4-6 お呼び出しを申し上げます
洸平視点。
僕は欠伸をかみころしながら嘆息した。
時刻は午後1時。
仕事が無い…つまりオフの日に、僕がこの時間に起床していることはごく稀だ。
まぁ最近では大樹たちに起こされることもしばしば…しかしそれでも大樹達が学校に行っている今日ぐらいはゆっくりできると思っていた。
…のだが…
「先輩…なんで僕は此処に居るんですか?むしろなんで先輩が此処に居るんですか?」
不機嫌前回で目の前で悠々と雑誌を読む先輩を睨みつける。
先輩は女受けする多少可愛いらしい顔をこちらに向け、直ぐに視線を雑誌に戻す。
…そうかそうか…そういう態度でくるか。
「…今直ぐ叩き出す…」
「あ〜!冗談だって冗談!」
…こっちは冗談じゃない。
いきなりチャイムを連打して、部屋に入るなりおもむろに雑誌を読みだす。
不愉快極まりない。
「で、なんで来たんですか…?」
「いやぁさ、女に追い出されちまってさ。」
そういうことか…。
この人の女癖はいつまでたっても治る気配がない。
きっと今回も二股がバレたとかそんな事情だろう。
「だったらなおさら帰って下さい…。」
「そんなこと言うなよ!」
「もう先輩がらみで女の人に詰め寄られるの勘弁なんですよ…。昔からどれだけフォローしてきたと思ってるんですか?」
高校時代など酷いものだった…。
毎回ライブに先輩の彼女を名乗る人物が数人現れるのだ。
「んなこと言わないでさ…俺達の仲じゃん!な?」
「…暇ならどっか買い物とか行けば良いじゃないですか。」
僕が冷たくそう言い放つと、先輩は何やら不適な笑みを浮かべる。
何を言い出すやら?
「…昔…お前が女と出かけた時、あいつに言い訳してやったの誰だったけ?」
「ぐっ!」
まさかそんな昔のことを引っ張り出してくるとは…。
確かにあの時先輩が居なければ僕は此処に存在しないだろう。
嫉妬深いあの人の事だ、あれがバレていたら…考えるだけで寒気がする。
それを引き合いに出してくるぐらいだ、それなりにせっぱ詰まってるんだろう。
「はぁ…分かりましたよ…。居てくれて構いません。」
「それでこそ我が親友だ!」
ホクホク顔で雑誌に目線を戻す先輩を見て僕はもう一度ため息をついた。
ルルルルル…
「………。」
「………。」
滅多に鳴ることのない自宅の電話がけたたましく鳴り響く。
既にソファに寝転びテレビを起動させようとしていた僕は、同じく寝転んで雑誌に目を通す先輩を見つめた。
「………。」
「………。」
「………。」
「…わかったっての!出りゃ良いんだろ!?」
物わかりの良い先輩で助かった。
僕はまたテレビへと視線を向ける。
「は〜い、九条で〜す。」
なんつ〜応対の仕方だ…相手が何かの勧誘にしたってもっとキチンとできるだろう。
「え〜…はい俺は本人じゃないっす。ええ。」
………。
「あらあら、そりゃ大変ですねぇ。」
何世間話してるんだか…
「お〜い。何かお前の弟が問題起こしたらしくて学校に来て欲しいってよ。」
俺はバイクのアクセルを一気に捻り込む。
時速は約70km、一応前に1台車を走らせているので捕まる心配は薄いが、運が悪ければ直ぐに捕まる速度だ。
「おい洸!流石に飛ばしすぎだってよっ!うわっあぶねぇ!」
後ろから何やら聞こえるが、無視。
ちんたら走っているトラックの脇を強引に車線変更し疾走する。
何故こんなにも急いでいるか…それはもちろん大樹をぶん殴る為だ。
だってそうだろう?
僕の貴重なオフを潰してくれたんだ、キチンと、迅速にお礼をしないと気がすまない。
ここを左!
「お、おい!こっちであってるのか?」
「あいつらの高校の最寄り駅はこっちですからね。まぁ後は勘で着きますよ、俺を信じて下さい。」
恐らく合っている筈だ。
「俺って…お前一人称が昔に戻ってるぞ?」
後ろから先輩がおどけた様に声をかけてくる。
残念ながら俺はこんなときまで礼儀に気を使える程人間が出来ていないのだ。
にしても…何で着いて来るかな…この人は…。
「…帰りにガソリン代半分出してもらいますからね?」
「げっ!ケチ臭ぇな!」
当たり前だろう、ガソリン代だって馬鹿にならないんだ…しかも先輩が後ろに乗っかってるせいで余計にガソリンを消費するし。
「なんだよ…せっかく着いて来てやったのに。」
「別に頼んだわけじゃないんで此処で降りて頂いて結構…あっ!」
ドンピシャだ。
俺はスピードを落とすと、大樹達が通う高校の前でヘルメットを脱いだ。
「…覚悟しろ…愚弟がっ!」
地獄を見せてやる…。
小説のアクセス解析方法が変わり、読者数に近い判断だと15000人を突破しているようです!
お読みになって下さっている方々、同時に感想・評価をしてくださっている方々、真にありがとうございます!
余談ですが、そのうち洸平の中学・高校時代の話を別の小説として連載したいと考えております。