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5-2 焦る少女

雪、視点。

「…むぅ。」


車から降りた瞬間私は思わずうめいた。


やはり移動中の車内で本を読めば酔いするだろう…浅はかだった。


「どうした?気分でも悪い?」


すかさず義兄が声をかけて来た。


妙な所で目諭い人だ…。


「…ちょっと酔っただけ…。」


「まったく…車で本なんか読むから…。」


私がそう言うと、義兄は苦笑を浮かべながら私の背中をさすってくれる。


「…気持ち悪い…。」


正直そこまで気持ち悪くは無いの…むしろ義兄の手が気持ち良い。


少し後ろめたい気がしなくもないが、しばらく気持ち悪いフリをしておこうと思う。


「…大丈夫?」


「うん…まだちょっと気持ち悪…」

「おい洸!!荷物降ろすから手伝えや!!!」




瀬山さん!?


なんというタイミングの悪さ…。


「あ〜…、大樹。雪の様子見てやって?」


「りょ〜かい。」

気がついたときには既に義兄の手は私の背中から離れてしまっていた。


突然消えた背中の温もりが妙に寂しい。


「…はぁ…。」


…なんでこう上手くいかないんだろう…。


大樹が千里先輩を応援してるのは知っているけど…まさか瀬山さんも…?


私は義兄と共に何やら大きいダンボールを運んでいる瀬山さんを見つめた。


「あ〜面倒くせぇな!車ごと突っ込んじまうか?」


「馬鹿なこと言ってないで下さい…!」






「………。」






………いや、彼は好き好んで恋愛の仲介なんて面倒なことする人じゃ無い。


だとしたら…いや、私らしくもない…何故こんなにも焦っているのか…。


しかも瀬山さんにこんなに嫌な感情を抱くなんて…自己嫌悪だ。


「残念だったなぁ、雪♪」


と、視線を上げると、目の前ににニヤついた大樹が立っていた。


…大樹の癖に…むかつく…。


そんな私の苛立ちを知ってか知らずか、大樹はニヤケ顔を崩さないまま私に耳打ちしてくる。


「背中、さすってやろうか?」


「………。」






ゲシッ!!


「いってぇ!!すねを蹴るな!!」


私は痛がる大樹をよそに困惑していた。


大樹如きにからかわれるなんて…流石におかしすぎだ…。


別になんていうことはない…ただ義兄の里帰りに付き合っているだけの筈なのに…。


何故こんなにもモヤモヤとするのだろう?

自分のことながら良くわからない…。




「くっそ〜…いてぇなぁ…。」


「グチグチうるさい…。」


「はいはい…。しっかし此所、本当に田舎だなぁ〜。」




大樹の呟きに、私も辺りを見渡す。


広く広がった畑に所々立つ住宅、私はその中の一軒の家の前に立っていた。


土地を贅沢に使った大きな木造住宅は、それなりに年季を感じさせる。


そして私の瞳を釘付けにさせる一つの表札…。

『九条』



立派な木製の表札に達筆な文字で書かれていたであろうその文字は、風化して今ではギリギリ読めるか読めないかにまでかすれている。


私はこの景色に確かに見覚えがあった。


横には大樹が立ち、玄関と思しき扉の前には彼が…




「あ……。」


「ん?どうした…」

「お兄ちゃん!!」


私は思わず叫んだ。


突然の大きな声に大樹や瀬山さんまでもが目を見開いている。


「雪、どうした?」


義兄は目を丸くしながら私を見ている。


しかしそこで何故かホッとしている自分がいた。


まるでその言葉に支えられているように…。


「なんでもない…。」


「…?ならいいけど…。」


相変わらず胸が苦しい…けどようやくわかった…胸のモヤモヤの正体。


この街は…義兄と私と大樹が初めて会った場所であり、義兄がずっと生きてきた場所。


私は…私の知る義兄が消えてしまうような気がして、怖かった…。

「お〜い、雪!早く荷物運び手伝えよ!」


「あ…うん。」


怒鳴り声に顔を上げると、大樹が義兄や瀬山さんの分のバックを抱えているところだった。


まったく…無駄に元気でうらやましい…。


「……大丈夫……お兄ちゃんは……ここにいる……私の側に…。」


私は自分に言い聞かせるように呟いた。


この悩みが、杞憂で終われば良いな…。


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