1-6 きょうだいごっこ、開戦
雪視点。
素敵な部屋だ。
良くわからない音楽関連の物が大量に置いてあるが、綺麗好きなのだろう…けして汚らしさはない。
そこは、暗く、まるで世界を閉め出した様な、彼の空間だった。
「お兄ちゃん。」
私はリビングでつったっている義兄に呼び掛けた。
その瞬間義兄と大樹は物凄い勢いでこちらを向く。
「おまっ!雪!いきなりお兄ちゃんかよ!?」
と、大樹。
私はそれを流すと改めて義兄を眺めた。
九条 洸平、私達の義兄。
そして、6年間の私の想い人。
彼は私を見てしばらく目を丸くしていたが、直ぐに優しい笑顔を浮かべる。
「やぁ、雪。久しぶりだね。丁度今、大樹から『兄貴』と呼んでいいか許可を求められていた所だよ。」
やはり、この人は私達を嫌ってはいない。
そして好いてもいない。
そう、どうでも良いのだ。
彼にとって私達は、ただの客人。
それ以上でも以下でもない。
面白い…やっぱり面白い人。
「お兄ちゃん。荷物、何処に置いたら良い?」
ピキッ!
義兄の張り付けたような笑顔にひびが入る。
私にも『お兄ちゃん』と呼んで良いかの許可を求められるものだと思っていたのだろう。
しかし私は彼に遠慮などしてはいられない…いや、元よりする気がない。
とにかく私は早く彼の本性が見たいのだから。
「雪!失礼だろうが!」
ヘタレ大樹が声を荒げる、相変わらずうるさい。
「いや、良いんだ。下手に遠慮されるよりは良いからね。」
流石にこの程度の事では本性を出さないか…。
少し骨がおれそうだ。
「荷物はそこの部屋に置いてくれる?」
「うん。」
私は義兄に言われた通り、部屋の中に荷物を運びこむ。
布団等の生活用品が置いてある気配はない…これは好都合。
私は次なる作戦を頭の中で組み立てていた。
「あっ、兄貴。」
リビングに戻ると、大樹が相変わらず緊張した面持ちで義兄に向き直っていた。
「何だい?大樹。」
義兄はテレビのリモコンを探しながら無造作に答える。
大樹はそれを聞くと嬉しそうに笑顔を浮かべた。
単純で、素直で、馬鹿。
私は小さくガッツポーズを作る大樹を、微笑ましく見ていた。
これで第一ステップは終了。
一応兄弟として最低限の準備は出来た。
しかし、勝負はこれから。
義兄は相変わらずリモコンを探している様だが、恐らく彼の頭の中では別の考えが巡っているに違いない。
『きょうだいごっこ』
彼は間違いなくその単語の元に行動している。
「上等…。」
恋心とか、そういった感情は後だ。
まずは絶対に彼の中で私達を家族として認識させてみせる。
「お兄ちゃん。布団とか、買いに行こう。」
私は義兄に呼び掛けた。
先ずはこの『きょうだいごっこ』、勝たなければならない。
ここまでがプロローグです。
次話からまったりとコメディを書いていきます。
お付き合いください。