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D-4 D.C.W

本筋より7年前、九条洸平視点。

「あの…聞いても良いですか?」


俺は目の前でベースを弾く瀬山先輩に話しかけた。


今日は件のバンドの初練習と称して呼び出され、音楽室で2時間、ひたすら音を出していた。


が…もはや個人練習の場と化している。


「とりあえずずっと弾き続けてますけど…曲は?」


「んなもんは後だ後!」


「後って…私は何にもやることないんだけど?」


確かにボーカルである桜さんは曲が無くては練習のしようもない。


疑問はまだある。


今現在も黙々とドラムを叩き続けている先輩が連れて来たドラマー候補だが…何分無口な人で、僕は名前が田宮啓太郎たみや けいたろうだということと、先輩と同い年だということしか知らない。


「だぁぁぁ!!もう!!」


先輩は向けられた疑問の目線に辟易したように大声を出して立ち上がった。


「第一、桜は洸の横顔二時間じ〜っとニコニコしながら眺めてたじゃねぇか!!」


「ばっ!何言ってんのよ!!」


本当に何を言ってるんだか…。


俺はギターの弦を緩めながらため息交じりに呟いた。


「俺…帰ります。」


「おいおい洸…クールぶってる所悪いがな、顔赤いぞ?恥ずかしいから逃げようったってそうはいかねぇからな!!」


顔が熱いのは…まぁ素直に認めよう。


だが…


「もう下校時刻ですから。」


ふと鳴りやんだドラムを見やると、啓太郎さんもいそいそと片付けを開始していた。


「ちっ…しょうがねぇな…。よっし今日は解散だ!!」


「はいはい…。」


こうして初練習は幕を閉じた。











練習後、俺、先輩、桜さんの三人は家の方向が近いということで、共に帰路についていた。


…ということはいつの間にか俺の家の場所がこの人たちにバレているということなのだが…まぁ深くは考えないでおこう。


「そう言えば啓太郎さんはどうしたんですか?」


「あ?あいつんち居酒屋だからな。店の手伝い…ってコラ!桜!いい加減返せよ!!」


桜さんが御執着なのは先輩が今日持ってきた携帯電話。


話には聞いていたが実際に見るのは初めてだ。


同い年でも持っているやつはかなり少ない…と思う。


「ん〜…もうちょっと。だって携帯なんてすごいじゃない?流石お坊ちゃま!!」


「本当ですね。先輩どれだけ金持ちなんですか…。」


「まぁ、そこは俺様だからな。」


そういった先輩の顔が少し曇っていたような気がしないでもないが…電灯も100m一本程の暗い道だ。


見間違いだということにしておく。


「…はいそこまで〜返しなさい。」


「えぇ〜ケチんぼ!!」


携帯を取り上げられ、むくれる桜さん。


暗くて良かった…はっきり見ていたらきっとまた顔が熱くなる。


女と仲良くした経験が乏しいということがここにきて仇になるとは思わなんだが…慣れるまでの辛抱だ。


「また今度貸してやっから。電池無くなると困るんだよ。」


「…何でですか?」


「何でってそりゃ…いつなんどき女から連絡が来るかもわかんねぇだろうが。」


まったく…この人のそういうところだけは尊敬できるような気がする。


もっとも真似だけはしたくないが。


「そう言えば何の話してたんだっけ?」


携帯を奪われ手持ち無沙汰になった桜さんが、手に持った鞄を振り回しながら言う。


「バンド名の話です。」


「そうそう!!」


それを聞いて先ほどの論争を思い出したのか、先輩が声を高々にした。


「だから俺はブルー・コールド・スノウ・ペッパーズがいいっつってんだろ?」


やっぱりそれなのか…。


「だから何よそれ!?センス無さすぎ!」


「なんだよ!レッチリみたいでカッコいいだろうが!」


みたいって…完全にパクリじゃないか。


もしインスパイアーだと公言したところで…センスがない。


「パクリにしたって意味わかんないですよ…。先輩は黙っててください。」


「は!?じゃあ洸てめぇ何か良い名前考えたのかよ?」


さんざん言われてヒートアップした先輩は、僕につめよってくる。


良い名前…そもそも良い名前ってなんだ?


待てよ?


よくよく考えれば…かの有名なビートルズだって、複数いるカブトムシって意味じゃないか。


つまりバンドにおいて名前なんてどうでもいいものなのかもしれないが、想像力の乏しい俺には、そんなどうでもいい名前すら思いつかない。


「…いや…そう言われると…。」


「やっぱな!」


先輩はここぞとばかりにふんぞり返る。


…悔しいが、何も言えないのも事実。


ただ一つだけ言いたいとすれば、ブルー・コールド・スノウ・ペッパーズだけは嫌だ。


「おい桜。お前なんかねぇのか?」


先ほどから一言もしゃべらない桜さんに、白羽の矢が向く。


頼む…何か良いのを…!




「う〜ん…じゃぁさ、D.C.Wにしようよ!」




「はぁ?どういう意味だよ、D.C.Wって」


「なんだっていいじゃん!カッコいいでしょ?」


桜さんは快活な笑顔を浮かべる。


少しその顔に照れが伺える…何故だ?


いや、そもそもなんなんだ?D.C.Wとは…。


桜さんは意味がないとは言わなかった…ということは何か意味が?



「………!!」



なるほど、そういう意味か。


俺は思わず噴き出した。


「桜さん。俺コレがどういう意味かわかっちゃっいましたけど。これって…」


「だぁぁ!!ダメダメ洸平!言っちゃダメ!!」


桜さんは真っ赤になって僕の口をふさいでくる。


その瞬間俺は彼女以上に顔を赤くしていた…と思う。


「おいおい、ど〜ゆ〜意味なんだよ!?教えろよ!!」


いよいよ先輩が焦ってくる。


自分だけわからないのが悔しいようだ…まぁ先輩のことだから気付かないかもしれないが。


「ダ〜メ!零は自分で考えなよ」


ようやく俺の口から手を離した桜さんは先輩に向かって自分の頭をコンとこずいてみせる。


明らかな挑発行為だったが、いまだに手で口をふさがれたショックから立ち直っていない俺は、不覚にもその姿を可愛いと思ってしまっていた。


「ちくしょう…意味わかんね。おい洸、ヒント!」


「洸平!言っちゃだめだからね!?」


突然の板挟み…誰かが見たら上級生にいびられてるって思われるぞ?


「はいはい…。ってかバンド名は?俺はなんでもいいですけど」


「じゃあ零が明日までにわからなかったらD.C.Wで決定!いいでしょ?」


「よ〜し!受けてたとうじゃねぇか。明日ビビらしてやる!」


俺は一人で黙々と思考にふけっている先輩を見やる。


というか…もし先輩が正解を出した場合バンド名はブルー・コールド・スノウ・ペッパーズになるのか?


それだけは…嫌だ。


今のうちに先輩に間違ったヒントでも教えておくかな。


「ねぇ…洸平?」


と、気づけば真横には桜さん。


…いちいち驚いてたまるか。


「本当に意味…わかったの?」


小声で話しかけてくる彼女…。


俺はなぜこんなに動揺させられていたのか…今になって俺の自尊心が首をもたげる。


このまま動揺させられっぱなしもムカつくからな。


「俺、好きですよ。」


「へ?」


「D.C.W。」


俺はそれだけ言うと歩みを進める。


案の定桜さんは立ち止まったまま動かなかった。




その後、顔を真っ赤にして追いついて来た彼女をみて、俺は微笑を浮かべた。

最初に1か月以上更新が途絶したこと、大変深くお詫び申し上げます。


今回の話、『D.C.Wという名前の意味』という伏線の回収を目的とした話でしたが…ヒントばかりではっきりとは書きませんでした(^^;)

そのうちしっかりと明かしたいと思います。

…きっと勘の良い皆さんはもう気づいてるのかもしれませんが…ね(笑)

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