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デッドゲーム  作者: けせらせら
19/29

デッドゲーム・19

 二月三日(金)

  AM10:50


 間宮の言葉に弘子はどう答えればいいかを思案していた。

(もしカードマンと知れば――)

 間宮はどうするつもりだろう。やはり木崎を殺したように殺すつもりなのだろうか。あの部屋の情況が思い浮かんだ。

「答えてもらえませんか?」

 はっとして間宮を見た。弘子は覚悟を決めた。

「ええ、あなたが調べたとおりです」

「それはあなたがカードマンだということですね」

「そうです」

 それを聞き間宮はにやりと笑った。

「驚きましたよ。まさか捜していたカードマンの一人がこんな近くにいたんですからね。いくら田川が警備していてもあなたに狙われてしまえばどうにもならない」

「私が早紀のことを殺すっていうんですか? そんなことするはずがないでしょ」

「さあ……そう言われてもね。人間、いざとなるとわからないもんですよ」

「私をどうするつもりなの?」

「そうですね……どうしましょうか?」

 間宮はまるでからかうように言った。

「私も殺すつもり?」

「え?」

 間宮の顔つきが変わった。「『私も』? どういう意味です?」

「あなたこれまで二人のカードマンと交渉したんでしょ」

「ええ」

「二人はどうなったの? 交渉なんて言いながら、二人ともあなたに殺されたんじゃないの? このリストだってその過程で手に入れたんじゃないの?」

 テーブルの下においた手が震えている。弘子はその震えを抑えるためにぎゅっと手を握り締めた。だが、間宮の反応は意外だった。

「おもしろい人だな……ただの脅しで言ってるわけじゃなさそうですね」

 間宮は煙草を取出すと、その一本を咥えゆっくりと火をつけた。

「ええ……」

「なるほど。ただ、それで私より強い立場にたったつもりですか? それとも……何か情報を掴んでいるのかな?」

 余裕の態度で間宮は紫煙をふぅっと吐き出した。

「木崎勉の部屋を見ました」

「ほぉ、そりゃすごい。わざわざカードマンのもとを訪ねていったんですか。まあ、あなたもカードマンなのだし、お仲間ってことか……それで? 木崎を私が殺したと考えたわけですね。けど、証拠は何もないでしょう。それにしても、そんなことを警察にどう話すつもりです?」

 その通りだった。間宮が木崎を殺したという証拠はどこにもない。

「……」

「私があなたを殺す? そんな心配しないで欲しいですね。あなたがカードマンであることは私にとっても決して損なことじゃなさそうだしね」

「何を企んでるの?」

「さあ……どうしましょうね。それにしてもなぜあなたはカードマンなんかに応募したんです? 賞金のため? 友達を殺すつもりなんですか?」

「そんなこと考えてないわ。ただの偶然よ」

「偶然? 偶然に彼女がターゲットであなたがカードマンに? ずいぶんと出来すぎじゃないですか? ひょっとして……彼女をターゲットに応募させたのはあなたなんじゃないですか?」

「違うわ! 私、そんなことしません! あの子がターゲットになった理由は私だってわからない」

 さすがにむっとして弘子は声を荒げた。

「……そうですか。ま、いいでしょう。あなたはカードマンとしてターゲットを殺すつもりはないんですね」

「当たり前でしょ。友達なんですよ」

「『友達』か。素敵ですねぇ。私もそういう友情っての嫌いじゃないですよ。ま、私にしてみればどちらでも構わないんですがね」

 間宮はそう言って煙草を灰皿にこすりつけた。

「なんですって?」

 その言葉に弘子は驚いた。

「あなたがターゲットを狙わないというなら私も仕事をやりやすい。労せず、カードマンが一人減ったわけですからね。逆に、あなたがターゲットを仕留めたとしても、その時はあなたには賞金が入るわけでしょ」

「まさかその賞金をよこせって言うの?」

「察しがいいですね」

「でも、私は彼女を殺したりしないわ」

「それならそれで構いませんよ。その時には報酬をあげてくれるようあなたから彼女に言ってくれるでしょ。ま、どちらかというと彼女を仕留めてくれたほうが利益はあがりそうですがね。ただそこまで欲張る必要もない」

 そう言って間宮は笑った。

 その笑顔に弘子はぞっとした。一見真面目に見える容貌と共に、平気に人を殺せるような裏の顔を持っている。いったいこの男は何を考えているのだろう。

 一瞬、沈黙が流れる。

「……コーヒーでもいれます」

 弘子はその緊張感に耐えられなくなり立ち上がった。

 その瞬間、リビングのドアがガチャリと開いた。

(早紀?!)

 だが、振り返った弘子の目に写ったのは、見知らぬ背の高い大きな体格の男だった。黒い皮のトレンチコートを着込み黒いサングラスをかけ、黒い帽子をかぶっている。手には大きなトランクを持っているのが見える。

 見たこともない男だった。

「だ……誰……?」

 突然のその男の出現に弘子は身を竦めた。

 間宮を部屋に入れたとき、またいつものように玄関の鍵を締め忘れたろうか……いや、間違いなく閉めた記憶があった。だとしたらどうやって?

「誰だ?」

 間宮も驚いたように立ち上がった。その表情から間宮の知り合いでもないということがわかる。

「掃除人だ」

 男はぼそりとつぶやくとトランクを足元に置き、視線を間宮に向け歩み寄ろうとした。男に間宮は危険な雰囲気を感じ取っていた。

「何だおまえは……」

 間宮の右手が無意識にポケットから拳銃を掴み出した。

 だが、男はそんな間宮の動きを気にも止めないように間宮に近づいていく。その動きを弘子はじっと見つめた。身体が動かなかった。

「きさま……」

 その男の動きに間宮は男に向けて拳銃を突き出した。だが、その動きを男はまるで読んでいたように間宮の拳銃を持つ手を右手で掴むと簡単に間宮の背後にまわりこんだ。その動きは体に似合わず素早く、間宮はあっというまに男に動きを封じられた。

 間宮の手から拳銃が落ちる。

「ぐぁ……」

 間宮の顔が苦痛に歪む。

 男の左腕が間宮の首を抱え込み、男はその腕に力を込めた。

 次の瞬間、ゴキッっという鈍い音が聞こえ、間宮の顔がまるで逆方向を向いた。間宮の瞳から光が失われていく。男が間宮の体を放すと、その体は糸の切れた操り人形のようにずるりと床に落ちていった。

「ひっ!」

 弘子の口から悲鳴が漏れる。

(私も殺される?)

 足が竦んだ。

 男は弘子を見ると。再び口を開いた。

「ゲームに交渉は不要だ。ゲームの参加者はカードマンとターゲットのみ。それ以外の参加は認められない」

 ぶっきらぼうな言い方だったが、それでも弘子はその意味を理解した。

 間宮の行動をデッド・ゲームの管理をしている人間は許さなかったのだ。そして、この[掃除人]こそがゲームの監視をしているのだ。

 男は間宮の体を再び持ち上げると持ってきたトランクを開き、そのなかに間宮の体を押し込めた。

 弘子はその様子を身動き一つとれずにじっと見守った。

 カードマンである木崎、加東を殺し、さっきまで自分を脅し自分が恐れていた男が、今はただの死体となりトランクのなかに押し込められている。

「わ……私はどうなるの……?」

 思わず弘子は男に訊ねた。

 その声に男はちらりと視線を弘子へ向けた。

「俺はゲームを壊すものを排除するだけだ。カードマンであるおまえはゲームに参加する資格がある」

 そういうと男は間宮の死体を押し込めたトランクを軽々ともちあげるとリビングを出ていった。

 部屋のドアが閉まる音がする。

 ふらふらと弘子はリビングから玄関を覗いた。鍵が閉められている。男はこの部屋の鍵を持っているのだろうか。これまでもずっと見張られてきたのかもしれない。そう思うと恐ろしかった。

 思わずその場にしゃがみこんだ。リビングの上に置かれた間宮の資料が目に入った。床には間宮の拳銃がそのまま落ちたままになっている。

(隠さなきゃ……)

 よろよろとふらつく足を無理に動かすようにしてテーブルに近づくと、弘子はその上の資料を掴んだ。

 自分の名前がそこに書かれている。

 思わず破り捨てようとして、その手を止めた。

「今井達夫」

「土居瞬平」

 その名前を見た。カードマンに関する情報が細かく書き込まれている。

 残ったカードマンは自分を除いてあと二人。間宮を失った今、誰もこの二人を止めることを期待出来ない。

(私がやらなきゃ……)

 床に落ちた拳銃をじっと見つめていた。


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