4-5 流れるのは沈黙と水分
大樹視点。
どんな状況だ…これは。
突然千里さんのファンクラブを名乗るやつらに襲われた。
水をぶっかけて逃走した。
そこまでは良い…いや冷静に考えるとかなりよろしくない。
あんときはイライラしていたからどうでも良いと思っていたが…へたをすれば謹慎モノの悪事を働いてしまった…。
…まぁ…起こしてしまったことは仕方がないし、今は現状把握が最優先だ。
「………。」
逃走中に逃げ込んだ放送室。
そこで俺は金田に頭を拭かれていた。
「まったく…何やってるのさ、君は。」
「いや…そのだな。」
金田は呆れたような笑顔を浮かべた。
同時に小さなハンカチが丁寧に髪の毛の水滴を拭き取ってくれる。
いや…何で?
つい先刻、俺は目の前の少女に放送室を追い出されたばかりだった。
追い出された理由はわからないが、また追い出されるものだとばかり…
「…西河?」
「な、なんだ?」
軽く泣き腫らしたその目は、至近距離で…真っ直ぐ俺を見ていた。
恥ずかしすぎて目をそらしたくなるが、同時にその顔を見つめいたいという気持ちもあった。
畜生…なんか変な汗かいてきやがった。
「河瀬先輩のこと…好きなの?」
「………は?」
「いいから答えてっ!」
何を言ってるんだ?コイツは…
目に涙を溜めて…
声を震わせて…
「勘違いだ…。」
俺は小さく呟いた。
こんな意味不明な状況で言うようなことじゃないのかもしれないけど、今言わなきゃいけないような気がするから。
「俺が好きなのはお前だよ、金田。」
金田は濡れた瞳を丸くしてじっと俺の顔を見つめていた。
刻々と過ぎる時間。
「………。」
「………。」
なんだ…この沈黙は…。
告白をするのは初めてじゃないが…正直出来ることなら今直ぐ逃げ出してしまいたいほど俺は緊張していた。
それほどまでに…金田の存在は俺の中で大きくなっていたのだ。
理由?
そんなもの知ったことじゃない。
恋ってそんなもんだろ。
出来ることなら…今直ぐ目の前の少女を抱き締めてしまいたい。
もしそれで今までの友人関係が壊れてしまうとしても…いや、いきなり抱き締めたらただの変態か…。
とにかく…返事が欲しかった。
肯定にせよ否定にせよ…返事を…
バタンッ!!
「コラァ!何鍵を閉めているんだ!」
「………。」
「………。」
見つめ合う俺と体育教師兼生活指導主任、通称『キメラ』(ゴリラ+ホモサピエンス)。
あっ…もしかして俺…終わった?
「河瀬ぇ…貴様、ただで済むと思うな!!」
「キメラ…じゃなくて先生!ちょっと待ってくれ!俺は今人生最大の告白を…!」
「いいから来い!」
「いやっ!だから俺は返事をっ…!」
「言い訳は聞かん!」
「いやぁあああ!!」
抵抗虚しく、俺はキメラに引きずられるように放送室から退場する。
無言で佇む金田を置いて…。
…随分盛大な歓迎だこと…。
「大樹君っ!立て込もっていたのはあなただったのね!?」
「君は…こんな問題を起こしてどうなるかわかっているのかね!?」
俺は廊下に出た途端、担任含め他数人の教師達に包囲されていた。
「とにかくっ!これから生活指導室でみっちり指導するからな!」
あ〜もう…うるせぇな…、耳元で怒鳴るな!
第一こっちはそれどころじゃ…
「大樹。」
「っ…!」
教師に混じって横から聞こえた声。
おそるおそる声の主を確認………。
「…俺…死んだかも…。」
そこには怒りのオーラを纏った雪が笑顔で立っていた。
というわけで大樹ガンバる!な、お話しです。
次回はようやく洸平視点…義兄、学校へ現われます。