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4-4 逃げる兎、追う狩人

雪視点。

私は呆然と廊下に佇んでいた。


…何やら廊下が騒がしいと思って来てみたら…。


教室の前の手洗い場の蛇口は全開まで開放されており、辺りには綺麗に水浸しだった。


「…うわぁ…。何があったんだろうね?」


横で加奈子が呟いているのが聞こえる。


…私は何となく嫌な予感にかられていた…、もしかして…。




「これって西河大樹の仕業なんだってさ。」




やっぱり…。


私は詳しい事情を聞くべくモップを持ちながら雑談を交わすクラスメイト達へ歩み寄った。


「あの馬鹿、何をしたの?」


「おっ、西河雪。」


男子…確か柳原君だったか…が私を見て目を丸くする。


「いやさ、俺も現場に居たわけじゃないんだけど…」




あらかたの事情を聞き終えた私が先ずしたことは、千里先輩への連絡だった。


話の流れからいって先輩本人は全く無関係なのだが、暴徒と化した男子の粛正は教師では不可能だろう。


千里先輩は『わかった。なんとかするわ』と素早く対応してくれた。


「…後は…。」


あの馬鹿を捕まえないと…。


濡れた大量の靴後が階段から枝分かれ式についていることから、大樹が逃げ回っていたことは確実だ。


大樹が今現在暴徒達に拘束されている可能性も無いわけではないが…ハッキリ言ってその可能性は低い。


その理由として大樹の足の速さは勿論のこと、何より通常発揮されないやつの悪知恵…。



「…やっぱり…。」



階段の脇に無造作に脱ぎ捨てられた濡れた靴と靴下…間違い無く大樹のものだ。


確かにこれなら足跡はあまり残らない…私は呆れながらその靴を回収する。


大樹はまだ捕まってはいない、私は確信した。


「…大樹君どうなるんだろうね?」


私の後ろで加奈子が苦笑混じりに呟いた。


これだけの大騒ぎだ、教師達が動かない筈もない。


「わからない。けど呼び出しは確実。」

「だよねぇ?」


私は小さくため息を吐いた。


今回ばかりは大樹だけに非があるとも言い切れないのだが…それにしたってやりすぎだ。


…お仕置き…しなくちゃ。


「ゆ、雪?顔が怖いよ?」


さて…どこだ?どこにいる?


「………。」


「ど、どうしたのよぉ?目なんかつむって。」


怯えた声を出す加奈子…無視。


思考を捨て、感覚だけを研ぎ澄ます…。







「そう…放送室にいるのね。」


「エスパーかあんたはっ!?」


超能力じゃない、ただ異常に確率の高い『勘』だ。


とにかく場所がわかった以上逃がさない。


私は階段を駆け下りた。












遅かった…。


放送室の前には既に数人の教師が集まっていた。


大方大樹を呼び出す為に校内放送を使おうとしたのだろう…。


困ったように会話を続ける教師達の中に私のクラスの担任にである若き女教師の姿を見付けると、私は出来るだけ自然に歩み寄った。


「先生。」


「雪ちゃん!大樹君が何処にいるか知らない!?」


「…私も探しているんです。」


放送室の中にいるかも…とは言わないでおく。


「じゃあ雪ちゃんもあの騒ぎのことは知ってるのね?」


「はい、人づてには。」


担任教師は心底参ったように眉間に皺を寄せた。


「困ったわねぇ…放送で呼び出そうにも、鍵が見当たらないのよ…。」


大樹がもっているという可能性は…ない。やつが所持しているのは合鍵だけの筈。


しかし…ならばオリジナルはいったい…。


「…くそっ!」


そんな私達の会話を尻目に郷を煮やした様子の屈強な体育教師が、突然放送室のドアを力任せに叩き始めた。


「ちょ、ちょっと先生…!落ち着いて!」


「コラッ!出てこい!誰かいるのはわかってるんだぞ!!」


…本格的にまずくなってきた…。


水をばら蒔いただけならまだしも、放送室へのたて篭りまで加わったら流石に謹慎及び重度のペナルティは免れないだろう。


「もう…知らない。」


私は考えることを諦めた。

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