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デッドゲーム  作者: けせらせら
10/29

デッドゲーム・10

 二月一日(水)

  AM11:34


 弘子には飲み友達、遊び友達というのは山ほど存在している。だが、本気で悩みごとを相談できるのは今、目の前に座っている山岸孝則を除いてはいない。雑誌の記者という同じマスコミ関係で働いているということもあり、これまでも何度か悩みごとを相談してきた。三歳年上で27歳の山岸のことを、一人っ子の弘子は兄のようにも思い慕っていた。そして、山岸もまた弘子のことを妹のように可愛がってくれていた。

 弘子は考えたあげく、デッド・ゲームのことを山岸に相談することにしたのだ。もちろん自分がカードマンになったことを話すつもりはない。それでも山岸ならばデッド・ゲームについて何か情報をもっているかもしれない。

 弘子は紅林のマンションに原稿をもらいに行く前に、山岸の勤める出版社のすぐ近くの喫茶店で会って事情を話した。

 弘子が考えたとおり、山岸もジャーナリストとしてデッド・ゲームについて、それがどんなものであるかは知っていた。

 弘子の話を山岸はコーヒーを飲みながら黙って聞いていたが、やがて、話が終わると喫茶店のなかをぐるりと見回した後で口を開いた。

「それでおまえはどうしたいんだ?」

「どうしたいって……」

「なぜ、おまえの友達がターゲットになってしまったのかを知りたいのか? それともデッド・ゲームの実態を掴みたいのか?」

「そんなこと……もちろん、それで彼女が助かるならそれも考えるけど」

「今からゲームのことを調べ、運良くゲームの実態を知ることが出来たからといって、その友達が助かるとは限らないんじゃないか?」

 山岸の言葉に弘子は頷くよりほかになかった。

「私の言いたいのは――」

「おまえの言いたいことはわかるよ。それを調べることで何か助かる方法が見つかるんじゃないかって言うんだろ。俺もその考えが間違っているとは思わないよ。俺がおまえの立場ならやっぱりそうするかもしれない。俺にも弟がいるからな……年がら年中パソコンの前でゲームにはまっているバカな弟だよ。それでもやっぱりあいつがそんなゲームに巻き込まれることになれば、俺はあいつを助けるために必死になるだろう。だが、今度の場合それをやるにしちゃあもう時間がないんじゃないか?」

「時間……」

「そんなに簡単にデッド・ゲームの全貌を調べるようなことが出来れば苦労はしないよ。デッド・ゲームはすでにはじまってしまっているんだろ? お前に出来るのは今日からゲームが終わるまで、ひたすら彼女の傍で励ましてやるだけだ。そして、その間宮って男を信じるほかに手はないだろうな」

 確かにそれが現実だった。それが現実なのは自分でもわかっているつもりだった。ただ、それを自分では認めたくなかった。早紀が今危険にさらされている。それをなんとかして自分の手で助けたかったのだ。

 それにあの間宮という男が動くことによって、何か悪いことが起こるような気がしていたのだ。

(もしあの男が私のことを調べだしたら……)

 出来ることならば間宮が自分のことを調べる前になんとかしたいという気持ちだった。

「まったく嫌なゲームだよな」

 うつむいて考えている弘子に山岸は静かにつぶやいた。

「うん」

「俺の想像だけどな――」

「え?」

「俺だってジャーナリストの端くれだ。これまで調べたことがなかったわけじゃない。以前、噂をたぐって調べてみようとしたことだってあるんだ」

「何かわかったの?」

 その山岸の言葉に弘子は顔をあげた。

「いや、これといったことは何も。まあ、片手間で調べられることじゃないのかもしれないがな。それで一つの仮定をたててみたんだ……」

 そういいつつも山岸はまだ話していいかどうかを迷っているように見えた。

「聞かせて」

「たいした話じゃないぜ」

「いいから聞かせて」

「デッド・ゲームは言わずとしれた危険すぎるゲームだ。殺人を伴うゲームとなれば法律違反なのは当然だろう。警察もこれまで何度か捜査もしているし、摘発しようとしている。だが、なぜか実態は掴めない。裏側の事情など何も知らないバイトの若者に事情を聞いておしまいだ。これじゃ掴む気がないって言ったほうがいいだろう。警察は型式だけ問題にするだけで、決して本気でデッド・ゲームをどうにかしようなんて思っていないんじゃないかな」

「どうして?」

「もし、あのホームページが国営だとしたら?」

 山岸は声を低くして囁いた。それは弘子にとっても意外な言葉だった。

「国営? そ、それって――」

「もし、そうだったとしたらこれほどまでに野放しになっているってことも不思議じゃないだろう。一度、俺の友人がデッド・ゲームのことを記事にしようとしたことがあるんだ。まあ、三流のゴシップ誌だけどな」

「それで?」

「記事を仕上げて編集長もオッケーをだしたところまでは良かったんだが、どこからか圧力がかかったらしい」

「どこから?」

「そいつが掴めないんだ。編集長だって知らされなかったらしい。ただ、逆にそれほどの圧力をかけられる相手ってことを考えてみりゃ――」

 そう言って山岸は笑った。

「国が何のために?」

「さあ……そんなことはわからない。そんなことをやってどんな得があるのか」

「でも、それが本当ならゲームを止めるなんて無理ね」

「そうだな。まあ、よほどの根性があるなら別だがね。マスコミで取り上げれば警察だって動かないわけにもいかない。そうすりゃ、今回のゲームがうやむやに終わる可能性だってないわけじゃない。どうだい? おまえだって雑誌の編集者なんだ。おまえの雑誌で取り扱ってみたら?」

「うちは文芸誌よ……それに、そこまで私には勇気ないわ」

「まあ、そんなことしないほうが利口だな。へたにそんなことしようもんなら……」

 山岸は右手で首を絞められるような仕草をした。

「怖いわね」

「まったくだ」

「結局、ゲームが終わるまで何も起こらないことを祈るしかないわけね」

「役に立たなくて悪いな」

 山岸はそう言って立ち上がった。

 マスコミも手を出せないデッド・ゲームの恐怖を弘子は感じていた。


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