表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/43

1-2 理由無き苛立ち

「くそっ!」


陽が完全に登り切った頃、僕は電話を投げると片手にベッドに倒れ込んだ。


「なんだってんだよ、いったい!」


僕は抑えようの無い苛立ちを枕にぶつける。


大樹と雪、僕の弟と妹だ。


正確には血の繋がりもない、全くの他人、僕のイライラの原因もそこにある。




僕はその弟達に一度しか会った事がない。


母さんの連れ後だった僕は、母さんが再婚したさい、相手方の金銭的な都合で母方の実家に預けられ、育った。


幼いながらに寂しい思いは抱えて来たが、父が家を出ていった頃からそれなりに全てを割りきって生きていた。


中学生の頃だ、僕の元に知らない男が訪ねて来た。


脇に僕より2、3歳程年下ぐらいの子供2人を携えて。


それが、大樹と雪だった。


僕の父親だと名乗った男は、僕にふかぶかと頭を下げると、『すみませんでした。』と言った。


うる覚えだが僕は『どうでも良い。帰れ。』と睨みつけた様な気がする。


その時だ、傍らにいた大樹が僕の前に立ち塞がった。


『兄ちゃんさ、謝ってるんだから許せよな!!』


大樹は10cmは低い目線から僕を睨みつけながら、そう叫んだ。


義父は慌てて大樹の首ねっこを掴み自分の脇に引き寄せると、また頭を下げた。


僕は溜め息を吐くと、彼らに背を向け、家に入ろうとした。


その時、小さい…しかし良く響く声が聴こえた。


『ごめんなさい。』


雪だった。


僕はしばらく立ち止まっていたが『もういいよ。』とだけ言い、家に入った。



それ以来、彼らに会うことはなかった。


義父の仕事が落ち着き家族と一緒に暮らせる状態になった後も、僕は彼らと暮らすという選択はとらなかった。


しかし何故今になってヤツらが出てくるんだ?


まぁ怒りや憎しみ等はとうに無いが、それでも側にいて気持ちの良い間柄じゃない。


…母さんの言い分としてはこうだ。



母さんと父は昔は金銭的に余裕が無かった為、行くことが出来なかった新婚旅行に行きたい。


しかしまだ高校在学中である大樹と雪をそのまま置いては行けない。


かといって僕の居た母の実家も義父の実家も、遠く離れた田舎にあるため預ける事は出来ない。


そこで電車である程度時間をかければ二人の高校に通学可能な僕の部屋に白羽の矢がたった。


…小学生に成り立ての僕は平気で実家に預けた癖に…えらい過保護ぶりだ。


高校2年にもなれば2人で生活出来るだろうに、まったく迷惑以外の何モノでもない。


僕はポケットからマルボロを取り出すと、口にくわえた。


「数ヵ月の辛抱だ…。」


僕は紫煙を吐き出した。




そういえば…。


僕は傍らに鎮座するギターケースを開いた。


中からネックの折れたギターが出てくる。


「…ごめんな…?」


僕はグレッチのロゴが入ったヘッドを撫でた。


今日のライブで、興奮して叩き折ってしまったギター。


上京してきたとき、バイトで金を溜めて、ようやく買ったギター。


「はぁ…。」


自己嫌悪で吐気がするが、本当に吐いてもいられない。


何せ今日の昼過ぎには義弟達がやってくるのだ…。


やることはたくさんある。


「えっと…布団とか…用意して…後は…合鍵…」







いつの間にか、意識は闇に堕ちていた。



※グレッチ→ギターメーカー。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ