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60秒間のメディテーション

作者: うろ




 大事な用事があるから起こしてほしいのだという。シカゴの彼に、いわゆるモーニングコール。こちらは深夜なのだけれど、夜更かししてネットサーフィンしている私なら大丈夫だろうと思った訳だ。まあ、実際そうなんだけれど。


 パソコンのウィンドウの片隅にある時間に目を遣る。次いでその隣にある目覚まし時計にも。


 [00:50][12:50]


 彼はまだ、眠っているのだろう。


 パソコンをスリープモードにして、頭からかぶっていた布団を這い出る。


 向こうで言う朝10時に起こしてほしいとのことだった。時差の計算は私に任せる辺り、彼らしい。ところでその時間だと既に寝坊している気がするのだけれど、どうなのだろう。大方、用事の時間のギリギリまで寝ていたいということなのだろうけれど。


 縁側に出る。足音、布の擦れる音、冷たい空気を吸う音、湿って生暖かい息を吐く音、肩口で髪の毛が揺れる音。普段は気にならない微細な音が聞こえてくる。そしてそれらは、ぜんぶ私ひとりが出す音なのである。


 携帯電話を開く。


 [00:52]


 まだまだ。

 まだまだ。


 見上げるとやけに黄色い月があった。星は見えない。


 私の周囲はこんなに真っ暗だというのに、どこか遠くでは未だ起きている誰かの部屋が、酔っ払いに手を揉むお店の看板が、らんらん点っているのだろう。負けるな星よ。地上からの光なんかに、天の光が負けるな。


 [00:53]


 応援してみたけれど無反応で、相変わらず見えない星たちを、私は心の中に思い描いた。そうしてそんな星たちは、私の心に静かに静かに沈んでいった。


 約束の時間の10分も前にこうして用意して、私は一体何をしているのだろう。


 [00:55]


 これから5分後に目覚める予定の彼に思いを馳せてみた。きっと昨晩眠ったのは、随分遅い時間だったのだろう。でなければ他人の助けなどなくとも、彼は一人で起きられるはずなのだから。すぐに私に頼ろうとするのもまた、彼なのだけれど。


 くらい闇夜に取り囲まれて私は、あかるい朝日に包まれて未だ眠る彼に、ほのかに会いたいと思った。


 不意に空気の冷たさに震う。向こうは昼間さえ寒いようだけれど、こちらの夜の方が冷たいに違いない。寒くなくとも、冷たいに違いないのだ。


 …いいや、違う。あたたかな布団にくるまった彼も、その実冷たい倦怠感に身を沈めているのだ。


 どこか居心地悪く私の電話を待っているのだ。


 [01:00]


 携帯を開いて、それから目を閉じた。


 …2、3……6、7、8……




 ……57、58、59、60。


 [01:01]


 これから朝に向かう私から、朝のまっただ中にいる彼へ。呼び出し音が鳴り響く。寝ぼけ声の彼に、おはよう、そしておやすみ。


 いつか彼と満天の星空を見上げて、顔を見合わせておやすみを言いたい。そうして心置きなく眠って起きて、寝ぼけ顔の彼に、おはようと言いたいと願う。切に、切に。







 習作。


 日本とシカゴの時差は15時間。日本の方が早いです。



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