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デッドゲーム  作者: けせらせら
16/29

デッドゲーム・16

 二月二日(木)

  PM 6:18


 田川勇は昨日と同じように駅の階段付近で早紀を待っていた。ミニバンは駅の駐車場に止めてある。

 本来、会社まで迎えに行くようにと間宮から指示されていたが、早紀からは変な噂がたつのが嫌という理由で駅からマンションまでの警備を依頼されていた。仕事が終わったときに早紀から連絡を受け、駅までに迎えにいくことになっていた。電車が駅に着く時間はすでに調べてわかっている。

 半年前まで田川は警察官として派出所勤務をしていた。子供の頃からの実直な性格は警察官という職業にぴったりあっているように思えた。だが、ある日職務質問のために止めた車が突然車を発進させ、同僚一人を跳ねとばし逃げようとした。田川は思わず車に対し発砲し、その弾はドアを貫通し運転をしていた若者の足に命中した。車に乗っていたのは一ヵ月前にコンビニ強盗を犯し逃走中の少年二人だった。少年たちはコンビニの店員にナイフで大ケガを負わせている。当然、田川の行為は正当防衛となるはずだった。しかし、マスコミは相手が未成年の少年であることで田川の行為を責め、それに押される形で警察は田川を減給処分とした。

 田川にとってその減給処分は大きなショックだった。正しいことを行なったと信じていた思いを裏切られたこともあったが、何よりも経済的にも大きな痛手だった。田川は二年前に結婚し、事件の二ヵ月前に子供が生まれていた。決して生活は楽ではなかった。妻のために、子供のために田川はなんとかしなければならなかった。

 学生時代から柔道を習い、警察官の全国大会ではベスト4まで残ったこともある。警備会社のガードマンという職業は田川にとっては好都合の仕事だった。

 間宮からは今回の仕事については詳しいことは聞いていない。駐車場警備についていたところを突然、間宮から呼び出され今の仕事につけられたのだった。だが、そんなことは田川からみればさほど重要なことではなかった。ただ間宮に言われたとおりに早紀の通勤時間、そして深夜に彼女を護ればいい。それが妻と子供のためになると信じていた。間宮からもこの仕事がうまくいけば特別ボーナスを支給すると言われている。

 間宮は自分よりも一つ年下だったが、その関係はまったく逆のものになっていた。

 冷たい風の吹くなか、田川はじっと早紀を待った。長い間の交番勤務で待つことには慣れている。

 電車の到着を報せるアナウンスが駅の構内に響き、やがて早紀が姿を現した。田川は彼女を見つけると軽く右手をあげた。


 二月二日(木)

  PM 6:32


 携帯のメール音で間宮ははっとして顔をあげた。

 PCの画面から視線を移し、目をこすりながら携帯を開く。

[今、藤谷さんをマンションにお送りしました]

 田川からの報告のメールだった。

 すでにかなりの量のUSBメモリやインターネットログなどの解析を終わっていた。そのうちの半分がアダルト関係の写真や映像で残りの半分がインターネットの掲示板のログだった。木崎はさまざまな掲示板やチャットに顔を出し、多くの掲示板で木崎は自己中心的な議論を相手にぶつけ、常に『荒らし』呼ばわりされていた。そして、その都度木崎はその相手の情報を調べあげネットストーカーと化していた。時には相手のホームページへ不正アクセスし書き替えている場合もあった。

(典型的なネットオタクか……)

 それでもハッカーとしての能力は評価出来た。ファイルのなかには携帯電話会社から盗みとったのだろうと思われる顧客情報や自分の大学の学生名簿などが存在していた。時にはその住所録をインターネット上で売買していた形跡まであった。

 確かにこれらの情報は間宮にとっても宝の山だった。だが、今捜しているのはあくまでもデッド・ゲームの情報だ。まだデッド・ゲームに関する情報は見つかっていない。それでもまだ半分以上のUSBメモリやディスクが残っている。

(徹夜になるな……)

 そう思いつつ、間宮は顔をあげると大きく背伸びをした。そして、早紀の携帯の番号をメモリから呼び出した。田川からの報告で早紀が無事なことはわかっていたが、とりあえずクライアントを安心させることも仕事の一つだ。

――はい

 早紀の声が聞こえてくる。

「間宮です。警備の田川から今マンションに送りとどけたことの連絡を受けました。問題ありませんね」

――ええ、問題ありません。間宮さんの言ったとおり、今朝はコールマンからの電話はありませんでした。本当に交渉はうまくいったんですね。

「もちろんです。二度と彼があなたに連絡するようなことはありませんよ」

――ありがとうございます。間宮さんのほうはどうですか?

「こちらも順調ですよ。昨夜、あの後加東との交渉もうまくいきました」

――本当ですか?

 早紀の声が弾むのが伝わってくる。

「ええ、大丈夫です。ちなみにもう一人の今井ですが、彼は現在仕事の都合で日本にはいません。週明けに帰国する予定なので、帰国直後に連絡をとるつもりです」

 今井の件は会社の人間に調査を依頼し、その結果をメールで受け取っている。

――あの……あと二人は?

「それは現在調査中です」

――まだわからないんですか?

「ええ、けれどゲームがはじまってまだ二日。一般の人がそんな短い期間であなたを見つけられるはずがありませんよ」

――大丈夫でしょうか?

「大丈夫。近いうちにカードマン全ての情報をあなたのもとへお持ちしますよ。安心してください」

 そう言って間宮はまだ山になっているディスクの山をちらりと見た。自信はある。このディスクのなかに間違いなくデッド・ゲームに関する情報が眠っているはずだ。

 その言葉に希望に満ちた早紀の声が聞こえてくる。

――よろしくお願いします

「ええ、期待していてください。それではまだこれから仕事がありますので」

――あ、はい

 電話を切ったあと、間宮は再びPCの前に座った。

(さてと……)

 間宮は再び解析作業に取り掛かった。


 二月二日(木)

  PM 6:35


 間宮からの電話を切ると早紀は弘子に間宮の言葉を伝えた。

「また一人、加東って人との交渉が終わったんですって」

 そう言って早紀は間宮からもらったリストに載っている加東の名前のうえにマジックで線をひいた。

 その言葉に弘子は今日行なった木崎の部屋の情況を思い出した。

 今日、仕事を休み木崎の部屋へ行ったことを弘子は早紀に告げるつもりはなかった。早紀は間宮を信じている。そして、間宮が行なったことで早紀の危険が減ったこともまぎれもない事実だ。木崎が間宮によって殺されただろうということを伝えたところで早紀を苦しめることにしかならない。

「そう……」

 間宮の交渉がうまくいったということは、きっともう一人も間宮によって殺されたということだろう、と弘子は考えた。

「もう一人は今仕事で国外で来週に帰国するんですって。きっとあの人ならその人とも交渉をまとめてくれるわ」

「よかったわね……」

「あとまだ正体がわからないカードマンの二人のことも今調べてるらしいわ」

 うれしそうに話す早紀の言葉に弘子は憂欝になった。

 もし弘子がカードマンとわかったら早紀はどう思うだろう。

 間宮は弘子がカードマンであることを調べるだろうか。もし、調べたら……。

 身体が震えた。

「ねえ……」

 突然、早紀が不安そうな声を出してカーテンから窓の外をそっと覗いた。

「どうしたの?」

「なんか誰かに見られているような気がしたの」

「え?」

 弘子も窓の側に近づく。「そんな……ここ何階だと思ってるのよ。こんなところから人が入ってくるわけないじゃないの」

「うん……そうよね」

 そう言いながらも早紀は不安そうに部屋を見回した。


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