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デッドゲーム  作者: けせらせら
28/29

デッドゲーム・28

 二月七日(火)

  PM 7:11


 憂鬱な思いだった。

 ゲームが始まって一週間。この間に何人が命を落としただろう……。

 弘子はエレベータに乗りながらぼんやりと考えた。

 間宮、田川、そして四人のカードマン……、しかもそのうちの一人を弘子自らの手で死に至らしめている。

 そんな思いまでして、やっと昨日ゲームが終わったと思ったのに……

――何って目の前に金があるんだ。それに手をださないほうが馬鹿だろう

 修一の顔がちらついた。

 また振り出しに戻ってしまった。

(あの男、何をするつもりだろう……)

 あのまま、修一がおとなしくひきさがってくれるとは思えない。

 何があっても早紀を護りぬこうと決めたはずだった。けれど……

(修一まで……)

 それを考えるのはさすがに怖かった。

 学生時代からのことを思い出さずにいられなかった。修一は軽い性格だった。だが、その性格に助けられたことも何度もある。今の自分の前向きな性格を作ってくれたのも修一かもしれない。

 その修一を殺すことだけは考えたくはなかった。

 修一はこのマンションを知っている。早くなんとかしなければいけない。何か良い方法を考えなければいけない。全てを話し、早紀にいずれ賞金が入ることを伝えるべきだろうか……そうすれば早紀を殺そうとはしないだろう。

 ドアの前に立ち、深呼吸をする。

 そう、早紀にこんな顔は見せられない。

 ドアを開けた。

「ただいまぁ」

 わざと声のトーンをあげて明るく振舞う。

 だが、その瞬間、いつもと部屋の空気が違っていることに気づいた。

 ドアが開く音でリビングから早紀が顔を出した。その顔が緊張している。そして、弘子も早紀の持っているものに気づいた。

(なんてこと……)

 めまいがした。

「弘子……」

 つぶやくような早紀の声。その手には弘子が箪笥の奥に隠したあの間宮の資料がしっかりと握られている。思わず倒れてしまいそうになるのを堪えながら弘子はなかへと入っていった。

 逃げるわけにはいかない。こうなったら正直に話すしかない。

「……」

 何か言わなきゃいけない。頭のなかで言葉を捜した。だが、何も言葉が出ないまま弘子は早紀の前を通りすぎ、リビングへと入った。

 リビングのテーブルの上には黒く光る拳銃が置かれている。目を背けるようにソファへ腰を降ろした。立っていられなかった。

 その傍らに早紀も膝をつき、資料を弘子の前に置いた。

「どういうこと?」

 早紀が沈黙をやぶるように口を開いた。

 言葉を捜して頭を押さえた。説明しなければいけない、とは思うものの言葉が出てこない。

「今日、デッド・ゲームの管理委員会ってとこからルール変更のメールが届いたの。今回のゲームでは特別にターゲットにカードマンの名前を公開するって……。そのメールには弘子の名前が書かれていたわ」

「……」

「だから私、弘子の部屋を捜したの。何かがあるような気がして……ねえ、答えて……どういうことなの?」

 早紀にとっても弘子の沈黙は苦痛だった。ちゃんと自分が納得できるような説明が欲しかった。弘子を信じるためにも説明が必要だった。

「何度も……何度も言おうと思ったんだ……」

「……」

「でも……怖かった……早紀に信じてもらえなくなりそうで……」

「間宮さんはどうしたの? 弘子、知ってるんでしょ? これは間宮さんの資料よね。この資料のなかに弘子の名前があるってことは、間宮さんは弘子がカードマンってことを知っていたってことよね。そしてこの資料を弘子が持っていたってことは間宮さんと会ったってことなんでしょ」

 早紀の言葉に弘子はおとなしく頷いた。

「あの人は私を脅しにきたのよ。黙ってるかわりに報酬を上げるように早紀に働きかけろって……」

「本当なの?」

「そうよ。あいつは私が早紀を殺すことまで考えてた」

「それで……殺したの?」

「私にそんなこと出来るわけない……[掃除人]よ。早紀だって昨夜、見たんでしょ。カードマンでもターゲットでもない間宮さんは排除されたのよ」

「それじゃ田川さんは?」

「彼もおそらく[掃除人]によって殺されたんだと思う」

「そんな……」

「田川さんはかわいそうだったかもね。でも、間宮って奴は……あいつは早紀が思っているような善人じゃないわよ。あいつが言っていた『交渉』というのはカードマンを殺すことなんだから」

「……だって交渉するために一人二百万支払うって……」

「そんなの嘘っぱち。ぜんぶあいつのものになるだけだったのよ。あいつは交渉といいながらカードマンを殺したんだと思う。その拳銃は彼のものよ。掃除人はあいつを殺して死体だけを持ち去ったの。拳銃と資料は置いていったわ……」

 早紀はちらりとテーブルの上に置かれた拳銃を見た。早紀が本物の拳銃を見るのはこれが初めてだった。早紀は恐怖で目を背けた。

「間宮さんはいつ?」

「先週の金曜日に……朝、私の携帯に電話がはいったの。話があるって……。それでここに戻って話をしてるときに[掃除人]に襲われたの」

「そう……やっぱりあの日から連絡取れなくなったのはそういうことだったのね」

「ええ」

「間宮さんが『交渉が終わった』って言ったのはコールマンとドッグの二人よね。私を襲ったカードマンを含めるともう三人は死んだってこと?」

「いいえ四人よ。もう一人死んでいるわ」

「ドクター? でも、その人はアメリカに行ってたはずよ。帰国するのは昨日だったはずよね。それなら間宮さんは殺せない……まさか……」

「――私が」

「なぜ……?」

 思わず早紀は口を覆った。涙がこぼれそうになる。

「早紀を護るためよ。その資料を読んだでしょ。今井って男はデッド・ゲームの常連でこれまでもゲームのなかで二人殺しているような男よ。必ず早紀を狙ってくるって思った。だからその拳銃で……きっとあの男の死体も[掃除人]によって消されてしまってると思う」

 弘子の話に言葉が出なかった。

 だが、まだ聞かなければいけないことがある。涙が溢れるのを堪えるようにさらに早紀は尋ねた。

「なぜ私がこんなゲームのターゲットになったの? 弘子が私の名前を使ったの?」

「違う! 違うよ……私じゃない。私は一切応募なんてしてない!」

「それじゃ、やっぱり修一君なの?」

 早紀の口からその名前が出たことに弘子は驚いた。

「どうしてそのことを?」

「やっぱりそうなのね。ホームページに書かれてた電話番号に電話したの憶えてる?」

「ええ」

「今日、そこのバイトの子から電話があったの。私の名前で応募した申し込み通知が見つかったって……でも、その消印が北海道だったの……修一君よね。そうなんでしょ? 修一君と弘子と二人で私をターゲットにしたの? そして、自分でカードマンに?」

 弘子は慌てて首を振った。

「違う! そんなんじゃないよ。私は知らなかった……私がカードマンになった理由だって知らなかった。あいつは自分が応募したんじゃないって言っていたわ」

「本当なの?」

「本当よ……あいつが今日来たの……」

「修一君が?」

 その時、リビングのドアが突然開いた。

「鍵もかけずに不用心だな」

 修一だった。

 その姿に弘子ははっとした。帰宅したときに鍵をかけるのを忘れたのだ。

(こんな時に鍵を締め忘れるなんて……)

 弘子は自分の性格を悔やんだ。

「何しに来たの?! 帰って!」

 思わず弘子は立ち上がり、修一を押し返そうとした。だが、修一はそんな弘子を邪魔にするようにソファへ突き飛ばした。

「修一君!」

 早紀も声をあげた。

「よぉ、有名人! ひさしぶりだな」

 軽く笑いながら修一はぐるりと部屋を見回した。「変わってないなぁ。ま、ほんの三ヶ月だから変わるわけもないか」

「修一君はたった三ヶ月なのにずいぶん変わった感じね。何の用なの?」

 早紀がきつい目で睨む。だが、修一は悪びれた素振りもみせずどっかとソファに腰を降ろした。

「冷たいこと言うなよ」

 修一はくちゃくちゃとガムを噛みながら笑った。

「いったいどういうつもり? なぜ私の名前でこんなゲームに?」

「よせよ、おまえら二人一緒に住んでるとセリフまで同じになるのかよ。俺は知らねえよ。そんなのどうでもいいだろ。オマエを殺れば、大金が転がり込むことに変わりはねえんだからな」

「だったら自分の名前で応募したらいいでしょ」

「やだよ、俺は死にたくねえから」

 そう言って再び笑う。

「なんて人なの……」

 こんな男のために自分が知らない人々に殺されそうになったことが悔しかった。

 そのやりとりを見ながら、弘子の手がゆっくりとテーブルの上を動いた。

(話してわかる相手じゃない……)

 それを誰よりも弘子は感じている。

 そして、拳銃を掴もうとした瞬間、修一の大きな手がその上から覆い被さってきた。

「よせよ、こんな危ないもの持つなんて」

 そう言って修一は弘子の手から拳銃を奪い取った。

「修一……」

「へえ、こいつ本物かい? おっかねえなぁ。おまえら、ずいぶん物騒なものを持ってんだな」

 修一はまじまじと拳銃を見詰めた。

「帰って……帰りなさいよ!」

「うりせえ!」

 修一が弘子に拳銃を向ける。「おまえは黙ってろよ。おまえは大事な身体だ。おまえが生きてなきゃ賞金は受け取れねえからな」

 そして、ゆっくりとその拳銃を早紀に向けた。

「修一君……本気なの?」

「当たり前だ。冗談でこんなことするとでも思ってるのか? あいかわらずあまっちょろいお嬢さんだな」

「……何人死んだと思ってるの?」

「あ?」

「このゲームのせいで大勢人が死んでるのよ」

「それがどうしたよ? 他の誰が死のうと俺の知ったことじゃないな」

「情けない人ね」

 その言葉に修一は眉をつりあげた。手が怒りで震えはじめる。

「情けない? おまえ……俺にむかって情けないだと? 自分の今の立場わかって言ってるのか? おまえは俺がその気になれば殺せるんだ!」

「殺れるもんなら殺ってみなさいよ」

「きさま!」

 今にも拳銃を撃ちそうな修平の様子に、溜まらず弘子が早紀の盾になるように早紀に抱きついた。

「早紀は殺させない!」

「弘子! どけ!」

「修一! やめて! もうカードマンは私以外みんな死んだのよ! 早紀の勝ちなの! お金ならあげるからこんなことやめて!」

「そんな嘘に騙されるとでも思ってるのか! くっそ!」

 修一は怒りに任せるように弘子の肩のあたりに拳銃を向けると引き金を引いた。鈍い爆発音が部屋に響き、弘子の身体が弾むように床に落ちる。

「弘子!」

「う……」

 背中から肩のあたりがみるみるうちに真っ赤に染まっていく。その痛みに弘子は床に倒れたまま起き上がれなくなった。

「なんてことするの……?」

 悔しさで涙が溢れてきた。

 興奮気味に修一が拳銃を早紀の顔へと向ける。

「さてと……これでおまえもおしまいだな」

 狂喜に満ちた表情が修一の顔に浮かんでいる。昨夜、早紀を襲った会社員の顔と修一の顔がダブる。

(こんなゲームさえなければ……こんなことにはならなかった)

 その時、ふとあることに気付いた。

(そうだ……)

 そのことが大きな安堵となって心を覆っていく。

 早紀はふと笑みを漏らした。

「あなたはバカよ……」

「なんだって?」

「もうゲームはおしまい……あなたは私を殺せないわ」

 強い意志を持った目で修一を見る。

(修一は私を殺すことは出来ない)

 はっきりとそれを確信していた。

「ふざけるなよ……何言ってんだおまえ……この引き金を引けば、おまえの頭は吹っ飛ぶんだ!」

 ちらちらと周囲を見ながら、そして拳銃を確認しながら修一は怒鳴った。修一も緊張しているのがわかる。うっすらと額に汗をかいている。

「無理よ。撃てるものなら撃ってみればいいわ。でも、あなたは私を殺せない!」

 その言葉に弘子も驚き、早紀を見上げた。

「早紀……」

「大丈夫」

 弘子の手を強く握り締める。

「くそ……くそ……くそ! 死んじまえ!」

 銃口がまっすぐに早紀の頭に狙いをつけた。修一の手が強く拳銃を握る。

 銃声が部屋に響いた。

 思わず早紀は目をつぶった。そして、恐る恐る目を開けた。

 驚いたような表情をしている修一が見える。その銃口は相変わらず早紀に向いていたが、その手からはすでに力は失われている。

「な……なんだ……?」

 ぐらりと身体が揺れるのを修一はなんとか左腕をテーブルについて支えようとしている。何が起きたのかわからないという目をして早紀を見つめている。

 リビングのドアが少し開いている。そこから黒い銃口が光っているのが見えた。

(やっぱり……)

「あなたに私を殺す権利はないのよ」

 左手が力を失い修一の体が横に倒れていく。

 リビングのドアが開き、掃除人が現れるのが見えた。サイレンサーつきの拳銃を構え、その銃口はまだ修一へ向けられている。

「あ……」

 まだ修一の意識は残っていた。

 賢明に身体を起き上がらせようともがいている。すでに修一の目にも掃除人の姿は映っている。だが、それでも修一は今自分に起きたことを理解出来ていないだろう。そして、今後も理解することは不可能だろう。

 掃除人の銃から銃弾が再び修一の体に撃ちこまれる。その修一の表情から命が消える瞬間が読み取れた。ぷつりと命を切られた身体がゆっくりとソファの上に落ちていった。

 その身体から流れた血がソファを濡らしていく。

 掃除人は部屋に入ってくると、まっすぐに修一に近づいていった。早紀と弘子は何も言えずにその姿を見つめた。

 ドンと大きなトランクを床に置き、何も喋ろうともせずに修一の身体を持ち上げ、そのなかに押し込み始める。

「ずっと見張ってるんですね」

 早紀は掃除人に声をかけた。掃除人はトランクに修一の身体を詰め込みながら、早紀へ顔を向けた。

「ゲームを監視するのが俺の役目だ。知っていたのか?」

「いいえ……でも、昨夜からずっと考えていました。きっとあなたはどこかで私を見張ってるんだろうって……。そしてカードマンだけが私を殺す権利を持っているんだろうって……そうでしょう?」

 掃除人は黙ったままにやりと口元を歪めた。

「ゲームは終わったんでしょう」

 その言葉に掃除人はちらりと弘子を見た。肩を撃ち抜かれ、床に横たわる弘子を見て掃除人は早紀にむかってにやりと笑った。

「ああ、そうだな……カードマン五人のうち四人が死に、一人がケガでゲームを離脱した。残ったのはターゲットのあんた一人。ゲームは終わりだ。あんたの勝ちだ」

 そう言うと掃除人はなぜかふと部屋の隅を見上げた。それから、ポケットのなかから一枚の紙を取り出し早紀に渡した。病院名と名前が書かれている。

「なんですか?」

「そこの病院に行けば何も聞かずに治療してくれる」

 弘子の拳銃の弾での傷を言っているのだとすぐにわかった。

「ありがとう」

 掃除人は修一の入った大きなトランクをひょいと持ち上げた。

「いずれ管理委員から通知と賞金が届くだろう」

 そう言うと当たり前のように部屋を後にした。

「早紀」

 肩の痛みを堪えながら弘子が起き上がった。

「大丈夫?」

「さあ、わかんない。拳銃で撃たれたのなんて初めてだから」

 苦しそうに顔を歪めながらも弘子は笑ってみせた。その笑顔に早紀はほっとした。

「終わったね」

「うん……」

 二人とも涙が溢れていた。


 二月七日(火)

  PM 8:37


 [掃除人]はマンションを出ると大きく背伸びをして冷たい空気を吸った。

 いつもながら、この瞬間がもっとも心地良い。やっと生き返る気持ちになれる。罪もない人々が一部の人間が楽しむためだけに死んでいくようなこのゲームを[掃除人]は内心嫌っていた。

(もともと俺はこの仕事には向いていないのだ)

 かつては刑事として誰も苦しむことのない世界を作れたら……と願ったはずなのに。いつの間にか[掃除人]と呼ばれ、裏の世界で怖れられる存在になってしまった。

 ふと山岸のことを思い出した。

 かつて『藤堂恭一郎』として学生時代を共に過ごした男。今にして思えばあの頃が一番夢に向かって輝いていられた頃かもしれない。

(忘れよう。もう過去へは戻れない)

 父である桜庭雄一郎と出会い、自分の生い立ちの全てを聞いたときから全ては変わってしまった。もう藤堂恭一郎として生きることは出来ない。今は[掃除人]を束ねる存在なのだ。

『おい――ゼロ! ゼロ!』

 イヤホンから声が聞こえてくる。管理人の[男]の声だ。

 [掃除人]と桜庭雄一郎の関係は、ゲーム関係者とはいえ一部の人間にしか知らされていない。ましてや雇われ管理人の[男]など知ることの出来ることではない。

(またあの野郎だ)

 自分たちをゲームの駒のように扱おうとする[男]のことを[掃除人]は快く思っていなかった。

[男]は表の世界では『作家』としての顔を持っている。きっとこのゲームも自分がストーリーを作り上げているつもりでいるのだろう。

 [掃除人]は仕方なく胸元につけたマイクのスイッチをオンにした。

「なんだ?」

『ゼロ、貴様何のつもりだ?』

「何のことだ?」

 周囲には誰もいないが、それでも決して周りに聞こえないようにぼそりと喋る。

『勝手にゲームを終わらせるな! ゲームを終わらせるのは俺の役目だぞ!』

 その声から[男]の怒りが伝わってくる。

「ゲームは終わりだ。カードマンが全員離脱した」

『まだ畑中弘子は生きているじゃないか』

「ケガをしている」

『ふん、ずいぶん優しいものだな。だが、ゲームは再開だ』

 高圧的な[男]の声に[掃除人]は眉をひそめた。

「それは出来ない。ゲームは終わりだ」

『なんだと! ゲームの運営を任されているのは俺だぞ! あの女たち二人を殺せ!』

 ヒステリックに[男]は叫んだ。

「なぜ、それほどまで彼女たちを殺したいんだ? 何か恨みでもあるのか?」

『う、うるさい! 貴様、俺に逆らうつもりか?』

 だが、[掃除人]は軽く笑った。

「たかが[雇われ]の立場でずいぶん威勢がいいじゃないか」

『何ぃ! ルールに背くつもりか!』

「ルールだと? おまえ、ルールをわかっているのか? ターゲットもカードマンも自分で応募しない限り、受けいれないのがルールのはずだ」

『な……どうしてそのことを? あれは……』

 急に[男]の声が弱々しく変わった。

「おまえはルールを曲げたのだろう? おまえ、俺が知らないとでも思っているのか? なあ、安田」

 わざとらしく名前を呼び捨てる。

『どうして俺の名前を……』

「安田孝、今度の件はおまえが計ったことだろう? おまえが書類を偽造して、彼女たちをゲームに巻き込んだんだ」

『違う……これは……』

「違うだと? なら、これはミスだな。大きなミスだ」

『お……俺はそのほうがゲームが楽しくなると思って……』

「ほぉ。それじゃやはり故意にオーナーが作ったルールを無視したってことか?」

『そ……それは……』

「ゲームはルールが全てだ。ルールのないゲームはつまらない。これはオーナーの言葉だ。ルールを破った人間がどうなるかはわかっているだろうな」

『待て!』

「それは命令のつもりか? 俺はオーナーの部下でおまえの部下ではない。俺にはおまえを裁く権利がある」

『ま……待ってくれ』

[男]の悲痛な叫び声を無視して、[掃除人]はイヤホンのスイッチを切った。そして、替わりに無線の周波数を換える。それは[掃除人]配下の者たちへの指示を与えるものだ。

「[雇われ]を殺せ」

 そう言って空を見上げた。

 暗い夜空に星が輝いている。


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