表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/43

4-1 恋する乙女と座談会

雪視点。

「ねぇ加奈子。」


昼休みの教室、私はお弁当を食べる手を休めると目の前の友人に話しかける。


加奈子(かなこ)は口一杯に玉子焼きを頬張りながら丸い大きな目を私に向ける。


頬をつっついてみる。


「みゅっ!何すんの?」


私は加奈子の可愛いらしい反応が微笑ましい反面、複雑でもあった。


こんなに可愛い加奈子と付き合っている男とは…いったいどんな人物なのか。


昔から色恋沙汰に興味の薄いわたしだが、義兄と暮らすようになってから多少そういったことを気にするようになってきた。


…言ってて恥ずかしいけれど…私も恋する乙女だということだ。


「加奈子の彼って、どんな人?」


「へっ!?いきなり何言い出すの!?」


あわてて顔を真っ赤にする加奈子だが、直ぐにいやらしいニヤケ顔をこちらに向けてくる。


「…ははぁん、雪もとうとう恋に目覚めたか。好きな人でも出来たのかな?」


「…出来たも何も…前からいるよ?」


「………。」










「えぇっ!!??ナニソレ!誰それ!聞いてないよ!!!」


興奮して詰め寄ってくる加奈子。


彼女のその反応だけでも、私が言わなければ良かったと後悔するには十分だった。












「ふむふむ…成程ねぇ〜近くにいるけど、遠い人な訳だ?」


義兄との関係を適当に、抽象的に説明すると、加奈子は推理中の探偵のようなジェスチャーをとる。


「…それってもしかして…大樹君とか?」


「は?」


何恐ろしい事を言っているやら。


「馬鹿なこと言わないで…。」


「だよねぇ〜。」


言いながら加奈子はケラケラと笑う。


冗談のつもりなんだろうか…?


何がどうしたら私が大樹に恋心を抱いているように見えるのだろう。


「う〜ん…じゃあ幼馴染みとかは?」


「居ない。」


「担任の先生!」


「女。」


「むぅ…じゃあなんだろ?」


関係性からいったら大樹が一番近いのかもしれない…一応私と義兄は家族なのだ。


…血の繋がりは無いにしても…家族に恋をするというのは、やはり背徳的行為なのだろうか?


義理でも彼と兄妹にならなければ、私と彼は出会っていなかった、彼の側にはいられなかった…でも…。


「………。」


今の…兄妹としての繋がりが有る限り、私と彼は結ばれることはない。


かといって…今の心地良い関係を壊したくはなかった。


「…苦しいな…。」


なんともなしに小さく呟く。


口に出したところで形容できない感情…止めた…考えてもしょうがない。


「雪?どしたの?」


「…なんでもない。」


加奈子の声で意識を現実へと戻す。


目の前で目を丸くする加奈子の髪の毛に軽く手櫛を通すと、私は自作の弁当に手を伸ばした。




ガラガラガラ…




ふと教室のドアを開閉する音が響く。


何時もなら入って来た人物をチラリと見て終わりなのだが、今回はそういうわけにもいかなかった。


「千里…先輩?」


突如として現れた人物…千里先輩はキョロキョロと教室の中を見回す。


呆然とする教室内のクラスメイト達…それはそうだ、学校のアイドルとまで言われる人が、いきなり2年の教室に出没したのだから。


千里先輩は窓際に座る私達を見止めると、スタスタという擬音が浮かんでくる優雅な歩き方で私達に歩み寄る。


直ぐ様加奈子が話し掛ける。


「千里さん、どうしたんですかわざわざ。部活のことならメールしてくれれば良いのに。」


「今日は部活の事じゃないの。それにしても加奈ちゃん…しばらく会わないうちに可愛くなったねぇ。」


千里先輩は綺麗な笑みを浮かべて加奈子の頭を撫でる。


私と加奈子…それに千里先輩は『料理部』というクラブ活動の仲間だ。


義兄と暮らすようになってからは私はあまり顔を出していないし、先輩も最上級学年ということで参加していないようなので、この間喫茶店で会ったのが本当に久しぶりだった。


…あまり思い出したくない会い方だったけれど…。


「それで、どうしたんですか?」


じゃれ合う千里先輩と加奈子に合を煮やした私は当然の疑問を発する。


部活の話で無ければ、此処に彼女が居る理由が見当たらない。


「あ、そうそう。大樹君居る?」




教室内の空気が再び固まる。




私はそれで全てを理解すると、硬直するクラスメイト達を無視して話を進める。


「居ないです。」


「そっかぁ…困ったな。今日一緒に帰ろうと思ったんだけど…。大樹君のメールアドレスも聞いてなかったし…。」


成程。


馬鹿の大樹の方向音痴を危惧し、バイト先まで一緒に行こうと踏んだわけだ。


聡明な人だ…確かに大樹じゃ一回しか行っていない喫茶カノンに迷わずに行くことは不可能だ。


「大樹なら放送室。」


「放送室?委員なんだ。」


「違うけど、多分居る。」


私がそう言うと、千里先輩はまた美しい笑顔を浮かべる。


「わかった、行ってみる。ありがとうね!」


多少早歩きで教室を去らんとする千里先輩。


私はまた黙々と弁当に手を伸ばす。










やがて時間解凍が施されたように教室は凄まじい喧騒に包まれたが、私の知ったことではなかった。



4話は大樹中心の話になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ