4-3 突き詰めてみれば
金田沙世視点。
「………。」
義務である校内放送が終了する。
ボーっとする頭…。
今日は朝から気分が悪かった。
女の子特有の…月1のアレのせいだ。
私はそれが人一倍…その…大変なのだ。
そんなわけで、3限の授業が終わった時点で限界を感じた私は、昨日職員室に返し忘れていた鍵を使い放送室に侵入し、いつの間にやら設置されていたソファーに倒れ込んでしまったのだ。
…何故直ぐに目を覚ましてしまったのだろう…。
こんなことになるのならあのまま寝てしまっていた方が良かった。
私が目を覚ましたのは、室内に二人の人間の話し声を聞こえた辺りからだった。
「…しょに帰ろうと思って。」
耳に入る透き通る綺麗な声が私の意識をだんだんと覚醒させていった。
気分は…朝よりは幾分かマシになったようだ。
声のする方向を見ると、二人の人影が話しているのが確認できた。
一人は綺麗な女子生徒で、もう一人は赤髪で長身の…私が良く身知った男子生徒だった。
女子生徒の顔も良く見れば直ぐにわかった、なにせアイドルとまで言われるような人だ…わからない筈がない。
問題は何故この二人が…それも放送室で会話を交しているのか、だ。
「じゃあ帰りに校門で待ってるからね。」
「あ、はい。」
一瞬自分の耳を疑った。
一体何がどうなっているのか?
頭が混乱する。
「なんで西河と河瀬さんが…?」
私は小さく呟くととっさに狸寝入りを敢行した。
それからしばらく二人の会話に聞き耳を立てているうちに、何故だか息が苦しくなってきた。
二人が付き合っているということは無さそうだ…先ほど西河が携帯の番号を渡していたことからそれはわかった。
しかしその疑問が晴れても、私の気分はすぐれなかった。
西河は…河瀬さんに恋している。
そう考えるだけで…なんだか泣きたくなる…。
バタン…
河瀬さんが去った音がすると共に私は起き上がった。
西河は私を見て一瞬驚いたように目を見開いたが直ぐにいつもの無邪気な笑顔を浮かべた。
「お、金田。起きたのか。」
起きたのかじゃない…。
なんで…いや、なんだろう。
私は西河の顔をこれ以上見ていられなかった。
「出てって。」
自分でも意味不明だとわかっている…でも…私は他に言葉をつむげなかった。
「はぁ…。」
私は手鏡ごしの多少赤く腫れた自分の瞳を見つめた。
何故あんなことを言ってしまったのか…何故泣いてしまったのか…。
…本当はその理由もわかっている。
まったく馬鹿らしい話だが…私は西河大樹に恋をしてしまっていた。
いつの間に…いや、今更それをいったってしょうがない。
私の気持ちは間違いなくそれを核心してしまっているのだから…。
「…っていっても、あの河瀬さんが相手じゃなぁ…。」
ハッキリ言って勝ち目はゼロだ…。
才色兼備、加えて性格まで良いときている…もはや反則だ。
「はぁ…私も馬鹿だなぁ…。」
本当に…馬鹿だ。
いつも飽きもせず放送室へ足を運んでいた理由も、西河と会うためだというのか…。
まったく…私もずいぶんと女の子をしているものだ。
「ぁ…。」
ふと赤渕の眼鏡が視界の隅に入った。
自分でとった記憶はない…ということは、西河が…。
妙な所で優しくしてくれちゃって…本当にむかつくヤツだ。
そういえばこの眼鏡も以前好きだった男の子が眼鏡好きだと聞いてかけていたんだったけ…。
「…恋なんて…しばらくしないと思ってたのにな…。」
「へぇ、今は恋してんのか?」
私が声の方向に顔を向けると、そこにはずぶ濡れの男子生徒が立っていた。
「…何…してんの?」
私が驚愕に身を固めていると、彼は爽やかな微苦笑を浮かべた。
「わりぃ、訳あって追われてんだよな…避難さしてくれや。」
何の冗談だろう…これは。
数分前追い出した筈の西河大樹がそこには立っていた。