デッドゲーム・13
二月一日(水)
PM 8:53
早紀はじっとカードマンである三人の名前を見つめていた。
この人たちはなぜカードマンになったのだろう。本当に自分を狙うのだろうか。早紀の頭のなかは会ったこともないカードマンのことでいっぱいだった。
やはり間宮からもっと詳しい資料をもらったほうが良かったかもしれない。
マンションの外では田川が今夜も警備を続けてくれている。
「そんなもの見てたって解決にはならないわよ」
めずらしく弘子も仕事を早めに切り上げ帰っていた。弘子にとっても早紀のことが心配だった。
「うん……わかってるんだけどね」
今は間宮を信じるしかないと早紀にもわかっていた。その早紀の思いは弘子にもよくわかっていた。
「あいつ……大丈夫かな?」
その時、携帯電話が鳴った。一瞬コールマンからではないかと身構えたが、携帯電話のディスプレイに映った「間宮」の文字にほっとした。
「はい……」
――藤谷さんです、間宮です。何か変わったことはありませんね
「ええ、今のところ大丈夫です。あの……カードマンのことは……?」
――大丈夫、順調ですよ。もうコールマンからの電話に悩まされることはないでしょう
電話越しに間宮の明るい声が聞こえる。
「それじゃ、交渉はうまくいったんですね」
――ええ、問題ありませんよ
「ありがとうございます」
思わず電話越しに頭をさげた。
――いえ、これが私の仕事ですから。ただまだカードマンは四人います。くれぐれも注意してくださいね
「わかりました」
――では、また連絡します。これからまたすぐにもう一人交渉にはいらなきゃいけないものですから
間宮の言葉がとても頼もしく聞こえた。
「はい、お願いします」
そう言って早紀は電話を切った。
「どうしたの?」
電話のやりとりを聞いていた弘子が声をかけた。
「コールマンとの交渉がうまくいったらしいの。もうコールマンから電話はこないだろうって!」
「そう……」
そう言って弘子は嬉しそうに話す早紀を見つめた。
間宮は一件の居酒屋をじっと監視していた。
早紀に木崎についての真実を教えるつもりはなかった。すでに知り合いの暴力団員によって木崎の死体は処分されてしまったことだろう。海の底に沈んでいるのかもしれないし、ミンチになって豚の餌になっているのかもしれない。間違いなくいえるのは決して木崎の死体が世間に出ることはないだろうということだ。死体さえ処分してしまえば事件が発覚することはない。いずれ木崎の家族から警察に届けが出るかもしれない。だが、それはずっと先のことだろう。木崎の件が事件として発覚したところで、木崎と間宮を関連するものはデッド・ゲームだけで、それを知る人間も早紀たちだけに過ぎない。早紀が木崎の死を知ったところで、彼女たちが警察に訴えるようなことはないだろう。もし、そんなことがあったとしても――
(その時は彼女たちにも消えてもらえばいい)
今、自分がやらなければならないことはゲーム期間中に早紀を護ることだけで、その後はなんとでもなる。
すでに間宮は次のカードマンとの交渉に入ろうとしていた。だが、その交渉方法は木崎を殺したことで大きく変化しようとしていた。
一組の若い男二人が居酒屋から出てくるのを見て間宮の顔つきが変わった。
二人は店の前で一言二言交わすと一人は駅方向へ、そしてもう一人は駅とは逆の方向へと別れて歩き始めた。
間宮は駅とは逆へ向かった若い男のことを尾行するように歩き始めた。
その男のことはすでに調べあげている。
『加東静夫』、早紀へ渡したリストのなかには『ドッグ』という呼び名も含めて記されている男だった。
あとをつけながら間宮は確認するように詳細な情報の記された資料にちらりと目を通した。
大学卒業後、すぐに製薬会社に就職し、その能力は会社のなかでも高く評価されているらしい。だが、反面粘着性の気質があり大学時代に付き合っていた女性に対しストーカーまがいのことを行い、相手の弁護士から訴えられそうになったこともあるらしい。
(どう始末するかな……)
酒に酔い気持ち良さそうに裏通りを歩いていく加東のあとを間宮は少しずつ間を詰めながらつけていった。
加東は右に左にほんの少し体を揺らしながらふらふらと歩いていく。あれではほんのちょっと小突いただけでも倒れてしまうだろう。
(簡単そうだな……)
加東の家もわかっている。
ここから十分も歩いた公園のすぐ隣。人気のない公園。そこならば――
(すぐに終わらせられる)
間宮の心は決まっていた。