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3-2 後悔

大樹視点。

「此所だよ。」


兄貴は目の前に佇む喫茶店を指差した。


中々雰囲気の良さそうな所じゃないか…。


兄貴の嫌がりようからは想像も出来ないその店は、『喫茶カノン』という看板を出していた。


「へぇ〜!良さそうな所じゃんか。」


「そうか、それは良かった。それじゃ僕は帰るから。」


「いやいや、ちょっと待てって。」


「離せ!離してくれ!僕は絶対ここには入らない!」


俺は逃げようとする兄貴を羽交い締めにして、店のドアまで引きずって行く。


…兄貴って意外と力ねぇんだな。


少し優越感を感じる。


「…大樹。」


と、いきなり雪がドアの前に立ち塞がる。


ちっ…邪魔する気か…?





キィ…





「お、サンキュ。」


「裏切り者ぉ!!!」


俺は雪が開けてくれたドアへと兄貴を引きずる。


利害の一致。


俺は兄貴の義弟だと言ったほうがバイトしやすいから。


雪は兄貴過去を少しでも知りたいから。


こうなれば俺達双子に怖いものはない。


「嫌だぁぁ!!!」










チリンチリン…


「いらっしゃいませー…って…。洸平!?洸平じゃないか!」


木製の壁にアメリカの音楽雑誌や新聞等が張り付けられたお洒落な店内。


カウンターで俺達を迎えたのは、若若しい眼鏡の男性だった。


流れる黒髪、眼鏡をかけたその風貌はいかにも喫茶店のマスターというよりも、洒落たバーのバーテンダーの様な風貌。


しかし兄貴はこの店の何に怖がっているんだ?


「…大樹…!絶対許さないからな…!」


「だから何がそんなに…」


「洸平…寂しかったぞ。なんでずっと来てくれなかったんだ?」


早っ!!!


カウンターに居た筈の彼はいつの間にか兄貴の横に立っていた…どんなマジックだ?

これには流石の雪も目を丸くしていた。


俺達が呆然と立ち尽くしていると、兄貴は引き吊った笑顔を浮かべながらマスターに話し掛けていた。


「…久しぶりです。マスター…。」


「嫌だな…前みたいに彼方(かなた)って呼んでくれよ。」


「か、彼方さん…とりあえず離れてくれません?」


「つれないな…目を反らすなよ。久しぶりなんだから良く顔を見せてくれ…。」




な、なんだこの人は!?




彼方と名乗ったマスターは、兄貴に手を添え今にもキスできそうな距離まで顔を近付けていた。


兄貴もマスターもルックスが良いからこれはこれで…いやいや、何考えてんだ俺は…。


しかし俺がマスターに制止をかけるかかけまいか迷っている間に、雪が2人の間に割り込んでいた。


お前…やっぱすげぇよ…。


「…お兄ちゃんから離れて。」


「お兄ちゃん…?君、誰?」


マスターは雪を睨みつける。


「げっ…!こわっ!!」


雪、逃げろ…!


その人はアッチ系の人なんだぞ!?


女にだって容赦しない…


「可愛いじゃん…君。どう?これから俺の部屋に来ない?」





へ?





もしかして…どっちもイケる人?


「もしかして初めて?」


「ぇ…ぃや、ぁの…。」


マスターは困惑する雪の顎に手を添える。


「それなら大丈夫、俺上手いからさ。任せて良いよ。」


「はいストップ!!」


ナイス兄貴!


雪は、急いで兄貴の後ろに隠れる。


「赤くなっちゃって…可愛いねぇ。っていうか洸平、君彼女にお兄ちゃんって呼ばせてるんだ?良い趣味だな。」


「…彼女じゃなくて義妹です。次こいつにセクハラしたら殺しますよ?」


兄貴はマスターを睨みつける。


カッコいいなぁオイ!


しかし雪はそんな兄貴に気付いた様子も無く、先程よりも顔真っ赤にしてうつ向いている。


彼女って単語に反応したのか…なんつ〜か…幸せなヤツ…。


「その子が噂の…。じゃあそっちのが弟君?」


「あ、はい!弟の大樹です。」


俺は緊張しながら答える。


マスターは品定するように俺を眺めた。


…なんだろう…この人に見られていると寒気がする。


「すごく良いね…。涎がでるよ。」


兄貴はそれを聞くと、笑顔を浮かべた。


嫌な予感が…


「それは良かった。今日はそいつを彼方さんにあげようと思って来たんです。」







チョットマテ。







「あ、兄貴!?何言って…」


「間違ってないよなぁ?バイト、したいんだろ?」


「そ、そりゃそうだけどよ!」


「へぇ…バイトしに来たんだ。良いよ、もらってあげる。」


いやぁぁぁ!!!


「良かったねぇ大樹、バイト決まって。」


くそっ!


兄貴の笑みが悪魔に見える。


…兄貴を敵に回すんじゃなかった!


「彼方!仕事サボって何やってんの!?」


突如カウンターの奥から若い女性の声が響く。


千里(ちさと)か。今洸平が義兄弟連れて来てるぞ!」


「えっ!?九条さんが!?きゃっ!!」


ドタン!


想像しい音と共に、カウンターの奥からエプロン姿の女性が現れる。


「千里…先輩?」


雪がそう呟いたのが耳に届く。



いや…まさか…こんな偶然が…。



サラサラと流れる茶色い髪、パッチリとした目元、エプロンをしていてもそのスタイルの良さが良くわかる。


我が高校3年にして、高校を代表するマドンナ…河瀬(かわせ) 千里(ちさと)先輩がそこには居た。



「はぁ…はぁ…。」



当の千里先輩は、息を切らしながらそこに立ち尽くしている。


…これは…声をかけた方が良いのだろうか?


「千里。何固まってんだ?」


と、マスター。


それでも千里先輩は無言で立ち尽くしている。


合を煮やしたのか、兄貴が遠慮がちに笑いかける。


「千里ちゃん、久しぶり。」


「ぁ…。」


千里先輩は小さく声を漏らす。


こんな物静かな人だったっけか…?


俺が学校で見ている千里先輩は、いつも友達と楽しげに談笑を交していたのだが。


「千里ちゃん…?」


もう一度兄貴が声を掛ける。










「「「なっ!!??」」」










俺、雪、兄貴の3人は驚愕の声をあげた。


そりゃそうだろう…千里先輩がいきなり兄貴に抱きついたんだから…。


「おい雪…。あれってどういうことだ?」


俺は雪に小声で話し掛ける。


「………。」


「お前千里先輩の知り合いなんだろ?」


「知り合いだったけど…もう敵。」


俺はその時の雪の表情を生涯忘れることは出来ないだろう。


阿修羅…そう、阿修羅を宿した双子の片割れは、引き吊った笑顔で千里先輩と兄貴を見つめていた。


「来なきゃ良かった…。」


どうしてこうも厄介事が重なるのか…。


何より先程からずっと俺に突き刺さっているマスターの瞳が、俺に深く後悔の念を植え付けていた。

次話は義兄弟妹以外の視点でお送りしたいと思います。

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