさま、出発の準備が終わりました」

「わかった、リーシャさん」


 イシスと確認をしていると、そんな報告がされる。

 いよいよ出発の時間となったのだ。


「よし、それでは出発するぞ」


 こうしてオレたちはオルンの街を出発して、西のロマヌス神聖王国の首都“聖都”を目指すのであった。



 オルンの街を出発してから、数日が経つ。

 大陸を東西に伸びる街道を、荷馬車隊はひたすら西へ進んでいた。


 いつものように荷馬車を中心にして、ハン族の子どもたちの騎馬隊が前後左右に展開している。


 先頭の荷馬車にはオレと村長孫娘リーシャ、皇女シルドリア。二台目には遊び人ラックと売り子の女エルザ。最後尾の特殊な荷馬車には、老鍛冶師ガトンが乗っている。

 荷馬車にはウルド族とスザクの民の子どもたちが分散していた。


 それに今回はリーンハルトの騎馬も加わり、万全すぎる布陣となっている。むしろ交易商隊にはあり得ない、過剰な戦闘集団かもしれない。


「それにしても、この街道って本当に便利だよね!」

「そうそう、どこにでも行けるし!」

「揺れも少ないし、田舎道とは大違いだよね!」


 荷馬車に乗る村の子どもたちは、暇を持て余しながら雑談をしている。

 二年が経ち身体は成長してきたが、こうした精神的な部分はまだ幼い。

 それでも警戒は怠っておらず、手元のウルド式のクロスボウは手放していない。


「そういえば、この街道って、誰が作ったんだろうね?」

「そういえば! 誰だろうね?」


「ふむ、街道か? これは古代の“超帝国”が築いたのじゃ」

 

 そんな子どもたちの相手をしているのは、同じ荷馬車に乗る皇女シルドリアである。

 ヒザン帝国の皇女として生まれた彼女は、帝王学を叩き込まれ歴史への見識も深い。


「超帝国は今よりも遥かに進んだ文明を持ち、大陸を統一していたのじゃ」

「えー、今よりも進んだ文明を?」

「すごい!」


 シルドリアが話すように、この大陸には超帝国という大国が栄華を誇っていた。

 その時代に言語や通貨・宗教は全て統一され、それらは今の時代でも使われている。


 また大陸に街道を整備して、各地に都市を建設して上下水道も完備した。

 ちなみに交易都市オルンや帝都も、元々は古代都市があった場所だという。その時代の優れた設備は修繕されながら、今でも市民の間で活用されている。


「へー、“ちょーていこく”。すごいね!」

「ちょーていこく、に感謝だね!」


 シルドリアの話を聞きながら、子どもたちはうんうんと頷いている。都市部ではよく聞く超帝国の昔話も、辺境にあるウルドの民には珍しいのである。



(超帝国か……確かに、たいしたものだな……)


 御者台で馬を操りながら、オレもその雑談を聞いていた。

 超帝国について初めて聞いたのは、村の老鍛冶師ガトンからである。その後もオルンの騎士リーンハルトやイシスからも詳しく聞いていた。


 内容に関しては、今シルドリアが話していることと大差はない。

 この大陸に住んでいる者は、かつての文明を当たり前のように再利用していた。それは地球の歴史上でもヨーロッパなどで前例があり、別に珍しいことではない。


(だが、あの樹海の遺跡は……)


 昨年の秋に帝都を訪れた時に、オレは樹海の遺跡を目にしていた。

 霊獣の群れから、大剣使いバレスと調査団を救出するのが目的。その時に目にした遺跡の異質さが気にかかっていた。


(あれは、別次元すぎる……)


 特に遺跡の中心部にあった小塔が、異質な存在であった。何しろ材質すら見当がつかなかったのである。

 現代日本で、多種に渡る素材を目にしたオレでも判別不能。石のようであり、合板のようでもあり、傷すら付かない謎の遺跡であった。


(“四方神しほうじんの塔”と、あの少年は呼んでいたな……)


 霊獣管理者レイジュウ・マスターの少年は、塔をそう呼んでいた。そして“塔を起動”させることを目的にしていたと口にしていた。


 このことに関してまだ情報が少なすぎて、仮説と推測ばかりになる。

 

 だが、はっきりとしていることもある。

 それは超帝国の遺跡は何かの“力”を持っている。そして、あの少年は起動させる知識を持っているということだ。


(とにかく気をつけなないとな……)


 この推測を今のところ話しているのは、老鍛冶師ガトンだけである。不安を与えないようにリーシャやイシスたちには、まだ話していない。


(勘付いているとしたら、あとは皇子ロキか……)


 遺跡と超帝国に関しては帝国の皇子ロキも、何かを知っている気配があった。

 遺跡は国の極秘事項ということで、口にはしていない。だが、親友バレスに調査団を託していたところをみると、この推測は間違いないであろう。


 皇帝の一族として、超帝国に関する機密の情報を持っている可能性もある。

 前回の巨竜アグニ討伐ことで皇子ロキは、信用できる男と見ている。だが、頭がキレすぎるロキは油断できない。


(そのために、ロキ宛の手紙も書いたのだが……ん?)




 そんな考えをしていた時である。

 誰かの視線に気がつく。


「ヤマト兄ちゃん、またいつもの難しい顔をしていたね!」

「そうそう!」

「いつも以上に、眉間にしわを寄せて、難しい顔だったね!」


 それは一緒に荷馬車に乗っている、子どもたち全員の視線であった。いつの間にか雑談を止めて、オレの顔を覗き込んでいる。


「これ、みんな。ヤマトさまは大切な考えごとをしているのです。邪魔をしてダメですよ」

「じゃが、リーシャよ。せっかくのヤマトの整った顔つきが、このままではしわくちゃになるぞ」

「シルドリア様まで、そんな……でも、皺は困ります……」

「そうじゃろうが」


 それに皇女シルドリアまで加わる。

 更に後方の荷馬車まで話題は広がり、隊は笑い声と歓声に包まれる。気の緩みといえばそれまでだが、長旅の中では時にこうして息抜きも必要である。


(やれやれ……にぎやかなだな……)


 オレは特に注意することもしない。ただし、眉間の皺は少し気になる。



 そんな温かい雰囲気のまま、荷馬車隊は更に街道を進んでいく。


「おい、そろそろ日暮れだ。あの街道脇で野営するぞ」


 この大陸の大きな街道沿いには、等間隔に宿場町が栄えていた。

 交易商人や巡礼者がお金を払うことで、安全に寝泊まりできるようになっている。


 だがオレたちの荷馬車隊は、ハン馬が引くことで高速移動していた。

 そのために宿場町からタイミングが外れて、日が暮れる時がある。そんな時は街道沿いで野営をして、夜を明かす。


「やったー! 野営、野営だね!」

「火をおこさないとね!」


 村での狩りや交易で、子どもたちは慣れており問題はない。むしろこうして盛り上がることが多い。


(特に周囲に危険は無さそうだな……)


 野営地の周囲の地形を確認する。

 危険な獣や野盗の気配はなく、夜も安全であろう。


(なんだ、この感じは……)


 だが、オレは何とも言えない“視線”を感じていた。

 周囲に誰もいないのにも関わらず、見張られている気配があるのだ。


 しかし、いくら探っても違和感の正体は見つからない。


(気のせいかもしれない。なら、考えて仕方がない……)


 こうして日が沈み始めた街道沿いで、オレたちは野営の準備をするのであった。 


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